14.こうして主人公は大事な情報を聞きそびれる。
俺がこのセカイに来てからおおよそ一日が経つ。
その間に、信じがたいことが山ほど起きた。
例えば、唐突にラブコメ的世界観に放り込まれたこと。
例えば、いかれたサイズの桜の樹を見たこと。
例えば、勝手に設定を変更して、俺の近くに割り込んでくるヒロインに出会ったこと。
どれも
けれど、一日もすれば慣れる。そう、思っていたんだけど、
「……とんでもねえな」
「どうした?私の顔が綺麗すぎるか?」
決め顔で俺の方をのぞき込む自称トゥルーヒロイン様を無視し、反対側の隣を見る。
そこには昨日無かったはずの机と椅子が鎮座している。
考えてみれば、その可能性はあった。
このクラスの、席の並びはそれだけ不自然だったのだ。
なにせ、俺の机だけが不自然に孤立した形になっていたのだ。
当然窓際となる左隣と、逆側の左隣には空間があったにはあった。
だけど、
「まさか、両方とは……」
それを聞いた高島がさらりと、
「はっはっはっ、
「今おかしなふりがなを振らなかったか?」
「さあ、どうだろうな?」
ひらりとかわす。
ほんとにつかみどころがない性格だ。
が、皮肉なことに、それが彼女を、
トゥルーエンドが存在する作品は基本的に、作品構造上SFやファンタジーが混じりこんでいる。
そして、その秘密そのものや、そこに隣接しているのがまさにトゥルーエンドのヒロインなのだ。
と、言う訳で、その手のヒロインは割と、良い言い方をするのであればミステリアスさを持ち合わせていることが多く、高島のつかみどころのなさと、ファンタジーないし、SFが入っている感じは割とそれっぽくはあるのだ。
だからこそ、今、現段階では攻略出来ないのだろう。そもそも攻略出来ないってなんだよ?としか思わないのだが、そのうち分かるんだろう。え、分かるよね?
俺は気を取り直し、
「はぁ……んで、その意外性こと、転校生の子はどんな子なんだよ」
高島はあきれ顔で、
「君……君はあれか?ちょっとクイズが解けないとすぐ答えを見るタイプか?」
「別にそんなことは無いが……それくらいなら答えてくれるんじゃないかって思っただけだ。どうせそのうち知ることになるしな」
「なるほど、なんでもフラゲしたいタイプか」
「例え方よ」
「まあ、いいだろう。転校生
「天才って……またざっくりとしているな」
「そうだな……だが、
「俺が読める範囲にある……ってことか」
「そうだ」
「ふむ……」
考える。
転校生でありメインヒロイン。ということは当然俺とは仲良くなる前提にある。その先にあるとすれば部活動なんかが一番手ごろだ。と、なれば、
「え、もしかして小説?」
「正解だ」
「マジか」
「マジだ。小峯詞葉は天才だ。しかもただの天才じゃない。百年に一人のレベルにある」
「やば。なんでそんな天才が、ひょっこり転校してくるんだよ」
「そこは自分で探ることだな。ともかく、そのレベルの天才ではある。あるのだが、当人がそのことに気が付いていない。つまり開花前だ」
「それを俺に開花させろって?」
「……続きは自分の目で確かめてくれ」
「クソみたいに薄い攻略本みたいな文言やめてくれる?」
「大丈夫!高島さんのアドバイスだよ!」
「不安しかないな」
「てへ☆」
舌を出して愛嬌をアピールしているが、全くかわいらしくない。むしろ、かわいらしくしようという意思が前面に出てて怖い。
小峯詞葉。
小説の天才。
ただし、まだ開花前。
なるほど、それを開花させるのがメインのイベントになりそうな予感はする。ただ、そうなると、
「……なあ、高島」
「なぁに、宗太郎君☆」
「その眼球に星がきらめいてそうな喋り方やめろ。俺がその転校生を開花させられる……ってことはだ。俺にその才能があるってことだよな?それは、このセカイに来てからついたものなのか?それとも、元から持ってるものなのか?」
高島がぽつりと、
「……………………」
俺に聞こえないくらいの小さな声で何かを呟く。
「なんて?」
「いや、なんでもない。それより、ほら。担任が来たぞ」
促される。前を見れば、確かに担任が入ってきていた。ホームルームが始まる。恐らくは……というかほぼ間違いなく、転校生は俺の右隣に座るはずだ。
俺は前を向いて、担任の言葉に耳を傾ける。
担任から紹介され、廊下から、教室へと足を踏み入れる。
清楚という言葉がそのまま服を着て歩いているような少女だった。
髪は肩より少し長い程度で、一体どうやってやってるの?と思わず二次創作の絵師が言いたくなるような編み込みをしている。制服の着こなしもきちんとしていて、真面目さが伝わってくる。そんな彼女が教卓に向かい。担任に促され、挨拶をする。
「初めまして。小峯詞葉です。こんな中途半端な時期ですけど、仲良くしてくれると嬉しい、です」
そう簡潔に述べる。
なるほど、出会いとしては良い。
メインヒロインっぽさがある。
そう思う。
他方、より衝撃的な出会いをした「トゥルーのヒロイン」はと言えば、窓から外を眺めている。その口元も、表情も、こちらからは伺いしることが出来ない。だから俺は、
「……なんでそこまで頭が回るのに、自分の周りには目がいかないんだ……馬鹿者」
彼女が零した愚痴に最後まで気が付かなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。