13.妹ルートは割と変化球になりがち。

 翌朝。


 やっぱりというべきだろうか。俺の登校シーンにはこまちの他に高島たかしまが追加された。


「ほんとにナチュラルにいるんだな……」


「なんだ、宗太郎そうたろうは私がいたら不満か?」


「いや、そういうわけじゃないんだけど……」


「そうか分かった。宗太郎は妹とイチャイチャちゅっちゅしながら学校に向かいたいんだな。なるほど、妹ルートか。なかなか面白い選択だが、ヤりなれている宗太郎ならそれくらいのイレギュラーがあっても平気というわけか」


「平気でもないし、ルートに入ろうともしてないし、イチャイチャちゅっちゅもしないし、そもそも「やりなれている」の発音がなんか不穏なんだよ」


「おお、流石主人公。鮮やかなツッコミ」


「はいはい分かった分かった」


 正直に言う。


 めんどくせえ。


 いや、だってねえ?こいつ俺の立ち位置とか、俺の覚えてない俺の過去とか、そういう諸々を知ってるっぽいんだよ。だからなのかは分からないけど、俺の弄り方も、俺と周りの関係性のひっかきまわし方も、突っ込ませるボケかたも、全部熟知してる気配があるんだよ。それがまあ、大分面倒くさい。


 こういう時は相手しないに限る。


 と、言う訳で、


「そういえばこまち、今日の弁当はどんな…………こまち?」


 話をこまちの方に振ってみよう……と思ったのだが、何故か俯いてぶつぶつと呟いている。


 やがて、当人の中で何か決心がついたのか顔を上げて、


「べ、別に、私は、お兄と二人で登校したいとか、そ、そんなことは無いからね?分かってると思うけど、ほら、一応、ね?」


 必死で弁明してきた。


 別に俺はそんなことを思ってはいなかった。いなかったけど、攻略対象っぽい妹となればまあブラコンだろうという想定はつくので、それくらいの感情が無意識下にあってもおかしくはないとも思っていた。


 けど、ここまで強いとは思っていなかった。どうやら、こまちは俺が思っているより大分ブラコンらしい。


 一体、どうしてここまでになったのだろう。


 もちろん、最初から兄を慕っているという可能性は否定できない。けれど、それはあくまで家族の枠組みでの話だ。今のこまちが持っている感情は明らかにその枠組みを超えて、男女の恋愛に片足を踏み込んでいる。そこまでになるには当然ながら、なにかしらの「きっかけ」が必要なはずなのだ。


 けれど、俺にはその「きっかけ」の“情報”がない。


 案外そんなものなのかもしれない。惚れ込んだ当人からしてみれば、一大イベントだけど、実際惚れさせた方からすれば、いつもやってること、とか。


 そんな天然人たらしみたいなムーブを俺が出来る気はしない。しないけれど、現状から推察すると、その手の「俺は覚えてないけど、こまちは覚えている系」のイベントとがあるはずなのだ。


 そして、そこがきっと、こまちルートにはいるためには重要になってくる……のだろう。多分。


 っていうか、ほんとに妹ルートに入るの?近親相姦じゃん。まあ、妹と仮想結婚式上げるラブコメもあるからいいのか。いいことにしよう。このセカイは俺が生み出した夢である、という可能性に関してはこの際考えないことにしたい。


 だってそうだとしたら、俺が妹と恋愛したりあんなことやこんなことを叶えたトンデモ野郎ってことになっちゃうじゃん?いやまあ、嫌いじゃないけどね、妹ルート。何よりもまず近親相姦っていうインモラルな響きが良い。人間なんだって禁止されればやりたくなるもんだ。多分ね。


 さて。


 そんなわけで、今はまだ、深追いする気はない。


 そもそも、妹のルートなんて変化球も変化球を最初に触れることは無いだろう。今みたいにセカイの法則が分かっていないなら猶更だ。その根幹に関わりそうなヒロインを選ぶのが一番だ。


 というわけで、


「分かった分かった。でも、そうだな……たまには二人で登校するのもいいかもな」


「そ、そう、だね。うん。そうかも」


 それを横で聞いていた高島が、


「おいおい、私を仲間外れにするのはやめてくれよ、はっはっはっはっ」


 なんだかよく分からないキャラ作りで高笑いしていた。ホント、癖強いなこいつ。

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