Ⅱ.表と裏の邂逅

12.セカイの姿は簡単に変わりて。

「それでは全員揃ったところで」


「うむ」


「「いただきます」」


「…………」


 なんだろこれ。


 なんだと思います?


 俺が家に帰ってきてからは一瞬だった。エプロン姿の高島たかしまに促されるままに食卓に座らされ、かと思えばあれよあれよという間に、どんどんと食事が配膳されていき、ものの数分で豪華な晩御飯の出来上がりだった。


 参加人数は三人。俺とこまち、そして当然のように高島。


 客人、という扱いならまあ分かる。


 俺の知り合いとして居座っているのでも分かる。


 けれど、今の高島はそのどちらでもない。ただなんとなくこまちと仲が良く、苗字も違うのに、家族のように食卓に座って、一緒に挨拶をしているのだ。


 当然、そこに対しての説明はなにもない。こまちからないのはまあいい。高島から無いのは意味が分からない。お前が説明を放棄したら誰も分からんだろう。このまま進めるつもりか?


 と、当然の疑問を抱いていたら、こまちが、


「お兄、どしたの?具合悪い?」


 高島がさらっと、


「きっとあの日なんだよ」


「えっ、あの日!?…………ってなに?」


「さあ」


 放棄するな。


 お前が始めた物語だろ。


 流石にツッコミが不在すぎるので、話に参加する。


「俺にあの日はない。ただ単純に説明なしでどんどん進むから戸惑ってただけだ」


 こまちが、


「説明……あ、今日の唐揚げ、ちょっと凝ってみたんだよ」


 ありがとう、こまち。でも、そこじゃないんだよ。そこについて説明を受けても、愛しの妹が兄の為に頑張って晩御飯を作ってくれてるっていう、既にある情報が上書きされるだけなんだ。ごめんね。でも唐揚げ美味しいよ。


 それ以外のおかずだって完璧。これならきっといいお嫁さんになるね。まあ、そんなことは俺が許さないんだけどね。誰がこんな可愛い妹を嫁になんぞやるもんですか。ふざけるんじゃあないよ。潰すぞ。


 とまあ、妹の明るい家族計画とそれに対するお兄ちゃんの些細な心配はともかくとして、


「や、それはそれで嬉しい。嬉しいんだが。今聞きたいのは、高島、お前だ」


「なんだ急に。愛の告白か?」


「違うわ。第一、仮にそれをしたとしても、お前は受け取らないだろ?」


「まあな」


 まあな、ではない。何故そこで決め顔を出来るのか。


 ため息。


 俺は高島のボケは放置し、


「そうじゃなくて……分かるだろう。スムーズに入り込み過ぎだ。あまりにスムーズすぎて、今何状態なのかが全く分からんぞ」


 隣にいたこまちが「入り込む?」と不思議そうにしたが、スルーしておく。この齟齬は絶対に埋まらないからな。ぼかしておくに限る。


 当の高島は、


「説明することは出来る……が、それではつまら……宗太郎そうたろうが面白くないだろうから、ちょっとしたクイズにしよう」


「今、つまらないって言おうとした?」


「なあに、難しくないだろう。宗太郎のことだ。今の状況から、どんな可能性があり得るか、直ぐに出てくるんじゃないのか?」


「今つまらないって言おうとしたよね?ねえ?」


「ほら、考えてみろ。苗字が違う。けれど一つ屋根の下だ。難しくはないと思うがな」


「全く……」


 再びため息。


 どうやら自分に都合の良いことしか聞こえないように出来ているらしい。俺よりもよっぽどラブコメ主人公向きなんじゃないか?こいつ。


 まあいい。


「どんな可能性があるか……か」


 考える。


 俺とこまちの関係性は兄妹。高島とこまちは仲が良い。しかし、苗字は違う。単純に考えれば幼馴染……というのが一番説明をつけやすいが、残念ながらその枠は既に埋まっている。


 特殊な作りでもしていない限り、幼馴染が二人、しかも、一人だけこうやって晩御飯を一緒に食べる仲というのはなかなか考えにくい。と、なれば、幼馴染ではない。けれど、それよりは近い関係性。


「質問いいか?」


「もちろん。そうじゃなくちゃ」


「今、お前はこの家のどこかで寝泊まりしている」


「そう」


「両親の仕事は多忙である」


「そう」


「こまちと趣味が一緒」


「部分的にそう」


 なんかどっかで見たことがある受け答え方だな……まあいい。でも、これで大分見えてきた。両親が多忙で、この家に寝泊まりしていて、こまちと似た趣味がある、となると、


「……両親が仕事の都合で海外に移り住むが、肝心の当人は絶賛高校生。なので、知り合いであり、子ども同士、とくにこまちと仲が良いということで、この家に転がり込んで現在に至る」


 高島は指でわっかを作り、


「正解だ。流石はラブコメマスターだな」


「なんかそれ恋愛エアプみたいだな……」


「違うのか?」


「やめて。ナチュラルな反応やめて。冗談では済まされない空気で俺をみじめな気持ちに陥れないで」


 まあ、実際のところがどうなのかは分からないんだけどね。死の直前しか覚えていないということは、それ以前にどんな恋愛をしてきたのかも分からないということだ。


 とはいえ、無事当たったようだ。要するに居候ってやつ。で、趣味かなんかがこまちとにているから、仲がいいっていうそういう話。


 きっと三人で一緒に登校しているのだろう。どうやったのかは分からないが、今、このセカイは“そう”なっているらしい。これで分かった。高島は、このセカイの根幹に関わってる。もしかしたら神様なのかもしれない。割とラブコメヒロイン、神様なこと多いからな。


「さ、兄貴の意味不明な話は置いておいて、さっさと食べよう。冷めたらいけない」

「そうだった。ほら、お兄ちゃんも食べて食べて」


 ううん。おかしいな。俺は一応このセカイの主人公なはずなんだけど、こまちはともかく、物語の終着点トゥルールートのヒロインであるはずの高島が俺に冷たいのはどういう了見なんだろう。まあ、その辺もトゥルーで語られるってことなのかな。よく分からんけど。ホント、意味不明だな。自分の人生に対して「そのうち語られる」って。

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