第69話 結 ーそばにいるからー
「どういうことだ! 『戦士』がなぜ我々に・・・うああああっ!!」
「お前が倒すべきは向こうの・・・がふっ!」
「止まれ、止ま・・・・・・ぐ。」
テンマの残党が起動した『戦士』と呼ばれる巨大な魔装具が、自らを創り出した者達に襲いかかり、強靭な腕や脚、そして胸部から撃ち出される魔力の線で蹂躙してゆく。
「あれはやっぱり、周りにある動くものや魔力を感知して、攻撃するだけの・・・どうしてあんな状態で起動したのでしょう。」
それを一目で察し、強い感知妨害を私と一緒に展開しながら、ミナモちゃんがつぶやいた。
「準備や知識が不足していたか、あるいは取り込んだ人達が同じテンマの残党だからという理由で、自分達は攻撃されないと勘違いしていたのかな。二百年前の復讐だけを考えて、色々なものが見えなくなっていたようにも思えるし。」
「はい・・・こうなっては止めるのが難しそうですが、あれは・・・」
目の前に広がる凄惨な光景に心を痛めていることが、『水鏡』で繋がらずとも伝わってくる。
もちろん、これまでに何度も戦いを経験した中で、自分の行動もそれに繋がりうるのは理解しているだろうし、
この状況を引き起こしているのは、真っ先に下敷きとなった残党の長らしき人、そして今まさにその後を追おうとしている人達に他ならない。
だけど、ここまで直接的なものを見れば、衝撃は強いだろうし、ミナモちゃんはとても優しいから、出来ることならすぐに止めたいという気持ちも生まれてしまうのだろう。
「いけませんね。この後にどう動くかを決めておかないと・・・」
やがて、無理に気持ちを前へと向けるような言葉が、曇った表情から発せられる。
「うん、まずはミナモちゃんからだね。」
それを放っておけるわけもなく、私は少し震える身体をぎゅっと抱き寄せた。
「あ、サクラさん・・・」
「大丈夫。どんな時でも、楽しいだけじゃなくて引き裂かれるほどに辛いことが起きても、私がミナモちゃんのそばにいるからね。」
真っ直ぐに目を合わせて思いを伝え、唇を重ねる。初めは少し戸惑い、やがて私を求めるように、乱れながら吸い付いてきた呼吸が、だんだんと穏やかになってゆくのを感じた。
「ありがとうございます。もう大丈夫です、サクラさん。」
少し顔を離し、一つ息を吸ってから、頬を染めたミナモちゃんが微笑む。
「それじゃあ、みんな。術式が完成するまで頼んだよ。」
「うん、任せて。」
シノが真っ先に私の声に応え、皆も続けてうなずいた。
「お願いします・・・」
「うん。」
今度はミナモちゃんから顔を寄せるように、私達は唇を重ねる。
「「『水鏡』。」」
これ以上、あんな痛ましい光景は作らせない。強い思いが伝わってくる中、私達は深く深く繋がり合った。
*****
「シノ、行けるかしら?」
「うん。ここにあるのはクロガネの力の偽物。でも、工夫すれば使いようはある・・・私に従って!」
テンマの残党が張り巡らせた、私達を通さないための魔法障壁が、シノさんの力に塗り替えられてゆきます。
「来るわ!」
「絶対に通さない・・・!」
そうして、サクラさんと私の『水鏡』が完成する中、それを感知して飛来する魔力の線を、シノさんの力が防いだのが分かりました。
「皆さん、お待たせしました。」
「さあ、あれを止めよう!」
私の胸の中にあった気持ちが、サクラさんに伝わっているのを感じます。こうして心から寄り添い合えるのならば、これから始まる強大な力との戦いも乗り越えられる・・・! そう強く信じられました。
「二人を全力で援護するわよ!」
シエラさんの声に皆がうなずき、『戦士』を見据えます。既にシノさんの隣で準備が進められていた、いくつもの炎の弾が放たれ、相手の注意を引き付けました。
「下から行くよ。」
「分かったわ!」
サクラさんの声に、シエラさんが炎を操り、『戦士』の上半身の周囲を巡らせます。
「ティア、合図したらあの光ってる所に撃って。」
「ああ、任せとけ!」
「もし威力が足りなくても、私が防ぐ。」
メイさんが相手の気配を探り、ティアさんが魔道具を構えると、先程大きく力を使ったシノさんも、『
『サクラさん、脚の魔力が集中しているところには、防御魔法の用意があるようです。』
『うん、少し攻撃をずらそう。ミナモちゃん、先に正面から行ける?』
『はい!』
シエラさんの炎に気を取られる『戦士』を探りながら、サクラさんと繋がった心を交わします。
『行きます!』
『うん・・・まずは一つ!』
私が『
『相手の動きが乱れました!』
『うん! このままもう片方も行くよ!』
『はい!』
そうして片脚が停止した『戦士』が、その対応に時間を要しているのが分かります。
『これで・・・』
『二つです!』
今度は近くにいたサクラさんが先に斬り付け、その思いを受け取りながら、私が合わせます。風魔法を纏った『水月』を振り抜けば、『戦士』の両脚が動くことは無くなりました。
「これで相手の主な攻撃は腕・・・今度は私が引き付けます。」
状況を見たメイさんが前に出て、『戦士』の周囲を素早く駆け回れば、その腕は空を切り、地面だけを叩き付ける動作を繰り返します。
「来る・・・!」
「させるかよっ!」
その合間に放たれる、胸部からの魔力の線は、ティアさんが魔道具を手に撃ち返し、余波をシノさんが防ぎました。
『今度は肩のところですね。』
『攻撃で動かしやすくするためか、守りの魔力は感じられない・・・同時に行こう。』
『分かりました!』
「メイ! 私の炎も送るから正面に誘導して。」
「はい・・・!」
風魔法で空を飛ぶ私達の動きから察したのか、シエラさんが声を上げ、メイさんと共に相手の腕を狙いやすい位置まで引き付けてくれます。
『三つ!』
『四つです!』
そこへサクラさんと私が風の斬撃を放てば、『戦士』の両腕も動きを止めました。
『強い魔力の集まる場所はあと一つで・・・っ!?』
『あの一点に全て集めようとしてるね。さっきから撃っているのを強化して、こちらを近付けなくするつもりかな。』
両腕と両脚を封じられた相手が、胸部に魔力を集中させる様子を見せます。
『そうなっては時間がかかりそうですね。皆さんの消耗が心配です。』
『もう魔力がだいぶ集まってるから、暴発を考慮して接近戦は一旦保留。遠距離から相手を封じるには・・・』
『っ! いけます!!』
サクラさんの考えから思い付いたことを届ければ、賛成の気持ちがすぐに返ってきました。
「皆さん、もう少しだけ相手を引き付けてください!」
私の声に皆がうなずき、炎と盾の魔法で、魔道具から放つ光で、素早い動きで、『戦士』の注意を逸らしてくれます。
『準備はできました。いきましょう!』
『うん!』
そしてサクラさんと私は、皆が作ってくれた時間で溜めた魔力を解き放ちました。
『水魔法なら、魔力の線にもあまり影響されません・・・!』
私が生み出した大量の水で、『戦士』の全身を・・・魔力が集中する場所は念入りに包み込みます。
『ミナモちゃん、合わせて。』
『はい!』
そして、私と同調したサクラさんが、お姉様が得意とする氷魔法を放ちました。スイゲツのお城での戦いでは、水魔法が氷に侵食されるのを防ぐことに気を遣いましたが、今の私達が水と氷を合わせれば・・・!
程なくして『戦士』は分厚い氷に包まれ、こちらへの攻撃は意味を為さなくなりました。
『これで・・・!』
『終わりです・・・!』
最後に、サクラさんと私が寄り添いながら『華月』と『水月』を重ね合わせ、同じ動作で一閃を放ちます。
そして全ての魔力の核を砕かれた、テンマの残党が創り上げた『戦士』は、その動きを完全に止めました。
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