第68話 転 ー全てを滅ぼすものー
「皆の脚に、加速の風魔法はかけるけど・・・」
「はい。無理をして私達の動きが筒抜けになったり、罠を踏んだりしないよう、慎重にいきましょう。」
私の声にミナモちゃんがうなずいて、感知妨害の効果を再確認してくれる。
「そうね。奥にある嫌な気配も増しているけれど、体勢を崩されて戦いに入るほうが、余程危険が大きいわ。」
「うん。待ち伏せとかされないよう、足音は忍ばせる。城塞都市でお姉ちゃんと抜け出した時みたいに。」
「ふふ、そういう意味では私達は慣れっこね。」
シエラとシノがうなずき合い、笑みを浮かべた。
「ティア、私に合わせて。」
「ああ・・・!」
そして、忍の動きを学んだメイが隣から声をかける中、ティアもそれに倣い、二人で寄り添うように足を進め出した。
「サクラさん、あれは・・・」
「うん。テンマの歴史を記したものかな。」
「そろそろ最後の内容になるのかしら。足を止めるほどではないけれど、覗いてみましょうか。」
やがて、前方の壁に現れた魔力灯の集まりに、私達は視線を向ける。
――我らが祖は巣穴に籠る西の者達を追い込み、
――西の者達と結びし彼奴等は、やがて祖の大地をも喰い荒らす。
――
「想像はしていたけれど、随分と恨まれているんだね、私達が生まれた一族は。」
早足で進みながらも、壁の文字から読み取った要旨を頭に浮かべる。
「『二百』のところ、何度も岩を削って彫り直したように見えるわ。」
「うん。毎年全員で集まって、ここの偉い人がどうのこうの言いながら、書き直してるかも。」
「ありそうねえ・・・良くも悪くも意志を曲げないような人が、やりそうなことかしら。」
あまり好ましくないものを思い出したように、シエラとシノが言った。
「ここの人達は、二百年もの間、代替わりしながらこんな思いを持ち続けていたのでしょうか・・・」
「それは、どうなのかな。中には本心からそう思っている人もいるだろうけど・・・」
つぶやくミナモちゃんに、小さく首を振って答える。
「そう信じるように強制される、あるいはその考え方しか教わることのない人達も、多く居そうですよね。」
「はい。私やあの子達も、助けが来なければそうなっていたのかもしれません。」
「私の親父も、そういうのが許せなくて逃げ出したのかもしれないな。」
やりきれなさを含んだその言葉に、メイとティアが続いた。
「・・・! もうすぐ、嫌な気配の元に着きそうです。」
「うん。向こうがどれだけの思いを持っていようと、受けて立つよ。」
「はい。ここでテンマの人達を、止めてみせます!」
私達は目を合わせ、強くうなずき合ってから、その先へと踏み出した。
*****
「これは・・・防御魔法の壁、ですね。」
「うん、この先へは通さないということか。それなりに強度はありそうだね。」
嫌な気配を強く漂わせる区域へと踏み込んだ私達を、光を放つ魔力の壁が出迎えて、サクラさんと小さく言葉を交わします。
「この感じ・・・シノ、もしかして?」
「うん、『黒金』に近い力を感じる・・・クロガネの国を滅ぼした時に、やり方を盗んだというの?」
尋ねるシエラさんに、シノさんが眼前の光景を睨みながら答えました。
「ほう・・・騒ぎを起こした侵入者共は、お前達だな。」
そこに
「だが、もう遅い。我らが祖を裏切りし者共を悉く滅ぼすための戦士は、ここに形となったのだ。」
その人が向く先では『戦士』・・・私達の言葉で語るならば、五人もの生贄を取り込んだ巨大な魔装具が、動き出す時を待っているようです。
もはや人が装備するものではなく、人を糧として動くようにも見えるそれは、魔装具という呼び名も適切ではないのかもしれません。
「む・・・カゲツ、スイゲツ、クロガネ、そしてシロガネの力も感じるぞ。我らテンマがお前達を滅ぼし、西の者達をも壊し尽くすには、良い始まりの日だ。」
笑い声を上げるその人を見れば、衣に『天魔』の文字。確か、テンマを示す古語の表記です。同じ言葉をやや控えめに記した衣の人達を、後ろに従えていることを見れば、かつて王であった人の末裔なのかもしれません。ですが・・・
「なあ、シロガネなんてこの場にいないだろ?」
「それは、ティアのことじゃないかな。」
「私も同感です。魔道具の改良、ヒカリさんに手伝ってもらいましたよね。」
「ああ、そういえばそうだったな。」
「その気配だけで、決め付けてるの・・・?」
尋ねるティアさんへ、サクラさんと一緒に答えると、メイさんも首を傾げます。
シロガネの力を少し漂わせるだけのティアさんを、伝承の武具を持っている私達と並べて語るテンマの末裔らしき人は、今の状況が見えているのでしょうか。
それとも、自らの内にある強すぎる思いだけで、独り歩きしているのでしょうか。
「さあ、動き出せ『戦士』よ! 裏切り者共を滅ぼすのだ!」
中にいる人達から何かを取り込んだのでしょうか、巨大な魔装具が動き出す気配を見せます。
「ミナモちゃん!」
「はい!」
その瞬間、サクラさんと私は、それを最初に見た時から準備していたものを・・・私達の気配をかき消す強い感知妨害を展開します。だって、あれはきっと・・・!!
「・・・な、何を! やめろおおおおお!!!」
そして、全てを破壊しようとする存在は・・・おそらくは、最も近くにあった動くものというだけの理由で・・・自らの創造主へと、その硬い腕を振り下ろしました。
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