第58話 行方

「ひとまず、向こうの状況について伝えるよ。私達を転移させた先で待ち構えていた人達は、全員が気絶か降伏。

 仕掛けられていた魔道具の類や、私を念入りに閉じ込めようとした障壁とかは、全て壊してあるから、後始末はそちらに任せるよ。」

「そう・・・」

氷の杖を消し去ってその場に座り込み、私に向かってくることを止めたお姉様が、サクラさんの言葉に静かに答えます。


「それから、部隊長らしき人・・・この国に入ってから私達を監視していた気配もあったけれど、彼女から『どうかフブキ様の命だけは・・・!』と頼まれた。私は、最後の判断はミナモちゃんに任せると答えて、もちろん今もその言葉を違えるつもりはないよ。」

「・・・!! わ、分かったわ。」

きっと、私達と直接言葉を交わしたあの人ですね。お姉様の表情にも動揺が見られました。サクラさんと一緒に向かったのは、きっと良かったのでしょう。


「どちらにせよ、もう私はミナモに敗れたのよ。始末するなり、自ら退位する形を取らせるなり、好きにしなさい。あなたが王となることを阻める者など、もういないわ。」

「お姉様、私は王位に就くつもりはありません。」

話に上がることは予想していましたが、今の自分にとってありえない選択が出てきたので、きっぱりとお姉様に答えます。


「何ですって・・・!?」

「私は、お姉様がご存知であるならば、お母様の行方を・・・そして、あの日に何があったのかを知りたいだけなのです。それが済めば、またサクラさん達との旅に戻り、各国に争乱を引き起こしているテンマの残党を止めるつもりです。」

「な・・・・・・」


「うん、私達も同じ気持ちだよ。もう少し踏み込んで言うなら、ミナモちゃんに自由を与えてほしいかな。さっきのように、王位を保つために邪魔だからと害することも、逆にこの国へ縛り付けようとすることも、認めるつもりは無いよ。」

「そ、そう・・・」

最初は呆気に取られていた様子のお姉様でしたが、サクラさんの言葉も聞き終えて、少し冷静さを取り戻したように見えます。


「まずは、あの日の出来事について話させてもらうわ。その中でミナモが知りたいことも、私をどのように扱うかの判断に関わることも、伝えられるはずよ。」

そう言ってから、お姉様は話し始めました。



「まず、想像はついているかと思うけれど、テンマの残党をこの国へ引き込み、父上・・・先王とあなた達を襲わせたのは、この私よ。」

「そう・・・ですか・・・」

その答えを聞くことは覚悟していたはずなのに、色々な感情が私の中を駆け巡ってしまいます。


「テンマの残党は、他の国や都市でも、一部の勢力を取り込んで転覆を謀っていたけれど、貴女が目をつけられたという訳だね。」

「ええ、その通りよ。奴等はこの国への復讐を果たし、私は王として実権を握るという取引ね。テンマの残党は、国の支配には興味が無いようだったから、その後は接触していないけれど。」

私が気持ちを落ち着けるまでの繋ぎと、必要な情報を得るために、サクラさんが尋ねてくれました。ありがとうございます・・・


「では、お姉様。私が転移魔法で逃がされたことはご存知かと思いますが、お母様は・・・」

「・・・これはあくまでも、テンマの襲撃部隊からの連絡として聞いたことで、私自身もそれ以上の情報は得られていないことを、前提として聞いてちょうだい。

 シズク様が・・・あなたの母君が転移魔法を行使し、周囲に張られていた結界も消えて間もなく、一人の剣士が飛び込んできたそうよ。場は乱戦となり、その剣士も手傷を負った様子だったけれど、最後には捨て身のような突撃で、シズク様を連れて離脱したと聞いているわ。その後については、未だに何の情報もないけれど。」


「・・・!! あの場では、お母様は討たれていない・・・?」

「ええ、その通りよ。だけどそれ以上は・・・」


「ああ、そういう話なら、二人とも無事だと思うよ。」

「サクラさん・・・?」

不意に飛び込んできた言葉に、少しぽかんとしてしまいます。お姉様も、きっと同じような表情でしょうか。


「もちろん、推測でしかないけれど。その剣士には心当たりがあってね・・・一つだけ言えるとすれば、簡単に死ぬような人じゃないよ。逃げる先もきっと準備してる。」

「そういう、ことなのですね・・・」

いつも冷静なサクラさんが、少し感情を昂らせているように見えます。私達には『華月』と『水月』以外にも、ずっとずっと前からの縁があったのですね。

お母様の行方について、少しだけほっとした気持ちを抱きながら、サクラさんの手をぎゅっと握りました。

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