第57話 決着
「・・・っ!!」
荒れ狂う魔力の奔流の中で、とっさに私達全員を取り囲むように、魔力の壁を展開します。どれほど時間が経ったでしょうか、やがてそれが収まると・・・
「え、え・・・・・・・・・?」
私の周りに、誰もいません。サクラさんもシエラさんも、シノさんもメイさんもティアさんも・・・いつもあんなに近くに感じていた、サクラさんの存在も、『華月』と『水月』の共鳴さえも、何もかも・・・
「っ! さっきのは攻撃ではなく、感知妨害と転移魔法・・・!!」
お姉様ももちろんスイゲツの血筋。『水月』を用いた時ほどの効果はなくとも、私と同じ魔法を使えてもおかしくありません!
「ええ、その通りよ。気が遠くなるほどの時間を費やして準備したというのに、もう見抜かれるだなんて、吐き気がするほどに優秀ね。」
お姉様が笑顔を止めて、刺すような視線を私に向けてきます。
「戻してください! サクラさんを、皆さんを、今すぐに!!」
「あら、そんな顔もできるのね。安心しなさい。カゲツの娘とは仲が良さそうだったから、念入りに飛ばしておいたわ。もう二度と会うことはないでしょうね。」
「・・・っ!!」
「あなたは今から、私の手で討たれるのだから。」
お姉様がその手に氷の杖を顕現させ、ぎらりとした視線と共に私へ向けました。
「そ、そんなことはさせません。皆さんが戻るまで、耐えてみせます!」
「ふん、そんな余裕はすぐに消してみせるわ。」
お姉様が鋭い氷の刃を創り出し、私に向けて放ちます。身体に触れれば、間違いなく只では済みません・・・!
「打ち落とします!」
いつも使っている水の魔法で、こちらへと向かってくる氷の刃を払います。しかし・・・!
「ふん、この程度なのね。」
「・・・っ!」
思ったほどには払いきれず、私の近くに落下する氷の刃。自分が押されていることに、気が付いてしまいます。
「では、数を増やしたらどうなるのかしら?」
「くっ!」
さらに圧力を増したお姉様の氷が、私を襲います。こちらも注ぎ込む魔力を増やし、水流を強く・・・なかなか、思うように動いてくれません!
「あらあら、あなたの水魔法なんて、簡単に凍ってしまうようなものだったのね。」
「ううっ・・・!」
お姉様の氷魔法が、私が生み出す水を侵食してきます。これでは、刃を払うほどの力が出ません・・・!
「う、動いてくださいっ!!」
私が思い切り力を込めた水流が、ようやく氷の侵食を振り払い、刃を弾き飛ばしました。
「ふうん、少しはやるじゃない。だけど、もう疲れが見えるようね。ずっとお部屋で本ばかり読んでいた天才さんは、体力が無いのかしら。」
「・・・っ!」
無理に魔法を強めた影響で、息が上がりかけているのを見抜かれてしまいました。いつもなら、こんなことはないのに・・・理由なんて、最初から分かっています。
だけど、それを意識すれば今にも心は折れてしまいそうだから、私は目の前だけに集中して・・・!
「では、そんな状態で、これを止められるのかしらね。」
「あ、あ・・・・・・」
お姉様が私の心を砕こうとするように、巨大な氷の刃を顕現させます。今の私では、あんなものはとても・・・
「これで終わりよ。私が真の王となる
「・・・っっ!!」
ついにその刃は、私の身体を貫くように放たれ・・・
「何をふざけているのかしら?」
不意に私の背後から放たれた燃え盛る炎が、それを食い止めました。
「な、お前は・・・!?」
「シエラさん!!」
いつの間にかその姿が部屋に戻り、お姉様の氷を溶かすほどの火の魔法を放っています。
「東の武具を持つ者ばかり警戒したのかしら? 随分と見る目が無いのね。」
「なっ・・・!?」
「それに、優秀な妹を排除しようとするなんて、為政者としての良識を疑うわ。」
「何を! 何も知らぬ者が・・・!」
シエラさんの挑発に、お姉様が数多くの氷の刃を作り出しますが、燃え盛る炎に溶かされてゆきます。
「ちなみに私は、ミナモを大切な仲間であると同時に、好敵手だと思っているけれど、なかなか敵わないのよね。あなたもこの火魔法を越えられないようでは、ミナモの背中は遥かに遠いわ。」
「ふざけるなあ・・・!!」
荒れ狂う氷はますます勢いを増してゆきますが、むしろ押しているのは、シエラさんの炎に見えます。
「ミナモ。さっきのあなたの魔法、今のあいつみたいだったわよ。私が目標にしている人に、そんな腑抜けたことをされては困るのだけど。」
「す、すみません・・・」
集中力が欠けていれば、魔法は上手く操れない・・・当然のことです。
「それから、あの魔力の中で転移魔法に一早く気付いて、私に対策を教えてくれた者がいるわ。自分ともう一人は、どう見ても狙われているからってね。
そもそも、私に転移の基礎を示してくれたのは、どこの誰だったかしら?」
「・・・っ!!」
「この部屋自体が、あいつが周到に準備した空間よ。冷静さを取り戻して色々される前に、あなたが始末をつけなさい。」
「分かりました・・・!」
シエラさんの言葉に、霧が晴れてゆくように感じながら、いまだ氷を防ぎ続ける炎の後ろで、集中を高めます。
「力を貸してください、『水月』・・・!」
杖に魔力を込めれば、この部屋に張り巡らされたものが、先程の転移魔法の痕跡が、はっきりと分かります。
『サクラさん・・・!』
既に強く感じるようになっていた、『華月』との共鳴を頼りに、私はそれを発動しました。
「・・・うん、ちょうど良かったね。」
「サクラさん、無事で良かったです! 皆さんも・・・!」
「護るための盾で人を殴るのは慣れない。それよりも、ティアがあんなに役に立ったのが予想外だけど。」
「なんだよ、壊して構わないって言ってただろ。」
・・・シノさん、ティアさん、転移された先で一体何をしたのですか? いや、全員が揃っている時点で想像はつきますが。
「サクラさん、あそこもやっておいたほうが良いのでは。」
「うん。ティア、お願い。」
「分かった・・・!」
すぐに周囲を確認したメイさんに、サクラさんがうなずいて指示を出すと、ティアさんが改造した魔道具を放ち、この部屋を制御していた魔力装置が壊れるのが分かりました。もうお姉様が先程使った転移魔法は、発動しませんね。
「な、な・・・・・・!」
シエラさんの炎の壁を越えられないまま、お姉様がこちらを見て呆然とした表情をしています。
「シエラさん、ありがとうございました。サクラさん、皆さんも・・・すみませんが、最後は私にやらせてください。」
「どういたしまして。もちろんあなたに任せるわ。」
「うん。今のミナモちゃんなら、何も心配はいらないよ。」
シエラさんとサクラさんが微笑み、他の皆もうなずくのを見て、私は炎の壁が消えると同時に、一歩前に踏み出しました。
「お姉様、この部屋に施された仕掛けは全て解除されました。二人だけで純粋な魔法の力比べをしませんか?」
「くっ・・・! 何よ、自分が勝つことを確信したように!」
「先程はお恥ずかしいところを見せてしまい、申し訳ありません。ですが、仕掛けに頼らないお姉様の本気も、まだ見せていただいていませんので、一勝負お願いできませんか?」
「・・・いいわ、やってやるわよ!」
お姉様が再び氷の刃を・・・今日見たどれよりも、鋭く美しいものを顕現させ、私に向けてきます。
「最初からこんな風に出来ていたら、楽しかったと思いませんか?」
「・・・っ!!」
私が力を込めて放った水魔法が、お姉様の氷の侵食を押し返し、刃ごと打ち砕きます。その水流が少しだけ頬にかかるのを見て、お姉様はがくりと項垂れました。
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