第59話 それぞれの道
「現在のテンマの残党について、私が知っていることは以上よ。」
「うん、分かったよ。ありがとう。」
お母様の行方に関する話に続いて、もう一つ大事な情報をサクラさんとシエラさんが中心となって聞き出したところで、話が一段落つきます。
「ミナモ、改めて聞くけれど・・・」
そこでお姉様が、私にじっと視線を向けて言いました。
「私はこの場であなたを討とうとし、あの日にはテンマの残党を引き込んで、シズク様とお父様にも害を為したのよ。自分で言うのもなんだけど、こんな相手を討たずに済ませるつもりかしら?」
「・・・もしもお母様が、お姉様の手で討たれたというのならば、私も冷静ではいられないでしょう。しかし、結果として無事である可能性が高く、あの時に襲ってきたのもテンマの残党とだけ認識しています。」
そこまで言ってから、一つ息を付いて、自分の思いを吐き出します。
「それに、私もずるい人です。だって今、お姉様がいなくなったりしたら、自分が国を継ぐ話が出てきて困るなんて考えているのですから。
お父様についても、ほとんど話したことはなくて、『水月』を継承するのに相応しいよう、魔法の勉強に励むよう指示する書面でしか知りませんから、正直なところ悲しむ気持ちも浮かんでこないのです・・・」
「ミナモ、あなたも・・・」
言葉にこそ出しませんでしたが、お父様に冷たくされていたのねと、お姉様の声が聞こえるようでした。
「なあ、ミナモ。私はお前をずるいなんて思ったことはないんだが、知らない親父のことはともかく、ただサクラと一緒にいるのが何より大事ってだけだろう?」
「・・・っ!」
話が途切れたところで不意に響いてきた、ティアさんの言葉にはっとします。
「・・・ありがとうございます。まさか、ティアさんに励まされるとは思いませんでした。」
「うん、お母様に昔聞いたことがある。こんなに珍しいことがあったなら、明日はきっとひどい雨とか雷。」
「お前ら、最近私の扱いが雑すぎないか・・・!?」
私に続いてシノさんも深刻そうな表情で言うと、叫ぶような声が部屋に響きました。
「ティア、大丈夫。私がここに来た時から、ずっとそうだった。」
「ちょっ・・・!?」
メイさんが隣からぎゅっとティアさんを抱き締めると、辺りから笑いが漏れました。うん、私達らしくなってきましたね。
「さて、フブキ女王。ミナモちゃんの意思が明確である以上、私達にもあなたを害するつもりはないけれど、襲撃は受けてるからね。少し頼まれてほしいことがあるんだ。」
「・・・覚悟はできています。」
表情を引き締めるお姉様の前で、サクラさんとシエラさんがうなずき合います。これは、簡単ではないことを考えていそうですね。
「この国が、テンマの残党とは相容れないものだという立場を明確にしてほしい。国として直接的に被害を受けているわけだから、理由付けは問題ないよね。」
「・・・っ!」
「もちろん、この国やあなたの身をただ危険に晒せと言うつもりはないわ。私達がシロガネの国を経由してここへ来たことは把握しているわよね?
ヒカリ王女から、テンマの残党に対する連携をすぐにでも進める用意があるとの言伝と、国としての親書も預かっているわ。」
「・・・分かりました。お受けしましょう。」
最初は影響の大きさを危惧するような顔をしていたお姉様でしたが、ヒカリさんからの手紙を確認して、しっかりとうなずきました。一歩間違えば国と国との争いになりかねないやり方でしたが、上手くいって良かったです。
・・・これで本当に、この場所で私達がしたかったことは済んだようですね。
*****
「ふう、やっと落ち着いたね。」
「はい・・・」
スイゲツの王城を出て、都にある宿の一室へ・・・先程は兵士の人達に護衛されて大通りを歩いたりしていたので、お姉様の許可を取って感知妨害や変装など色々しつつ、私達は旅人として泊まることにしました。
お姉様はお城の部屋を自由に使って良いと言ってくれましたが、戦闘もあった後でお互いに気まずいですし、ティアさんを中心に色々壊したそうなので後始末も大変でしょうから、丁重にお断りしています。
何より私達は、このほうがずっと慣れていますからね。今日も大きめの部屋に、寝台は三つだけです。
「ただ・・・そこまで気を遣わなくてもいいんだけどね。」
私も先程から気付いていましたが、サクラさんが窓の向こうにある気配へと、声をかけます。
「やはり、気付かれてしまうのですね。」
あの夜に言葉を交わした、道中でこちらを探っていた部隊長の人が顔を出しました。
「まず、今回はフブキ様のご指示で正真正銘の護衛として来ておりますので、ご安心を。
そして、ミナモ様、サクラ様。我が主君の命を助けてくださり、ありがとうございました。」
「えっと・・・こちらの都合もありましたし、お礼を言っていただくようなことでもございません。」
「うんうん、ミナモちゃんの言う通りだよ。そちら側の動きによっては、どうなるか分からなかったし。」
「それでも・・・私にとっては、
「分かりました・・・道は違ってしまいましたけど、お姉様にも事情があることは察しましたから。」
「まあ、変に思い込みが激しかったり、感情を抑えきれないところはあると思うけど、真面目そうだし、今回のことで不安が無くなれば良い王になったりするんじゃないかな。」
「ありがとうございます・・・我らもしっかりと支えなくては。」
「それに、シロガネの王女様は色々とやらかす時もあるから、両国が組むのなら釣り合いが取れて良いんじゃないかな。」
「それは・・・確かにそうですね。」
「お、お二方とも・・・今のは新しい不安の種ではないのでしょうか?」
氷花さんが心配そうな顔をしていますが、これはどうしようもありませんね。
「それから、氷花さん。伝えるのが遅くなってしまいましたが、お母様と私の住む場所を警護してくださったこともありましたよね? ありがとうございました。」
「っ・・・!! こちらこそ、ありがたきお言葉です・・・!」
彼女が一番大切なのは、あくまでもお姉様で、だからこそ敵対しかける事態にもなってしまいましたが、それさえなければ、きっと優しい人なのでしょう。宿の外の警戒に戻るのを、手を振って見送りました。
「ミナモちゃん、大変な思いをさせてごめんね。」
そうして一緒の布団に入ったところで、サクラさんが話しかけてきます。何のことを言っているのかは、聞くまでもありません。
「いえ・・・サクラさんも狙われていたのに、それを逆手に取ってシエラさんを向かわせてくれて、本当に助かりました。」
あの時の私は動揺して、魔法をまともに操れないほどでした。シエラさんの言葉で、どうにか立ち直ることができましたが・・・それを思い返すと、どうしようもない独りの気持ちが込み上げてきます。
「でも、やっぱりすごく寂しかったので、いつもよりこうしてもいいですか?」
「うん、もちろん!」
いつもぴったりとくっついている布団の中で、私の一番大切な人へ、もっと全身を押し付けるようにぎゅっとすると、サクラさんは微笑んでたくさん頭を撫でてくれました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます