第6章 『スイゲツの国』編

第54話 スイゲツの国へ

『自由都市』を出て、シロガネの国へ。そして、南寄りの街を経由しながら東へと進みます。


ヒカリさんと夜美花やみかさんからいただいた通行証のおかげか、旅は順調。テンマの残党や盗賊と遭遇することもなく、いつになく穏やかな数日を過ごしています。

それでも、剣や素早い動きの鍛練を欠かさないサクラさんは相変わらずで、時には他の皆にも足さばきの指導をしています。私も少しは上手になれたでしょうか・・・


シノさんも受け取ったばかりの『黒金くろがね』を使いこなせるよう、隠れて練習しているようです。クロガネ王家に代々伝えられてきた武具であり、その力は護りの壁を作り出すものであることから、人目のある場所では使いにくいという事情も大きそうですが。

シエラさんも、私と一緒に魔法の修練をするのは変わりませんが、シノさんの練習にも付きっきりで・・・それこそいつも通りですね。本当に仲の良い姉妹、少しだけ憧れてしまいます。


ティアさんは暇さえあれば魔道具を弄っているのは、初めて会った頃から何も変わりませんが、ヒカリさんの指導を受けたことで、腕が上がっているようです。時折、実用性よりも楽しいとか格好いいといった方向に走っているようにも見えますが・・・

メイさんも夜美花さんから教わったことをもとに、斥候やしのびと呼ばれる動き方について、腕を磨いています。時にはサクラさんと、素早い立ち回りについての話なども・・・私はあまり会話に入れないのが残念ですが。


・・・そんな風に思っていたら、伝わってしまったのか、昨夜はお布団の中でサクラさんがいつもよりたくさん撫でてくれました。少し恥ずかしいですが、嬉しいです・・・



「ミナモちゃん、調子はどう? いよいよだね!」

「はい・・・!」

ここ数日のことを思い返してしまったのは、今日が一つの節目だからなのかもしれません。

今私達がいるのは、シロガネとスイゲツ、両国の境の近く。そして、このまま道沿いに南へと進めば、私が生まれ育ったスイゲツの国都へとたどり着きます。


今日はヒカリさん達、シロガネの国の協力で発行していただいた、旅人としての通行証でスイゲツへと入ることになりますが、都へ着いた時、私は王族としての名を明かすのでしょう。

その何よりの証となる、継承した王家の武具『水月すいげつ』・・・今はまだ普通の魔杖を装ったままですが、それを握る手に自然と力がこもります。


「大丈夫? 緊張してるみたいだけど。」

「あっ・・・ありがとうございます、サクラさん。」

そんな私の様子に気付いたのか、隣から温かい手が伸びてきて、肩に優しく触れます。

その腰にある、今はなきカゲツの国に伝わる武具『華月かげつ』も、私が持つ『水月』と共鳴しあい、存在をより強く感じさせてくれました。


そうして、そのまま手を繋ぎあい、サクラさんと私は国の境を越えます。他の皆も怪しまれることなくスイゲツの国へ入り、まずはほっと胸を撫で下ろすのでした。

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