第52話 胸中
「皆様のご協力のお陰で、この都市に巣食う賊は討伐されました。誠にありがとうございます。」
依頼者としての変装をした夜美花さんが、依頼所に集まるたくさんの人達の前でお礼を述べ、報酬を渡してゆく。
「おおおお! 山分けだってのに結構な額だ! 今夜は飲むぞ・・・!」
「いや、これなら新しい装備だって買えるじゃないか!」
シロガネの国の王女であるヒカリの私費も入っているということで、多額の報酬を手にした人達は大喜びだし、これで飲食のお店や武具関係のところも潤うのだろう。
・・・テンマの残党が壊滅状態となったこの都市で、今後シロガネの影響力が強まってゆくことになるのかは、私達の知るところではないけれど。
「さて、ひ・い・か? 敵の拠点に突入した後のことについて、詳しく聞きたいのだけど?」
「うわあ、みーかの笑顔が冷えきってる。ぞっとするわね。」
そうして、ヒカリと夜美花さんが都市の郊外に借りている一軒家に皆で帰ったところで・・・家主達、もといシロガネの王女とその従者が、笑顔で向かい合っている。
いや、ヒカリの言う通りに、片方がだいぶ冷えたものになっているけれど。この二人は幼馴染ということもあってか、状況や気持ちで呼び方も使い分けているようだ。
「皆さんから大体のことは聞いたけれど、相手が『魔装具』持ちかどうかに関わらず、防御をほぼシノさんに丸投げして、槍で近接戦の連続。
最後の敵首領部隊との戦いでは、相手方の視界が奪われたのをいいことに、武具を弓矢に創り替えて強力な一撃。それ自体は良いとして、安全圏まで退がった様子が無いのだけど?」
「さすがはみーか。その場にいなかったのに、全部把握してるみたいね。」
「・・・私の質問に答える気はあるの?」
「怪我しないって約束は、ちゃんと守ったんだけどねえ。」
「もう・・・! それは本当に良かったけど、今回は私も近くにいなかったのに、また無茶をするんだから・・・!!」
「大丈夫。これは危ないと思ったら、さすがに近接戦はやらないわよ。」
「その危険の基準が、私より数段上なのよ、あんたは・・・!」
「うん・・・ごめんね、みーか。次はもう少し気を付けるから。」
「ちょっ! 人前・・・!」
声を荒げた夜美花さんに、ヒカリがすっと歩み寄り、抱きしめて頭を撫でている。
「あら、それを恥じるような面々でもないと思うけれど。」
「そ、それはそうだけど・・・」
夜美花さんが顔を赤くしつつも、ヒカリの腕の中に収まっている。どうやら二人のすれ違いは終わったようだ。
「さて、依頼者の立場も利用して、拠点にいたテンマの首領については、密かにシロガネへ護送したわ。運が良ければ情報が得られるけど・・・」
場が落ち着いてからしばらくして、現在の状況と今後について、皆で話し合う。自由都市に来てからも、当然ながら本国と連絡は取っていたそうで、動きが早い。
「多分、無理じゃないかな。仕事人って感じの人だったし。」
「私もそう思うわ。テンマの残党って、狂信者みたいなのが多い印象だったけど、ああいうのもいるのね。」
「それは西でも、同じような感じがしたかな。部隊の単位であの人みたいに指揮されると、やりにくくなる感じはあるけれど。」
「そうね・・・今まで見てきたものからすれば、その可能性は低いと思うけど。それで、あの部隊がスイゲツの国を襲ったというのは本当なの?」
「はい・・・その時は慌てて逃げるだけでしたが、改めて思い返せば気配がはっきりと・・・
それに、首領の人も私の顔を覚えていましたから。」
ヒカリに尋ねられたミナモちゃんが、表情を変えることなく答える。
「そう・・・あの首領がもう一つ何か言っていたのは、聞かないほうが良いのかしら?」
「・・・はい。そもそもあれだけでは、まだ意味もはっきりしませんから・・・」
その問いには、少しだけ困ったような笑顔を浮かべた後、静かに首を振ったけれど。
「分かったわ。あなた達はスイゲツの国へ向かうのでしょうけど、少しだけ待ってもらえるかしら? 戦いの疲れを癒す時間も必要でしょうし、こちらから渡すものの準備も、間もなく整うでしょうから。」
「うん。ミナモちゃん、シエラ達もそれで良いかな?」
「はい! 私は大丈夫です。」
「サクラとミナモがそう言うのなら、私達も問題は無いわ。」
「私は個人的に嫌な予感がするけど・・・仕方ない。」
シノが少しだけ表情を曇らせたのは、想像がつかないこともない。
「よし! それなら私は、また魔道具を改良するぞ。」
「夜美花さん、時間があれば手合わせをお願いしても良いですか?」
ティアとメイも、その間の過ごし方を決めて、これからの動きについて話し合う場は、お開きとなった。
*****
「ミナモちゃん。さっきのこと、本当は想像がついているんだよね?」
「はい・・・そうだったら良いとは、ずっと思っていましたが、お母様はやはり逃げ延びているのかもしれません。」
夜が更けて、同じ毛布にくるまりながら、声を潜めて言葉を交わす。
「まあ、真偽不明なのは確かだし、ヒカリ達にそれを伝えてもややこしくなりそうだから、あれで良かったとは思うけど。」
「はい・・・全てはスイゲツの国に入ってからですね。」
期待と不安が混ざりあった声が響き、その顔がぽすんと私の胸に落ちた。
「・・・サクラさん。私、戦いの時から何度も震えていましたよね? 隣にいてくれなければ、皆に動揺が伝わってしまったかもしれません。」
「ううん。ミナモちゃんは強くなったと思うよ。そこで、一緒に戦う皆のことを先に考えるところとか。」
「ありがとうございます、サクラさん・・・」
「私も、そういう時はなるべくミナモちゃんから離れないよう、気を付けるからね。」
「はい・・・」
私の胸にぎゅっと顔を押し付ける、ミナモちゃんの頭を優しく撫でる。
そして、スイゲツの国で何が待っているかは分からないけれど、必ず守り抜こうと心に誓った。
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