第50話 新たな装備

「うおおおお、喰らえ・・・!」

「盗賊ども、私が討ち取ってやる!!」

テンマの残党が拠点とする森の奥へ踏み込んだところで、現れた敵方の手勢に向かい、

ヒカリと夜美花さんの依頼を受けた人達が、武器を手に前進してゆく。


「ちっ、なぜ我々の本拠が漏れた・・・!」

「先日しくじった奴らが、けられたのだろう。こうなれば全て叩くのみだ。」

私達とヒカリが出会った日の共闘で、少なくない数を討伐したはずだけれど、未だ相当な人数がいるらしい敵方も、戦意高く迎え撃ってきた。



「サクラ、ミナモ。敵が固まってるところに一撃入れられるかしら。」

「うん、もちろん!」

「任せてください、シエラさん!」

私達も他の依頼者に混ざりながら、まずはミナモちゃんの魔力を受け取りつつ、私が斬撃を飛ばす。


「私が火を放つわ。ティアも続いて!」

「ああ、分かった!」

中央を切り裂かれた敵の一団に向かい、シエラの火魔法と、魔道具を構えたティアの光が放たれ、混乱に陥れた。


「シノはヒカリを援護して。貴女は好きに暴れてもらって構わないわよ。」

「うん!」

「ふふ、分かってるじゃない。シロガネとクロガネの力、見せてあげましょう・・・!」

そこへシノの魔法で護られたティアが、白銀に輝く槍を手に突撃してゆく。


「はあああああっ!!」

本人が『暴れたい』と言っていた通りの動きで、魔力を纏わせた槍を振るい、混乱する敵方を蹴散らしていった。


「おお、白銀はくぎんがまたやってるぞ!」

「ああ、俺達も続け・・・!」

私達が戦う一画で、敵方が大きく崩れたのを見て、戦場全体としてもテンマの手勢を押し込み始める。


「メイさん、分かりますね?」

「はい・・・!」

そして少数ではあるけれど、こちら側に紛れ込んで陰からの攻撃を狙う敵を、メイと夜美花さんが素早く始末していった。



「サクラさん、あれは・・・」

「うん。嫌な気配も濃くなっているし、敵の拠点の入口で間違いなさそうだね。」

そうして前進するうちに、私達はいよいよこの一帯のテンマの本拠へとたどり着く。


「皆さん、あれが賊の根城です。

 ここからは出入口を確保する隊と、中へ突入する隊に分かれまして・・・」

『依頼者の配下』に扮した夜美花さんが、私とミナモちゃんとも密かに言葉を交わした上で、依頼を受けた人達全体への話を始めた。


「っ・・・!」

「これって・・・!」

その時、拠点の入口に現れた、今までとは段違いの気配にミナモちゃんと顔を見合わせる。


「話の途中ですが、敵襲です・・・!」

感知の力が強い夜美花さんもすぐに気付いたか、警戒の声を上げた。


「あれは『城塞都市』にもいた・・・いえ、様子が違うわね。」

「うん。あの時のが危険な装備に振り回される存在だとすれば、今回は使いこなしている者・・・というところかな。」

「向こうも、精鋭・・・!」


「ミナモちゃん、大丈夫?」

「はい・・・行けます!」

シエラとシノとも情報を共有する中、少し動揺があった様子のミナモちゃんの手を握る。どうやら、立ち直ってくれたようだ。



「うおおお、行くぞ・・・!」

「新手もぶっ飛ばしてやる・・・!」

その間に気が逸ったらしい数人が、拠点の入口に現れた手勢へと向かってゆく。


「ふん・・・」

「「ぐあああああっ!?」」

しかし、腕の一振りで大きく吹き飛ばされ、すぐには立ち上がれないほどの衝撃を受けたことが見て取れた。


「この魔装具の前に、敵はない。」

「恐れるまでもないな。」

相手方の自信ありげな声が聞こえてくる。『魔装具』、それがあの装備の名前のようだ。


「皆さん、決して単独では突出しないでください。力のある方同士で連携を・・・!」

動揺が広がりそうな味方に、夜美花さんが声を上げる。その最中にちらりと向いた視線の先は・・・ヒカリだ。


「一撃の威力には自信があるわ。力を貸してもらえるかしら?」

それを見てすぐに、ヒカリ自身も声をかけてくる。彼女が出来ることを考えれば、察しが付かないわけでもない。ここはそれを信じてみるところか。


「それなら、私が敵を引き付けるよ。ミナモちゃんはヒカリを補助できる?」

「は、はい・・・! サクラさんのようにはいきませんが、多少ならば。」

「スイゲツの力、ありがたいわ。頼んだわよ。」

速やかに言葉を交わしつつ、またミナモちゃんの魔力を受け取り、魔装具を身に付けた敵のもとへ飛び込む。


「はっ・・・!」

「・・・!?」

風で加速しながら一人に打ち込めば、固い手応えが返りつつも、僅かな動揺が伝わってきた。


「仕留める・・・」

「ああ・・・」

次の瞬間、反撃の腕や蹴りが飛んでくるのを、集中して避ける。今まで相対した敵よりはずっと速いけれど、見切れないほどではない。


「もう一撃・・・!」

「邪魔な・・・!」

相手の攻撃をかわしながら打ち込み続ければ、その注意はどんどんとこちらへ向いてくる。掠りでもすれば、無事では済まなそうだけど、狙い通りだ。


「ティア・・・!」

「ああ!」

シエラの指示が聞こえてくると共に、ヒカリの指導を受けてティアが改良した魔道具から、光の弾が放たれる。


「ふん・・・」

「この程度、効かぬ・・・」

私がすぐさま退避した瞬間、それは敵に次々と命中し、明確な打撃こそ確認できなかったもの、その場に留まらせた。


「残念だけど、本命はこちらよ・・・!」

そこに狙いを付けていたのは、白銀に輝くを手にしたヒカリ。シロガネの王家に伝わる武具と、金属を変化させる魔力は、彼女の得物を望む形に創り上げてゆく。


「喰らいなさい・・・!!」

「ぐ・・・!!」

「な・・・!?」

ミナモちゃんも後ろから魔力を補助する中、放たれた白銀の矢は大きな爆発を起こし、魔装具を破損した敵の意識を失わせた。


「おおおお・・・!!」

「やったのか・・・!」

「皆さん、あの装備を付けた相手は、中にも複数いることが予想されます。自らの力で敵うと思う方は突入を・・・!」

味方から歓声が上がる中、夜美花さんが冷静な調子でまとめてゆく。


「私達は、もちろん行かなきゃね。」

「うん、今ので少しは相手の力を確かめられたかな。」

「はい、魔力の補助は任せてください・・・!」

ヒカリと言葉を交わす中、ミナモちゃんも表情を引き締めつつうなずいた。


『じゃあ、行ってくるわよ。』

『怪我したら承知しないからね!』

視線を合わせ、僅かな口の動きだけで伝え合う、ヒカリと夜美花さんの声が聞こえた気がした。

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