第49話 討伐の策
「なんだ? 森の奥に巣食う賊の討伐依頼・・・とんでもない報酬じゃないか!」
「山分けとしても結構な額になるぞ。こいつは受けるしかねえ・・・!」
この日の朝、掲示板に貼り出された一件の内容に、『自由都市』の依頼所がざわついている。
「これは、効果ありそうだね。」
「でしょう? 元々は私とミカだけで、この都市で活動しているテンマの残党を叩く時のため、考えていた策だったんだけど、あなた達もいるなら更に万全ね。」
その様子を物陰から眺めつつ、ヒカリが笑みを浮かべた。
「私達二人だけだと、余程上手く誘導しなければ敵を潰せないと話した気はするけど・・・本当にヒカは危ない橋を渡るんだから。」
「あら、ミカがいれば私に危険は無いと思ってたわよ。今の変装や依頼の出し方も、完璧だと思うし。」
「もう・・・そう言えば私が許すとでも思ってるの?」
ヒカリに膨れ面を向けつつも、依頼者として変装をした
「それにしても・・・こんなに報酬を出せるんですね。」
「私達が今まで、調査を兼ねて依頼を受けた時に稼いだ分と、ほとんど使ってこなかった王女としての小遣いを提供しただけよ。」
「この王女様は、お金を使うより野山や戦場を駆け回るほうが好きだから・・・」
ミナモちゃんの言葉をきっかけに、それがため息へと変わったけれど。
「これが、国を敵に回すということなの・・・」
「ん、メイ? 私の改良した魔道具があれば、何も恐くないぞ。」
「ティア、今の流れでそれは、色々な人に喧嘩売ってるよ・・・?」
「確かに、国の関係者はこの場に多いわよね。西の大都市も、呼び方が違うだけで事実上は同格だから、半分以上・・・」
「ああ、この前話した通り、私とシノはもう都市の役職を降りているわよ。」
「うん。お姉ちゃんと私は、ただの旅人。」
「クロガネの関係者というところまで、放り出さないでもらえるかしら・・・!?」
「まあまあ。それで、夜美花さん以外はこの依頼も受けて、他の人達を誘導するってことでいいんだよね?」
「ええ。ミカもまた別の変装をして、依頼者の配下という名目で、現地での指示を出すわ。」
「私は支援が中心になると思うけど、その分多くの人を上手く動かせるよう頑張るわね。あとは、こういう所に紛れ込んでる敵の排除も。」
「都市の中と外、どちらも叩かなければ、この一帯からテンマの影響は消せないんでしたよね。」
「うん。そういう意味でもこの作戦は良い気がするね。そろそろ私達も、感知妨害の魔法を解いて依頼を受ける準備をしようか、ミナモちゃん。」
「はい!」
そうして、この都市の依頼所で見かけた多くの人達が参加していることを確かめながら、私達も依頼の手続きを終え、テンマの残党の拠点へと攻め込む準備を整えた。
*****
「さて、早めに動くようにしたけれど、ここが依頼を受けた人達が集まる場所だよね。」
「ええ。日の高さからすれば、このくらいに着くのは余程気が早いか、抜け駆け狙いが考えられるけれど・・・」
『自由都市』を出て、森の中へと少し踏み込んだところで、私達は周囲を確かめる。
「サクラさん、感じますよね。こちらへ向かってくる数人の気配が。」
「うん。しかも殺気立ってるから、これは当たりかな。」
「迎撃の準備をしましょう。」
ミナモちゃんと私がうなずき合ったところで、ヒカリも続けて言った。
「メイさん。相手に接触できますか? 同じ依頼を受けた者として話しかけ、何かあれば即座に離脱。上から私が援護します。」
「あら、ミカ。私も行くわよ? 万が一の危険は排除したほうが良いでしょう。」
「・・・そうね。ヒカにもお願いするわ。」
「おい、メイが行くなら私も・・・」
「ティアは近接戦に慣れていないでしょう・・・」
「そうだ、ティア。最初は夜美花さんにお願いするけど、もっと敵が多かった時は私を守ってくれる?」
「ああ、任せとけ!」
「扱いが上手くなってるわね・・・」
「うん。メイの成長。」
メイとティアの会話に、シエラとシノが少し表情を変える中、やがて近付いてきた気配に、ヒカリと共にメイが向かってゆく。
「あなた達も、この先の賊を退治する依頼を・・・・!!」
「ぐ・・・?」
「が・・・!」
そして、相手が攻撃の構えを見せた瞬間、二人が飛び退くと同時にクナイが樹上から放たれ、テンマの手の者は瞬く間に倒された。
「そういうわけで、都市の中にも賊の手の者は少なからず存在しているかと思われます。背後からの攻撃にもどうかお気を付けて、討伐をお願いします。」
手足をきつく縛り上げられた敵を示しながら、集まった依頼の受注者達に、『依頼者の配下』として変装した夜美花さんが説明してゆく。
「こいつは、気を抜けねえな。」
「ああ、報酬を受け取る前にやられちまったら元も子も無いな。」
多額の報酬目当てでやって来た人達にも、始まりからの事件は、気を引き締めるのに良い機会となっているようだ。
「だが、
「そうよ! 白銀様ならきっと賊の首魁まで倒してくれるわ。私達は雑兵を倒すのに集中しましょう。」
ん・・・? 視線の先にはヒカリがいるけれど、どうやら『自由都市』で依頼を受けるうちに、二つ名が付いているようだ。
「それだけじゃねえ。俺はついこの間まで、海を渡って西で稼いでたんだが、あそこにいるのは『風斬り』だぞ。『商業都市』や『港湾都市』でいくつもの賊を壊滅させてきた・・・」
・・・うん。海路で人の行き来がある以上、知る人がいても仕方ないけれど、なぜここまで来て私は、こんなに話題にされているのだろう。
「サクラさん・・・」
「うん。ちょっと向こうへ行こうか、ミナモちゃん。」
心配そうに私を見るミナモちゃんの手を引いて、噂話で盛り上がる場から距離を置いた。
「あら、お疲れ様。サクラも西で本当に有名なのね。」
「やっぱり聞こえてたか。ヒカリも随分と二つ名が広まってるようだけど。」
その先で、笑みを浮かべているヒカリに苦笑を返す。
「まあ、色々と依頼を受けて解決してるのは確かだから、仕方ないわね。
それでも、王女としてどうこう言われるよりは、静かなものよ。」
「ああ、そういうことか。」
「それはもしかして、シエラさんやシノさんと同じ・・・」
「いえ、あの二人とはまた違うわ。私は暴れるのも好きだけど、国のことはそれなりに大事だから。」
「そう、なのですね・・・」
「まあ、ミカか国か選べと言われたら、迷わずミカを取るけど、そうでもなければ見捨てたりしないわ。むしろ国を変えてゆきたいわね。」
「なるほど、考えることが大きいなあ。」
「だから、カゲツやスイゲツを貴女達の国にするというのなら、協力は惜しまないけどね。」
「ああ、提案してくれるのはありがたいけど、私はそうすることは無いよ。」
「私も、国のことはまだ難しいですけど、ずっと一緒にいたいのはサクラさんですから・・・」
ミナモちゃんが私の手を握ったまま身体を寄せてくるのを感じて、強く握り返しつつ受け止めた。
「そう・・・それは少し残念だけど、今はテンマの残党の対処に集中しましょう。
周りが私達に注目して、士気を上げてくれるなら儲けものよ。」
「うん、確かにそうだね。」
「私も頑張ります、サクラさん・・・!」
少し離れた場所で盛り上がる気配を、今は好意的に受け止めながら、私達は先にあるテンマの拠点へと集中し始めた。
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