第48話 交流

「ふっ! はっ! っ・・・!」

メイが素早く打ちかかり、続けざまに短刀を振るうものの、鋭く弾き返されて顔をしかめる。


「息が上がってきたわね。そろそろ終わりかしら?」

その前には、幾度も打ち合いながら疲れを見せることなく、夜美花やみかさんがクナイを手に立っていた。


「まだまだ、行けます・・・!」

「・・・来なさい。」

それでも表情を変えずにメイが言うと、夜美花さんも応じ、再び二人の武器がぶつかり合った。



「あの子、テンマの残党に利用されてたのよね? なかなかやるじゃない。」

その様子を横目に見ながら、ヒカリが声をかけてくる。


「うん。経緯はどうあれ、闇に紛れて行動したり、戦うための技術は仕込まれたようだから。

 あとは・・・子供達にとって良いことかどうかはともかく、体力的な面でもね。」

「ああ・・・大変だったのね。でも、そんな連中に教わった割には、基礎がやけにしっかりしてないかしら?

 ミカを相手にして、押されてはいるとはいえ、崩されるまでには至っていないわ。」


「あはは。本人が熱心だと、色々してあげたくなるよね。」

「時間が空いた時には、結構教えてますもんね、サクラさん。」

「そういうミナモちゃんも、魔力の扱い方を少し伝授してたし、役に立ってるんじゃないかな。」

「はい、そうだと嬉しいです・・・」

私が教えている時、ミナモちゃんもずっと傍にいることが多いので、そんな機会も時には出てくる。


「ここに師がいたか・・・まあ、使う武器が違えど、立ち回りとかは共通して教えられるところもあるわよね。」

「うん。その辺り、よく分かっていると思うけど。

 でも、こうして戦い方の近い夜美花さんと手合わせ出来るのは、メイにとって本当に良いことだと思うよ。」

「ふふっ、ミカも何だか楽しそうに見えるわね。」

立ち合う二人を見ながら、ヒカリが笑みを浮かべて言った。



「おい、私のほうもちゃんと見てくれよ。これでどうだ。」

そうして、メイと夜美花さんの話が続いていると、少し不満そうな様子でティアが口を開く。


「ティアさん。金属の加工を教えていただいているのですから、失礼の無いようにしてくださいね。」

「うぐっ・・・わ、分かったよ。」


「あら、ごめんなさいね・・・・・・ええ、なかなか良く出来ていると思うわ。有名な魔道具士の娘だけあってか、素質もあるのかしら。」

これまでは父親が書き残したものや、城塞都市で読んだ本の知識をもとに、自分の魔道具を調整していたティアだけれど、

ヒカリに直接教えてもらうのは、大きな意味を持つだろう。


「よし! これでこいつを、もっと派手にぶっ放せるようになるぞ!」

「ティアさん、やりすぎには注意してくださいね。どれくらいの範囲に影響が及ぶかを考えて・・・」

「わ、分かったよ・・・」

早速、魔道具の強化を考えている様子のティアに、ミナモちゃんが注意する。今はメイが修練中だから、真っ先に止める必要を感じているのだろう。


「ふふっ、良い仲間が揃っているのね。」

「ありがとう、貴女と夜美花さんも凄いと思うけど。」

彼女達との交流で、ティアとメイが一歩前に進めるのなら、とてもありがたいことだ。




「ああ、やってるわね。ヒカリ、借りた資料はシノと一緒に読んだわ。」

ヒカリと夜美花さんが拠点にしている家の扉を開けて、シエラとシノが外に出てくる。

今、私達がいるのも、その庭にあたる敷地ではあるけれど。


「クロガネの国や伝わっている魔法について、少し分かった。ありがとう。」

シノもヒカリに向かい、ぺこりと頭を下げた。


「それは良かったわ。手持ちのものだけにはなるから、後でもっと渡せるものはあるけれど。」

「今はこれで十分。お姉ちゃんのほうも。」

「ええ。テンマについての情報は、どうしても東のほうが手に入りやすいでしょうし、助かるわ。サクラとミナモも後で読んでおいて。」


「うん、分かったよ。」

「ありがとうございます、シエラさん。」


「それで、二人のほうは順調?」

「うん。夜美花さんが付けてくれた印をもとに、気配は探れてるよ。」

「やはり、こちらにはテンマの残党も多いのでしょうか。あれだけ倒した後だというのに、周囲の人の数は多いように思います。」

そして私とミナモちゃんも、前回の戦いであえて逃がした数名の気配をもとに、敵地の様子を探っている。


「私としては、もっと早く攻めこんでも良かったんだけど、慎重になれってミカがうるさくてねえ。そんな時に皆が来てくれて助かったわ。」

「あはは、それはそうだと思うけど。国としても、きっと個人としても。」

「ふふ、私は後者だけあれば十分よ。」


「お姉ちゃんも、また無理しないでね。」

「ええ、もう二度としないわ。シノが傍にいるなら、しようとも思わないし。」

「ん、良かった。」

シエラとシノが微笑みあい、互いの身体を少し寄せた。



「・・・メイさん、疲れが溜まりすぎないところで切り上げましょう。私も主人とお話をする必要がありそうですので。」

「はい、お疲れ様です・・・!」


「あら、うるさいって言ったの聞かれてたわね。でもあの二人、何か通じ合ってない?」

「うん、それはあるだろうね・・・」

「おそらく、身近な人に振り回されるところは、似ている気がしますから。」

「ん、何か私のことを言ったか・・・?」

苦笑するヒカリに、私達が答えたところで、また魔道具の調整に没頭していたティアが振り返る。

今日は少しの休息と情報収集、そしてヒカリ達との交流の時間となりそうだ。

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