第47話 シロガネの主従
「・・・なるほど。前方の敵増援を殲滅したのは良いのですが、移動中の精神感応による会話が、そちらのお二人には聞こえる状態にあったというわけですね、ヒカリ様?」
「そ、そうだけど、何か言い方が恐くない?
敵の増援を全滅させた後、後方で退路を確保していたシエラ達と合流し、敵対する相手は居なくなったけれど、
私達と一緒に戻ってきたヒカリが、従者に報告する空気が冷えたものに感じる。
「・・・ヒカリ様、口を封じる許可を。」
「っ!! 止めなさい、ミカ! 今戦えば私達が無事では済まないわ!!」
近くの樹上から殺気が漏れ出した瞬間、私は剣を構え、ミナモちゃんも抱き付いて魔力を分けてくれたので、いつでも木ごと斬り刻む準備は出来ていたけれど、その前にヒカリが必死さを感じる声で静止した。
後ろの気配を確かめれば、シエラは火の魔法を辺り一帯に放つ準備を終え、メイがいつでも短刀を振るう構えを見せている。
ティアは少し反応が遅れたけれど、ヒカリのほうに魔道具を向けているのは・・・その従者の居場所が分からなかっただけかもしれないけれど、判断としては悪くない。
「・・・承知しました。貴女様がそこまで仰るのであれば・・・」
「別に私を立てて取り繕わなくてもいいわよ。自分でも状況を分かっているでしょう?
力を量ろうとするのは分かるけれど、攻撃の構えまで見せるには相手が悪かったわね。」
「・・・はい。大変失礼致しました。」
「じゃあ謝罪の意味も込めて、ミカも姿見せて。そちらの二人には聞かれてるし、さっき私の名前も全部話したと言ったでしょう? 言葉遣いも普段通りでいいのよ。」
「・・・・・・いや、敬語を止めさせてるのは、何処の誰だと思ってるのよ・・・!」
怒りを滲ませた声が響くと共に、黒い影が一瞬で降りてくるかのような動きで、ヒカリの傍らに黒い衣服・・・忍装束というのだったか、それを纏った女性が立つ。
「紹介するわ。私の護衛兼従者の
堅いのは好きじゃないから、こんな感じで良いと言ってるんだけど、本人は不満そうでね。」
「当然でしょう? あんたの立場もあるのだから。二人きりならともかく、この場で敬語を止めるとは思わなかったわ。」
「ふふっ、昔の呼び方をしないだけ、まだ譲歩しているつもりなのだけど?」
「・・・っ!! し、仕方ないわね。」
弱みでも握られているかのように、ヒカリの言葉に夜美花さんが動揺した表情を見せる。
呼び方についても、
「では、サクラとミナモにはもう話しているけど、私達が何者か教えるわ。貴女達のことも、出来るだけ知りたいわね。」
「・・・二人とも、良いのね?」
シエラが私達に確認を取ってくる。その手がしっかりと繋ぐのはもちろん、クロガネの王族の血を引くシノだ。
「うん。予想は付いてるだろうけど、さっきちゃんと話したから。」
「シノさんも、大丈夫ですからね。」
「ええ、分かったわ。」
「うん・・・!」
二人がうなずくのを見て、私達は話し始めた。
*****
「なるほど。シロガネの国もテンマの残党には危機感を抱いているのね。王女である貴女が、この自由都市にお忍びで拠点を構えるほどに。」
「ええ、お父様は表立って敵対を示すほど強気ではないから、こうして私が裏から潰そうとしているのよ。」
互いの紹介を一通り終えて、まずはシエラがヒカリに話しかけている。
「・・・護衛としては、たまったものではないのだけれど。」
「あら。だって『
「それ自体は本当だろうけど・・・ヒカリ、あんた楽しんでるわよね?」
「ふふっ、ミカも堅苦しい場所にいるより、私と二人きりのほうが良いわよね。」
「くっ・・・それはずるいわよ。」
うん。ヒカリと夜美花さんの関係も、だいぶ見えてきただろうか。
「ふふ、ああいう場所に居たくないという点は、共感するわね。」
「あら、『城塞都市』もそうなのね。本当に地位を捨ててくる貴女達も凄いと思うけど。」
「好きで就いたわけでもないし、私が居なくても
都市は回るからね。それに、シノを自由にしてあげたかったから。」
「ありがとう、お姉ちゃん・・・」
「さて、そのシノさんに話を聞いても良いかしら。貴女のお母様は、クロガネの王姉ということだったわね。」
「うん・・・」
視線を向けてくるヒカリに、シノが少し堅い表情ながらもうなずく。
「『盾』は使えるの?」
「多分、完全なものではないけど、お母様から教わった範囲では使える。」
「そう・・・貴女も聞いているかもしれないけれど、カゲツとスイゲツがそうであるように、シロガネとクロガネも血筋は遠くないわ。
私に出来ることがあるとすれば、その力を受け継ぐ意思はあるのかしら?」
「お姉ちゃんや皆を守るための力なら受け継ぐ。でも、国を継ぐつもりはない。」
「あら、先回りされたわね・・・頼もしいことだわ。貴女の思いは分かったから、こちらで考えておくわ。」
シノのきっぱりとした答えに、ヒカリが苦笑を浮かべながら言った。
「さて、この場に東の四ヶ国の王族関係者と三つの継承されし武具、そして城塞都市の前領将が揃ったわね。もちろん、変わった魔道具の使い手と斥候が出来る二人も。
自由都市にあるテンマの拠点を叩き潰すには、良い機会だと思わない?」
「ええ、元よりそのつもりだったから、私達としてもありがたいね。」
「『その先』も、こちらとしては考えておきたいけどね。」
「サクラさん・・・」
「スイゲツの国ね。自由都市のテンマの残党を叩けば、シロガネとしても次に注視すべきはそこよ。ここで協力関係を終わりにするつもりはないわ。」
「ありがとうございます、ヒカリさん。」
「こちらこそ、好都合と言えるわ。」
「あはは、とにかくこれからも宜しくね。まずはこの都市から、テンマの影響を排除しようか。」
シロガネの主従を加えて、私達は東の地に巣食うテンマの残党を倒すべく動き出した。
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