第46話 共闘
「サクラさん・・・!」
「うん、敵の気配を感じるね。一緒にやろうか。」
「はい!」
「あら、二人だけで秘密のお話かしら?」
「いや、別に隠しているつもりはないけど、最小限の会話で通じるってところかな。」
これからの戦いについて、ミナモちゃんと手短に言葉を交わしていると、依頼所でサナと名乗った女性が横から声をかけてくる。
「ところで、貴女の呼び方は『サナ』で良いのかな?」
「あら、嘘を吐いているつもりはないのだけれど、含みがあるような言い方ね。」
「あはは、それ自体は本当だろうけど・・・」
「その・・・私達の前にそんな武器を持ち出してきて、隠したいのか明かしたいのか、どちらなのでしょう。」
少しばかり会話で探りを入れたところで、ミナモちゃんも彼女の背にある槍を見て言った。
「ふふ、流石は『華月』と『水月』の継承者ね。これを使うのは、単純に一番強い装備だからなのだけど、お互いに確信を持てたのなら良かったわ。」
微笑みと共に、彼女が纏う雰囲気が変わる。
「敵が近いようだから手短に。私の名はヒカリ・サナツキ・シロガネよ。」
そうして語られたのは、この東の地で未だ健在と伝えられる一国の王族を示す名前だった。
「こちらは国が続いていた場合の名前だけど、貴女に合わせるなら、サクラ・ヤヨイ・カゲツ。」
「私はミナモ・ウヅキ・スイゲツです。」
「こんなところで会えるとは、本当に奇遇ね。敵を殲滅したら、もう少しゆっくりとお話したいわ。」
「いや、一番会えそうな気がしないのは貴女だと思うけど・・・それはともかく、私とミナモちゃんは風魔法で飛びながら行くよ。攻撃の方向には互いに気を付けるということで良いかな?」
「ええ、構いませんわ。カゲツとスイゲツの力、楽しみにしていますわね。」
そうして、敵が間近に迫ったところで、私達とヒカリはうなずき合い、少しの距離を置いた。
「それじゃあ、行くよ。」
「はい・・・!」
ミナモちゃんが私にぎゅっと抱き付き、魔力を分けてくれる。
その温かさを感じながら風魔法を発動し、私達の周囲を取り巻いたところで、近くの木の上へと飛び上がった。
「ティアさんとメイさんに攻撃してきた人達もそうでしたけど、危ない魔道具は付けていないんですね。」
「うん。ここでは人に紛れて活動することを重視しているのかな。それなりの腕はありそうだけど。」
二人で敵の様子を見ながら、研ぎ澄ませた風魔法を剣に纏わせてゆく。
「あの辺かな。」
「はい・・・!」
そして狙いを定め、私達の魔力を乗せた風の斬撃を、敵の中へと放った。
「ぐあああっ・・・!!」
「て、敵襲か?」
その先にいた数人が装備や身を切り裂かれ、吹き飛びながら地面を転がってゆく。
「もう一撃行くよ。」
「はい!」
動揺する敵方が固まった場所を狙い、私はもう一度剣を振り抜いた。
「お見事ですわね。とはいえ、全て倒されてしまっても困るのですけど。」
「・・・!!」
私達の攻撃にまた数人が倒れたところで、白銀に輝く槍を手にしたヒカリが、反対側から敵に近付いてゆく。
「お前の仕業か!!」
「別口ですわ。」
「ぐ・・・あああっ・・・!!」
すぐさま襲いかかってきた相手に、素早く槍を突き出すと、その肩口を貫き、軽い振りと共に後方へと跳ね飛ばした。
「てめえっ!!」
「余裕の無いことですわね。」
「・・・!!?」
それを見て数人がさらに迫るものの、魔力の光がそこへ走ると、何が起きたのかすら分からない表情で、ばたばたと地面に倒れ伏していった。
「あれがシロガネで受け継がれてきた武器・・・興味深いね。」
「はい。シノさんが受け継いでいるクロガネの技が『守り』なら、シロガネは自由自在な『攻め』なのでしょうか。」
「うん。それじゃあ、こちらも合わせて行こうか。」
「はい・・・!」
味方の攻撃方法がある程度分かったところで、それを妨げない場所を狙い、私達も続けて斬撃を飛ばしてゆく。
ヒカリもそれを把握した様子で勢い良く槍を振るい、両側から攻められた敵は次々と倒れていった。
「あれ・・・? ヒカリさん、こちらを見ましたか?」
「ああ、相手が残り少ないから、どうするか気にしていそうだね。」
「そ、そういうことですか・・・」
敵方は姿を見せているヒカリに相対しつつも、こちらからの斬撃を警戒し、半ば二手に分かれる形となっている。
「近くに増援はいないようだから・・・ミナモちゃん。真ん中のあの人を狙える?」
「分かりました・・・!」
ミナモちゃんがうなずくと共に水魔法を放ち、瞬く間に標的の手足を縛り上げた。
「ありがとう。最後は直接行こうか。」
「はい!」
ミナモちゃんと寄り添ったまま、風魔法で木から飛び降りると、水流で縛られた人を境に、こちら側の敵を剣で打ち据え、気絶させてゆく。
「ふふ、把握しましたわ。」
ヒカリもそれを見て、槍を手に大きく踏み込み、反対側の敵を次々と倒していった。
「よし、これで終わり。」
最後にミナモちゃんが縛り上げていた一人を、剣で打ち気絶させると、私達とヒカリ以外に立つ者はいなくなった。
「サクラさん、お疲れ様でした。」
「うん、ミナモちゃんもね。」
私に抱き付いたまま、体をぎゅっと押し当ててくるのを感じながら、優しく頭を撫でて、そして歩み寄ってくるもう一人に向き合う。
「お見事でしたわ。カゲツとスイゲツの武具に、お二人の連携も素晴らしいのですね。」
「ありがとう、貴女の強さも見ていてよく分かったよ。」
「シロガネの武具も、素晴らしい力を持っているのですね。」
槍を背負い直し、満足そうに口にするヒカリと、私達は微笑み合った。
「さて、予想よりも早くこちらが終わりましたが、後ろと合流しましょうか。」
「うん・・・気配を見る限り、向こうもほとんど片付いているようだけど、一度そうするのが良いだろうね。」
「あら、感知の腕が宜しいようで。もしや、ミナモさんもでしょうか。」
「はい、サクラさんと私は同じくらいです・・・」
そう言いながら、ミナモちゃんがちらりと私に目を合わせる。
・・・うん、伝えるなら今が良いだろうね。
「そうだ、感知といえば・・・精神感応の魔法は便利だけど、不用意に使うと魔力の質が近い相手には読み取られやすいかな。」
「その・・・妨害魔法を応用するなどして、二人の間でしか分からない仕掛けを組み込むと良いかと思います。」
「・・・・・・き、聞かれていましたの?」
ヒカリの表情が、笑顔を張り付けたまま固まるのを感じる。
「え、ええ・・・お二人が何も悪くないのは、むしろ親切に教えてくれているのは、こちらが不用心すぎたのは、分かるのよ・・・・・・でも、お願い。少しだけ気持ちを落ち着かせる時間を頂戴・・・!」
頭を抱えしゃがみこみながら、ああああああ・・・! と押し殺した叫びが僅かに漏れるのを、ミナモちゃんと苦笑を浮かべながら見守った。
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