第45話 襲撃

「なあ、こっちで良いのか?」

「うん。ぼんやりとだけど、何かありそうな気配がするよ。手分けして探すことになってるし、もう少し進んで調べてみよう。」

日が暮れかけた中を、ティアとメイが二人で歩いてゆく。


「少し草木が多くなってきた。思わぬ動物とかいるかもしれないけど、ティアは大丈夫?」

「ああ、もちろんだ。どんな奴が出てきても、私がぶっ飛ばしてやる。」

「ありがとう。それじゃあ、このまま行くね。」

隠すことのない言葉を交わしながら、目的を果たすために、茂みの奥へと進んでいった。


「・・・! 人がいる。」

やがて、その足はぴたりと止まり、メイが警戒の声を上げる。


「私はいつでもいけるぞ。」

「分かった。ここまで来たら情報がほしい。敵だった時はお願い。」

「ああ、任せとけ。」


「ほう、よく来たな。だが、お前達はここで捕まってもらうぞ。」

「「・・・!!」」

間もなく、先の開けた場所で二人を出迎えたのは、見覚えのある数名が武装した姿だった。


「なるほど。港で会った両側商に、依頼所の中で見かけた人もいる。あちこちに危ない人達は潜んでいたってこと。」

「まあ、いつもとやることは変わらないな。こいつらをぶっ飛ばす!」


「ふん、甘いな。自分達が囲まれているとも知らずに!」

「・・・!! 気配が増えた。ティア、気合い入れるよ。」

「ああ、もちろんだ!」

二人が武器を握り締め、自分達を囲む相手を睨み付ける。


「喰らえっ!!」

そして、ティアが魔道具から光を放ち、戦いは始まった。



*****



「ちいっ! しぶとい奴が多いな。」

一向に数の減らない相手を見ながら、ティアが舌打ちをする。


「ティア、集中を切らさないで。着実に一人ずつ倒してゆこう。」

「ああ、分かったよ。」

真っ先に魔道具からの一撃を受けた両替商は、すぐさま地面に倒れ、続けてメイも短刀を手に飛び込み数名を仕留めたが、

すぐに相手も警戒を強め、さらに増援もやって来るため、状況は変わらない。


「ははっ、さっさとあきらめて、捕まったらどうだ?」

少しの距離を保ちつつ、嘲笑うように敵の一人が声をかけてきた。


「・・・仕方ない。ティア、第二段階。」

「ああ!!」

相手もこちらに接近してこないことを確かめ、メイが口にすると、ティアがうなずいて魔道具に宝石を込める。


「行くよ。」

「ああ・・・掃射!!」

「ぐあああっ!?」

そうして、ティアが魔道具の向く先を動かしながら、広範囲に放たれた強い光の線に、敵がばたばたと倒れていった。


「そこ、後ろから狙っても無駄。」

「ぐっ・・・!」

その様に動揺し、後方から襲いかかろうとした数名に向かい、メイが素早く刃を走らせ、動きを止めた。



「くっ・・・! こいつらは総出でも仕留める!!」

変わりゆく形勢に、頭目らしき男が歯ぎしりをしつつ小さな笛を取り出すと、

ぴい、と高い音が周囲に響き渡る。


「・・・! 気配が、たくさん近付いてくる。」

元々向かおうとしていた先から、あるいは都市の方角から、それがやって来るのを感じた様子で、メイが険しさを増した表情で言った。


「お前達に逃げ場は無い・・・!」

その動きに戦意を取り戻した様子で、後方で距離を取っていた敵が再び二人に迫る。


「・・・!!」

すぐさまメイが迎撃に向かった瞬間、上方からクナイ・・・東の地特有と聞く武器が飛来し、敵の肩口を貫いた。


「予想外だけど、良かった。」

僅かに動揺を見せつつも、メイは動きを鈍らせることなく、呼応するように短刀を振るい、相手を斬り伏せた。




・・・本当に予想していたわけではないけれど、も意思表示をしてきたし、良い頃合だろう。


「ティア、メイ、私達も今から入るよ。」

「ああ!」

「分かりました。」


手分けして情報を集めるという名目で、別の場所へと向かう動きを見せた後、妨害魔法で隠れつつ合流し、敵の動きを注視していた私達もこの機に戦闘に加わる。

敵の増援がどこからやって来るのか、そしてが対立する存在ではないと分かっただけでも、大きな収穫だろう。


演技の得意さの問題から、メイがティアを危険な場所に先導するという、普段の私達からすれば珍しい動きをすることになったけれど、そこまで見ている敵はいなかったようだ。



「な、なんだ・・・!? ぐわああっ!!」

私とミナモちゃんが前方の敵に飛び込み、水魔法で行動を制限された相手を素早く斬り捨てる。


「あ、熱いっ・・・!!」

「私の出番は・・・無いに越したことはないか。」

シエラとシノに居場所を把握されていた後方の敵も、火の魔法の直撃を受けて、地面に倒れた。


「これで、近くの敵は全て倒したわね。

 すぐに増援が来そうだけど、前方の数が多いほうはサクラとミナモで遊撃、私達はここで後方からの敵を排除し、退路を確保してから援護に向かう形でどうかしら。」

「うん、私もシエラの案で良いと思う。

 ・・・それで、貴女達はどうするのかな?」

まず私達の動きを決めた後、早い段階から同じように状況を伺っていた、その気配に向けて声をかける。



「・・・お見事ですわね。敵の本拠から来る増援は数も多い模様。私も助太刀させていただきますわ。」

依頼所でサナと名乗っていた女性が、白銀に光る槍を背負いながら、ひらりと舞い降りてくる。


「それはありがたいけど・・・さっきのクナイの人は?」

「さすがに目敏いのですね。夜美やみ、この方々との連携は初めてですし、私も少々暴れたい気分ですので、貴女は退路の確保を支援してくださるかしら?」

「承知。」

静かに響くような声が、近くの樹上から短く返った。




『あんたねえ・・・・作戦としては分かるけど、護衛する身にもなりなさいよ。』

『大丈夫よ。下手を打つようなつもりはないし、この二人は相当に出来そうだから、共闘なんて楽しみだわ。』


『戦闘狂みたいなこと言ってるんじゃないわよ! 楽しむなとは言わないけど、安全第一、突出は厳禁よ。』

『分かったわよ。そっちこそ、誰かに怪我させて心証悪くしないでね?』

『もちろんよ。気を付けるわ。』


周囲の感知に集中していたら、不意に頭の中に響くような声。

原因はおそらく、彼女達の間を結ぶと思われる魔力の線・・・精神感応の魔法というものだろう。

二人が意図せずとも、口に出していた言葉の雰囲気をがらがらと崩すような交感が、私達にまで届いてしまうのは、きっと・・・


ミナモちゃんが困ったように視線を向けてくる。こちらにも聞こえていることは、相手に伝えるべきかと。

小さくかぶりを振る。これから共に戦うという時に、気まずい雰囲気になるのは止めておこう。

そうして微笑み、うなずき合う。精神感応の魔法を使わなくとも、今の私達は心を通わせることが出来るようだ。


もちろん、彼女達の絆も強いものに思えるけれど、願わくばこの戦いの後にも、良い話が出来るように。

近付く敵の気配に気を引き締めながら、私達は前へと進んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る