第44話 取り巻くもの

「貴女方へのご用・・・とまで言うと大袈裟かもしれませんが、この都市へいらして間もないように見えましたので、そちらの依頼についてお話しようと思いましたの。」

私達の警戒を知ってか知らずか・・・いや、ほぼ確実に察していると思うけれど、サナと名乗る女性が話を続ける。


「ふうん。それはありがたいけれど、貴女は何故そこまで詳しいのかしら?」

わたくしも同じ依頼を受けているからですわ。

 武器や魔道具を奪われる方々があまりに多いので、この都市も依頼所も事態を重く見まして、解決に動く人の数を抑えてはいませんの。

 その分、貴女方への報酬は減ってしまうかもしれませんけれど。」


「報酬ねえ・・・あるに越したことは無いけれど、それ以上にこんな事件が放置されたままでは、安心して旅も出来ないわ。皆、このまま依頼を受けることで、問題ないわよね?」

「うん、もちろんだよ。」

相手の出方を見つつ、慎重に答えるシエラに皆がうなずく。

実際のところ、お金に困るような旅はしていないけれど、報酬を全く気に留めない様子を見せれば、間違いなく怪しまれるだろう。


「それは心強いですわ。一つお話しておきますと、この件では偶々たまたま不幸に出会でくわした方、あるいは依頼を受けて調査していた方、どちらにも被害が出ていますの。どうか貴女方もご注意なさいますように。」

「それは良いことを聞いたわね。私達が事件を解決した時には、御礼が必要かしら?」


「いえいえ、そこまで恩を売るつもりはございませんわ。ただ・・・ご縁があれば解決の際にはご一緒できますと嬉しいですわね。

 それでは、わたくしは調査に向かいますので、失礼しますわ。」

そうして、気品を漂わせる笑顔を残し、女性は依頼所を出ていった。



「・・・行ったわね。」

「うん、だけど・・・ミナモちゃんも気付いてるよね。」

「はい。あの人にも気になるところは色々とありますが、他にもこちらの様子を伺っている気配がいくつも・・・」

周囲に話が漏れないよう、風魔法で私達を取り巻いた上で、ミナモちゃんと小声で情報を伝え合う。


「分かったわ。まずは依頼を受ける手続きをして、ここを出ましょうか。」

シエラが纏めるように口を開き、受付での用件を済ませると、速やかに全員で依頼所を後にした。




「自由都市に着いたばかりだというのに、随分と慌ただしいわね。ここが西の地とは違うということを思い知らされるわ。」

少しばかり歩き、周囲に人の気配が少ない場所を見付けたところで、シエラがため息をつく。


「みんな、気配とかよく気が付くな。私は丁寧すぎる奴は苦手だと分かったくらいだが。」

「ティア。本当に気を付けて、色々と・・・」

うん。メイが心配している通り、さっきの人も敵に回すと、きっと面倒だからね。


「さて、サクラ、ミナモ。もう話をしても良いかしら?」

「うん。私達の周りに新しい妨害魔法を張り巡らせたから、ひとまずは大丈夫かな。」

「干渉があれば気付けますので、すぐにお伝えしますね。」

相手の情報を得ようとする手段や、逆にそれを妨害する方法は色々とあるけれど、

これまで身に付けたものや、得意なことがそれぞれに違う、私とミナモちゃんの魔法を二重三重に組み合わせて、これまでよりも強力にしたのが今回の妨害魔法だ。

テンマの残党が探知に手を尽くしてきたとしても、すり抜けられないよう工夫を凝らしている。


「しかし、そんなものいつの間に作ってたんだ?」

「ティアが寝てる間だと思うよ・・・」

「うん、夜中に少し目が覚めたりすると、二人がベッドの中で囁きあってる時がある。」

「シノ、それは少しばかり誤解を招きそうな言い方だわ・・・」


「えっ・・・? 何も間違っていないと思いますが。」

「あはは、そういうことにしておこうか。」

「・・・わ、分かったわ。それよりも、依頼所でのことよね。」

うん、このままだと話が混乱してきそうなので、シエラが本題へと戻してくれたことに感謝しよう。



「さて、一番気掛かりなのは、サナと名乗った女性のことよね。私としては、現時点では敵ではないけれど、簡単に信用も出来ないという印象かしら。」

「はい・・・私も、嘘はついていないと思うんですけど、隠してることも多い気がします。」

「うん、感じたことは大体同じだよ。包み隠してるように見えるなあ。」


「二人の感知でも、そんな印象なのね・・・城塞都市にいた頃を少し思い出してしまったわ。味方にもなりうるけれど、対立すれば確実に障害となる有力者と、向き合っている気がして。」

「あはは、それは良い例えかもしれないね。私としては、シノがどう思ったかも聞いてみたいけど。」

少し遠い目をするシエラの隣で、先程のことを思い返している様子のシノに尋ねる。


「確かに、じっと見ていたわよね。何か気付いたのかしら?」

「・・・私は、感知はあまり得意じゃない。でも、サクラとミナモに初めて会った時よりも、濃くて強い。」

答えるその表情が、普段よりも険しいものに映った。


「シノさん・・・それじゃあ、やっぱり・・・」

「うん。ミナモちゃんと私が感じたものを合わせると、ことなんだろうね。」


「なるほどね・・・シノ、その相手と向き合う覚悟はあるの?」

「うん・・・!」


「分かったわ。私はいつでも傍にいるから、不安な時はすぐに言いなさい。」

「ありがとう、お姉ちゃん・・・!」

肩にぽんと手を置いた、シエラとうなずき合う声に、柔らかさが戻ってゆくのを感じた。



「さて、あまりのんびりしてもいられないわ。これからの動きについて決めてゆきましょう。」

「うん・・・!」

取り巻く状況は簡単ではないけれど、それでも先へと進むため、辺りの気配に注意しつつ、私達はまた話し始めた。

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