第41話 東の地へ

「それじゃあ、これが港湾都市での最後のお仕事になるよ。ティアとメイは配置に付いて。」

「ああ・・・!」

「分かりました。」

私が小声で言うと、二人が建物の裏側へと小走りに駆けてゆく。


「着いたようですね。」

「うん。じゃあ行くよ、ミナモちゃん。」

「はい・・・!」

周囲の気配を確認したところで、私達は先にある扉を開き、すぐさま声を上げた。


「港湾都市からの依頼で、この建物での盗品の取引について確認させてもらいます。速やかに手を止めて・・・」

「ちいっ!!」

言い終わる前に、近くにいた数人が武器を手に取り、襲いかかってくる。

まあ、こんな風に私達が正面から突入する時点で、状況ということだ。


「おっと、抵抗は無駄だよ。」

すぐさまこちらも踏み込み、風魔法で素早く移動すると共に、すれ違い様に剣を打ち付けて気絶させる。


「動かないでくださいね。暴れたらもっと強く縛りますよ。」

後方ではミナモちゃんが水魔法を発動させ、何人もの手足を縛り上げていた。


「に、逃げるぞ!」

その情況を見て、建物の奥のほうにいた人達が、慌てて身を翻し駆け出してゆく。


「うん、作戦通りだね。」

「はい・・・!」

私達はうなずき合うと共に、急ぎすぎない程度にその後を追った。



「おっと、この先は通さないぞ!」

「!!」

逃げた人達が向かった先で、ティアが魔道具から光魔法を足元へと乱射し、相手方の動きを止める。


「大人しくしてね。」

そこへメイが目にも留まらぬ速さで飛び込み、慌てる人達を次々と短剣で気絶させていった。


「よし、これで全員かな。」

「はい、周囲に逃げた人の気配はありません。」

最後に逃げ戻ってきた数人を私達が捕らえ、盗品の取引に使われていた建物の制圧は完了した。



「皆、お疲れ様。」

「心配はしてなかったけど、無事に終わって良かった。」

港湾都市の警備隊や調査員への引き渡しを終えて依頼所へ戻ると、

私達がここへ来てからのあれこれについて、都市の人達と交渉をしていた、シエラとシノが迎えてくれる。


「この依頼を無償で請け負うことで、こちらの要望は通ったわ。メイも安心して良いわよ。」

「あ、ありがとうございます・・・!」

テンマの残党に強制されていたとはいえ、メイや子供達はそこで働いていたことにはなるし、特にメイは盗みにも関わっていたので、罪に問われる可能性もあった。

それをシエラ達がしっかりと纏めてきてくれたので、一安心というところだろう。


「まあ、今日はメイが盗賊を何人も捕まえたんだし、これで文句を言ってくるようなら、余程頭が固い人ってところかな。」

「ええ。どうしてもと言うのなら、私と『風斬り』が相手になるけれど。」

「そ、そんな判断をする者は、さすがにこの都市にいないかと・・・」

うん、受付の人が冷や汗をかいている気がするけれど、あまり好きではない二つ名も、こんな風に役に立つのなら良いか。


「さて、お騒がせしてしまったけれど、私達は準備が整い次第、東へ向かう船に乗るわ。あの連中の本拠地を叩くためにね。」

「はい・・・先日の一件や今日の依頼、皆様が港湾都市で成してくださったことに、私共も本当に感謝しております。どうかお気を付けて・・・!」

シエラが依頼所の人達に挨拶をして、私達も動き出す。この都市でやるべきことを終えて、東の地へと向かうために。



*****



「いよいよ出発だね、ミナモちゃん。」

「はい・・・! すぐにスイゲツの国があるわけではないので、まだお母様を探すには早いですが、数日後には東の地へ・・・」

そうして、道中の準備や定期船を待つ時間は過ぎ、港湾都市から出発する日がやって来る。


「私からすると、お母様の故郷・・・国はもう無いと聞いたけれど。」

「どんな場所でも、私達は一緒よ、シノ。」

「うん、お姉ちゃん・・・!」

これから進む方角を見ながら、つぶやくシノに、シエラが寄り添っている。


「私にとっても、親父達に色々した連中の親玉がいる場所ってことだな。メイも同じようなもんだろ。」

「そうだね、ティア・・・!」

ティアとメイも、テンマの残党の本拠地へと向かうことに、気持ちを新たにしているようだ。


「しかし、船って初めてだな。ちょっとあちこち見て回るか。」

「ティア、走ったら他の人達に迷惑だよ。」

・・・いや、この辺はいつも通りかな。



「そうそう、船に慣れない人は体調を崩すこともあると聞くからね。

 甘い物とか、症状に効くとされるものは用意してあるから、皆に配ろうかしら。」

「うん。ありがとう、お姉ちゃん!

 ・・・ティア、メイ、静かにしないとお預けかもね。」


「いや、私は構わないが・・・」

「ティア、そう言って真っ先に悪くなりそうだから、気絶させても連れてくよ。」

「わ、分かったって・・・」


「あはは、こんな風に焦りすぎないくらいで良いのかもね。」

「はい・・・! 皆さんがいるのが心強いです。

 あっ、もちろん、サクラさんの隣にいる時が一番ですが・・・」

「うん、私もだよ。」

身体を寄せてくるミナモちゃんの頭を撫でてから、手を繋いでシエラとシノのもとへ向かう。


やがて出航を知らせる鐘が鳴り、私達が乗る船は『自由都市』ユウバエへと進み出した。

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