第40話 穏やかな朝のために
「・・・目が覚めちゃいましたね。」
「あはは。昨日は警戒してみんな起きてたから、元に戻った気分だよ。」
夜が明けるにはまだ早そうな時間に、サクラさんと二人だけ眠りから醒めて、顔を寄せて囁き合います。
「せっかくなので、あちらの様子は・・・よく寝ているようですね。」
「うん、メイが幸せそうで良かったよ。」
昨日の夜にテンマの残党に命令されて、この部屋へと侵入してきたメイさんが、
今はあの時に望んだ通り、ティアさんに抱き付いて穏やかな寝息を立てています。
「ティアさんは少し苦しそうですが、起きそうな気配は無いので大丈夫でしょう。・・・問題は朝のほうですが。」
「それは、メイが宣言通りに面倒を見てくれることに期待しようか。」
「はい・・・!」
私達のほとんど毎日の悩み、ティアさんの朝寝坊を止めてくれることに期待しますよ、メイさん・・・!
「シエラさんとシノさんも・・・ぐっすりですね。」
もう一つのベッドに目を向ければ、いつも通りではありますが、抱き合って眠る二人の姿。でもどこか、眠りが深そうな様子です。
「そうだね・・・テンマの拠点との往復でだいぶ歩いたし、シエラは警備隊への報告や交渉事でも頑張ってくれたから、疲れてるかな。」
「シノさんも、地下でのメイさんとのお話や、きっと私達が奥に行っている間、あの子供達とも・・・」
「うん。城塞都市でそういう話の仕方も身に付いているんだろうけど、
こういう時は、二人に頼りがちになっている気がするかな。」
「東の地に着いたら、私ももっと力に・・・」
「そうなるかもしれないけど、ミナモちゃんの身分をどこまで明かすかの問題は付いて回るし、何よりみんなで協力することには変わりないからね。」
「はい・・・!」
港湾都市の目前に広がる、海を渡った先のことについて、私達は思いを馳せました。
「あの子供達も、よく眠れていると良いですね。」
「うん。シエラがしっかりとお願いしてくれていたし、あの拠点のように悪い扱いを受けることは、もう無いんじゃないかな。」
「はい・・・・・・サクラさん、ふと思ってしまったんですが、城塞都市でのテンマの拠点にいたような、危険な魔道具を平気で身に付けてしまう人達って・・・」
「そうだね・・・二百年前からの恨みを抱いたまま、世代を重ねてきたテンマの国の末裔かもしれないし、
もしかしたら、どんな命令でも従うように育てられてしまった、元はあの子供達と同じような存在かもしれないね。」
「・・・っ!! もしそうだとしたら、ひどすぎます・・・!」
「うん。誰もが好きな生き方を選べるわけではないけれど、最初から育てる側が強制するのは違うかな。
私も母さんには色々と厳しく教え込まれたけど、実際に役に立っていることは多いし、カゲツの剣を渡された後には、好きに生きろって言われたからね。」
「それはそれで、少し厳しすぎる気もしますが・・・」
「あはは、確かにそうかも。ミナモちゃんはきっと、お母さんが優しい人だったんだよね。
初めて会った時、ほとんどの記憶を失くしてたはずだけど、すごく丁寧で優しい子だなって思ったよ。」
「は、恥ずかしいですけど、サクラさんがそう思ってくれたのなら、嬉しいです。
国の方針とかであまり外には出られませんでしたけど、お母様は本当に優しかったですし。」
顔が熱くなって、視線を落としながら言うと、
サクラさんがそのまま胸の中へと、抱き寄せてくれます。
「ミナモちゃん。テンマの残党を止める理由が、一つ増えたね。あんな風に集められて、組織のために利用されている子供達は、解放しないと。」
「はい・・・! 生きる道はちゃんと、自分で選べるようにしてあげたいですね。」
つい先程までそうだったメイさんと、子供達のことを思いながら、私達は誓い合いました。
*****
「ねえ、ティア。朝だよ、起きて?」
そして朝を迎えると、メイさんがティアさんの体をゆさゆさと揺らし、続いて頬をつんつんと突いています。
「う・・・ん・・・もう、少し・・・・・・」
しかしティアさんからは、まだ夢の中なのか、目覚めかけているのか、分からない声が返りました。やはり水魔法が必要でしょうか・・・
「ティア・・・今起きたら、素敵な魔道具がいっぱい・・・きらきらした石を撃ち出したら、たくさんどっかんできる・・・
起きなかったら大変、台車に乗せられて、もう手に入らない遠くのほうへ・・・」
そう思っていると、メイさんがティアさんの耳元に唇を寄せ、ささやき始めました。
「ん・・・・・・ああ、魔道具・・・?」
「ほら、ティア。ちゃんと目を覚まして、捕まえて?」
「あ、ああ・・・・・・! 誰か、魔道具について話してたか?」
それに反応があったところで、すかさずメイさんの追撃が入り、ついにティアさんが目を覚まします。
「ティア。ちゃんと起きられたから、良い夢が見られたんだね。よしよし。」
メイさんがすぐに微笑み、頭を優しく撫でました。
「・・・確かに夢は見た気がするが、私は子供か?」
「・・・ティア、こういうの嫌?」
「そ、そんなことはないぞ・・・!」
哀しそうな表情を見せたメイさんに、ティアさんが少し慌てた様子で答えます。昨日も同じような場面を見た気がするのですが・・・
「・・・くすっ、子供っぽいなら別のやり方をするけど、ティアがちゃんと起きてくれたから、触りたいのは本当だよ。」
「あ、ああ、起こしてくれてありがとうな。」
「ティア。どちらにせよあなたが一番遅いんだから、そろそろ顔を洗ってきなさい。」
「わ、分かったよ・・・」
メイさんがくすりと笑った後、シエラさんに注意されて、ティアさんが水場へと歩いてゆきました。
「メイさん。本当にティアさんをすぐ起こしてしまうなんて、すごいです・・・!」
「ありがとう。実はあの場所で、下の子達をよくこんな風に起こしてたの。
もちろん、魔道具の夢だけじゃなくて、どんな話で起こすかはその時々で変えていたけど。」
「メイ。ティアは魔道具のことばかり考えているから、毎回さっきのでも良いと思う。」
「分かった。飽きられるまでそうしてみるわ。」
そうして、メイさんとシノさんと三人で笑い合って、私はサクラさんのところへ戻ります。
「いい朝だね。」
「はい・・・!」
夜が明ける前の、私達だけの話を思い出しながら、そっと微笑み合いました。
私達はもうすぐ、東の地へと向かいます。
こんな穏やかな朝を、これからも迎えられるように。
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