第39話 一件落着

「ふう・・・これで全員だね。」

敵の拠点を調べ終え、向かってきた相手は残らず気絶させた後、紐で縛り上げるところまで済ませて、ようやく一息つく。


「置いてあった魔道具もざっと調べましたが・・・詳しい使い方はともかくとしまして、すぐに対処しなければ魔力の暴走が心配、といったものは無さそうです。」

ミナモちゃんも少しほっとした様子で、大きな台の上に所狭しと並べられた道具類から、視線を外した。


「直接関わったもの以外は分からなくて、すみません・・・」

「気にしないでください、メイさん。教えていただいたものだけでも、とてもありがたいですよ。」


「私の魔道具に取り付けられそうなのもあるよな・・・これ、いくつかもらってもいいか?」

「ティアさん・・・ほとんどが盗まれたものでしょうし、駄目に決まってますよね?」


「うん、ティア。そんなことしたら、私みたいに・・・こほん、ティアが助けてくれる前の私みたいになっちゃうよ。」

「うぐ・・・わ、分かったよ。」

メイに少し陰の入った笑みを向けられて、ティアが気まずそうな表情を見せる。


「・・・メイさん、大事な相談があるのですが、これからもティアさんが暴走しそうな時、止める役目をお願いできますか?」

「はい! ティアのために頑張ります・・・!」

「おい、待て・・・・・・」

今まで、こういう時はミナモちゃんが止めることが多かったから、事の重大さにすぐ気が付いたようだ。

これで毎朝の寝坊も防げるようになれば、完璧と言えるのかもしれない。




「シエラ、シノ。こちらのほうは無事終わったよ。」

「ええ、お疲れ様・・・・・・って、何なのよ、その大荷物は。」

「すごく重そう。いや、これは・・・」

そうして、子供達を保護していた二人のもとに戻れば、私達がごろごろと転がす大きな台車に、当然ながら視線が向く。


「奥のほうにこれがあったから、気絶させたテンマの残党を全員載せてきたよ。

 紐で縛ってはいるけど、後で引き渡すことを考えると、こうしておいたほうが良いかと思ってね。」

「ああ、それは確かにそうよね・・・」


「ちなみに、シノさんが気付いた通り、サクラさんが風魔法をかけてくれたので、全然重くないですよ。」

「やっぱり・・・風はこういう時に便利。」

いや、相手の攻撃が激しい時には、シノの守りも本当に頼りになるからね?



「うわあ・・・! あいつらが全員捕まってる。お姉ちゃん達、すごい!」

「メイもお手伝いしたって本当?」


「ああ、私の目の前で五人くらい倒したのは、確かにメイだぞ。」

「わあああ・・・!!」

「ちょっと、ティア・・・! み、みんな、ありがとう。」


「うん。やっぱり、こうして良かったかな。」

「ええ、そうよね。」

「メイさん、嬉しそうです。」

喜ぶ子供達と、それに囲まれるメイを見て、私達も密かに笑った。




「さて、捕らえたテンマの残党に、まだ奥にある盗品らしき大量の魔道具も、港湾都市への報告が必要よね。

 また組を分けて都市のほうへ・・・分かってはいたけど、面倒だわ。」

「ああ、シエラ。それなんだけど、楽に出来るかもしれない方法はあるよ。

 場合によっては、すごく怒られるけど。」


「なるほど。サクラさん、あれですね! って、港湾都市のも持っていたんですか?」

「うん、ここでも盗賊の討伐依頼は受けてたからね。

 ただ、来ること自体が久し振りだから、今もやって良いか分からないんだけど。」


「・・・警備隊への、緊急連絡の狼煙ね。

 いいわ。私が全責任を負うからやって頂戴、サクラ。」

「ありがとう。それじゃあ、すぐに準備するね。」

本当はシエラも、城塞都市の前領将としての立場は使いたくないだろうけど、

そんな表情も見せずに言ってくれたことに感謝しつつ、狼煙を準備する。


そうして、煙が立ち昇ってしばらく待つうちに、港湾都市の警備隊がこちらへとやって来た。




「これは一体何事・・・サクラ殿? お久し振りです!」

「ああ、テミスさん。お久し振りです・・・都市に着いてご挨拶も出来ないうちに、呼び出す形で申し訳ないですが・・・」


「なんの! 『風斬り』殿がこうして狼煙を上げる程ですから、重大なことなのでしょう?」

「それについては、私から説明させてもらうわ。」


「は・・・・・・その、以前に都市内で、私共がご滞在中の警備などさせていただいたことは?」

「ええ、その節は世話になったわね・・・けれど、その職からはもう降りたので、礼などは不要です。」


「さ、サクラ殿・・・これは本当に・・・・・・」

「はい。縁あって共に旅をしていますが、

 こちらはさきの城塞都市領将シエラ様・・・今は敬語は止められているのでシエラと、後ろにいるのはその妹、シノです。」


「・・・・・・サクラ殿、後で私の解職通知が届いたりはしませんよね?」

「少なくともこちらからそんな働きかけは絶対にしないので、ご安心ください。」

うん、テミスさんが冷や汗をかいているのが見える。いきなり隣の都市の偉い人・・・今は辞めているといっても、それが目の前に出てきたら、驚くのも無理はないよね。



「なるほど・・・! こちらも内々にではありますが、テンマの残党の活動については聞き及んでおります。

 関係者の捕縛、下働きをさせられていた子供達の保護、盗品の魔道具の回収、至急手配させていただきます!」

それでも、こちらが港湾都市での依頼を受けている時には、盗賊討伐時の連携などでお世話になった人なので、この辺りは心配していない。


「はい。今は一人の旅の者ではあるけれど、不都合なことでもあれば、前城塞都市領将の名を出して構いません。

 特に子供達については、こうして接した私の我儘ですが、今後の教育や働き口なども配慮いただけると助かります。」

「はっ! 確かに・・・!」

テミスさんが力強くシエラに応える。港湾都市は二百年前の戦乱で、テンマの軍勢に占領された場所。その残党に対しても厳しく対応してくれるなら、私達も安心して東の地を目指せるだろう。


話の流れに、メイや子供達が安堵した表情を見せているのを感じて、私も少し柔らかい気持ちになった。

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