第38話 ありがとう、さようなら

「それじゃあ、先へ進むよ。」

解放した子供達を守る組と、テンマの残党が拠点とする此処を制圧する組、二手に分かれる相談が済んだところで、私が先頭に立ち、通路の奥へと踏み込んでゆく。


「サクラさん、近くに二人です。」

「うん、私も同じ。」

ミナモちゃんと探知の結果が一致したことを確認して、足音を忍ばせながら扉の前に立った。


「相手がちょうど良いくらいの数だから、さっき話し合った連携を試してもらおうかな。準備はいい?」

振り返り、その問いに二人がうなずくのを確かめてから、勢いよく扉を開いた。



「喰らえっ!」

「な・・・!?」

視界が開けると同時に、ティアが魔道具から光を放ち、相手の足元を撃つと共に、その注意を引き付ける。


「行くよ・・・!」

「ぐっ・・・?」

その隙に、素早く背後へと回り込んだメイが、短剣で首筋を打ち据え、一人を気絶させた。


「マイア? お前・・・!」

「おやすみなさい。」

それに驚くもう一人へ、小さく告げると共に、目にも留まらぬ動きでメイの短剣が振られ、私達以外に立っている者はいなくなった。



「よし、やったな・・・!」

「うん・・・!」

この部屋にいた相手を難なく倒し終えて、ティアとメイが目を合わせ、うなずき合う。

感知妨害の魔法をかけているとはいえ、ゆっくりしているわけにもいかないから、短時間での確認にはなったけれど、やはり二人の相性は良さそうだ。


テンマの残党が、ここに集めた子供達を雑に扱っていたせいだとは思うけれど、

メイが『マイア』として活動する時に使っていた、短剣をはじめとした武器が無造作に置かれていたのも、こちらとしてはありがたい。




「メイさん。この人に声をかけられていましたが、大丈夫ですか?」

「うん・・・ちょっと変な感じだけど、問題ない。」

今日まで同じ場所に住んでいた人達と、戦うことになったメイを気遣うように、

ミナモちゃんが声をかければ、少し胸に手を当てつつも、しっかりとした返事が返る。


「もし辛くなったら、いつでも私の後ろに下がれ。代わりにぶっ飛ばしてやるから。」

「ううん、ティアだけだと危なっかしいから、私もやるね。」

「ん・・・?」


「あはは、確かに無理はしないほうが良いけど、二人の戦い方がよく合ってるように思うから、一緒に行動したほうが不安は少ないかな。」

「はい・・・その、サクラさんとミナモさんは、あまり話さなくても伝わっているようで、私とティアもそうなれたらいいなと思います。」


「それは嬉しいな。私達もまだそんなに長くはないけど、ミナモちゃんのことは信じてるから。」

「はい! 私もです、サクラさん・・・!」

私の声にミナモちゃんが続くと共に、ぎゅっと手を握ってきた。



「この二人、特別な用事でもなければ、ずっと一緒にいる気がするからな。夜寝る時もそうだし。」

「・・・私もティアと一緒に寝るようにしたら、もっと伝わるようになるかな。」

「えっ・・・!?」


「・・・ティアは、そういうの嫌?」

「い、嫌じゃないぞ・・・」

メイの表情が少し哀しそうになったのを見て、ティアが急いだ様子で答える。


「うん、それなら明日からも宿に泊まる時、ベッドの数は三つのままで良いね。」

「こういうのって、ちゃんと責任を取るって言うんでしたっけ。」

「せ、責任・・・!?」


「あはは、そこまでじゃないけど、あそこまで熱心にメイを連れ出したんだから、

 最後まで一緒にいるくらいの気持ちでいないとね。」

「あ、ああ。メイが構わないなら、私がずっと一緒にいるからな。」


「・・・! ティア、ありがとう・・・!!」

「わわっ・・・!」

胸に飛び込んでくるメイを、ティアが慌てつつもしっかり受け止めた。




「さて、奥のほうは・・・広そうだね。」

「はい・・・人の気配も多くありますが、それ以外の魔力らしきものも・・・」

やがて近付いてきた次の扉の奥を探れば、先程までとは違った様子が伺える。


「うん。私達がどういう経緯でここへ来たか考えると、盗んできた魔道具がたくさん置いてあるんじゃないかな。」

「ああ・・・何に使うか分からないものもありそうですよね。」


「その辺りについて、何か分かることはあるかな? メイ。」

「ごめんなさい。私達はさっきの部屋より先に行ったことは無くて、

 何を盗むか決めるのも大人達だったから、詳しいことは分かりません・・・」

「分かったよ、ありがとう。別に謝らなくていいからね。」

うつむくメイの肩を、ぽんぽんと叩いた。


「じゃあ、中にいる人達を全員気絶させるのが一番の目的だけど、魔道具で何かさせない・・・という点にも注意だね。」

「はい・・・! 私は動きを止めることに集中します。」


「うん。私はなるべく速く、剣で全員を気絶させるから、

 状況しだいでメイには、もう一つの得意なこともお願いしようかな。」

「分かりました・・・!」


「ティアは、分かってるよね。」

「ああ。メイと一緒に、一人でも多くぶっ飛ばす・・・!」


「うん。それじゃあ、行くよ・・・!」

この場にいる全員の意思を確認したところで、私は扉を開くと同時に駆け出した。




「「・・・・・・!!!」」

中にいた人達全員が、驚きの表情を見せて動きを止める中、人の数が多い側に飛び込み、すれ違いざまに二人を気絶させる。


「私は中央を。ティアさんとメイさんは、サクラさんの反対側へ・・・!」

ミナモちゃんが指示を出しながら、水魔法を発動し、手近な人達の手足を水流で絡め取った。


「行け、メイ・・・!」

ティアが伝えられた方向に向けて、魔道具から手当たり次第に光を放つ。


「うん・・・!」

相手方が混乱する中で踏み込んだメイが、一人の意識を失わせた。



「ちっ・・・!」

私が手近な相手を粗方倒したところで、ようやく立ち直った一人が、目の前にある魔道具を掴もうとする。

おそらくは、攻撃に転用できる魔法が込められたもの・・・!


「メイ!」

「させない・・・!」


「ぐああっ!」

瞬時に視線を向けて名前を呼べば、素早く放り投げられた短刀が、

その先にある手を傷付け、魔道具を取ることを阻んだ。


「おっと、行かせねえぞ!」

「・・・!!」

そこへ飛びかかろうとする数人の前に、ティアが魔道具から光を撃ち出し、その足を止めさせる。


「ありがとう、ティア。」

「これで全員だね・・・!」

体勢を戻したメイが一人を気絶させ、残りを私が仕留める形で、

ミナモちゃんが拘束した人達を含め、私達と戦おうとする者はいなくなった。




「くそっ、侵入者か・・・!!」

いや、さらに奥からやって来る者が、もう一人。


「これは・・・!」

「うん、あの危険な魔道具だね。」

城塞都市でも多く見かけた、身体能力を強化する代わりに、身に付けた者の正気を失わせる魔道具が、その人と共にあるのが分かる。


「あれは、ここで一番偉い人・・・」

メイが表情を曇らせつつ、私達に小声で教えた。


「ほう・・・マイアか。お前がこいつらを引き込んだのなら、反省では済まないなあっ!!」

「・・・!!」

それを聞き取ったか、相手がぎろりとメイを睨み、怒鳴り付けると同時に、

強化された力を見せ付けるように、勢いよく飛び込んでくる。


「サクラさん!」

「うん、そうはさせない!!」

「ぬぐっ・・・!?」

その気配を感じた時から準備していた、私の剣とミナモちゃんの杖を共鳴させた一閃で、魔道具の半ばを壊しながら、弾き返した。


「メイは私達の仲間だ! もうお前らには好き勝手させねえ!!」

「がっ・・・!!」

ミナモちゃんの魔力を込めた宝石を魔道具に取り付け、ティアが強い声と共に放った一撃が、さらに敵方の魔道具を破壊する。


「・・・今までご飯をくれてありがとう。」

それを見て、メイが表情を戻し、真っ直ぐに視線を向けて、口にすると同時に姿を消す。


「だけど、私はもうあなたの道具じゃない。さようなら。」

「ばか、な・・・・・・」

そして一瞬のうちに背後に現れ、短剣を魔道具に突き立てれば、この拠点の長は、完全に意識を失った。

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