第37話 決意
「サクラさん、上の状況はどうですか?」
地下に囚われていた少女を解放したところで、ミナモちゃんが尋ねてくる。
「嫌な気配は近付いてきていないから、今のところは大丈夫。
ところで、この機会に聞いておきたいけど・・・」
ティアとシノの間で、少し打ち解けた様子の少女に目を合わせた。
「想像がつかないわけではないけど、『メイ』と『マイア』の名前は、あなたにとってどういうものかな?」
「・・・町でいい人の振りをする時は『メイ』で、盗みとかをする時は『マイア』。
自分でもそう思って、名前を言わなきゃいけない時も絶対にそうしろって、ここの人達が・・・」
「うん・・・? 何でそんな変なことさせるんだ。」
「まず一つは、単純ではあるけれど、捕まえようとする人を欺くためよ。
何かの手を使って『マイア』の存在にたどり着いても、昼に笑顔を振り撒く『メイ』を見付けるには、もう一つ手間がかかる。そして・・・」
不思議そうに言うティアにシエラが答え、一つ息をついてから言葉を続けた。
「それをずっと続けているうちに、本人の中でも二つの自分が切り替わるようになってゆくのよ。
そんな風に盗賊が子供を育て上げて、盗みに入った時以外の手掛かりがほとんど見付からず、捕まえるのに苦労した話は聞いているわ。
サクラが『想像がつく』のも、そういうことでしょう?」
「うん。捕まえる側を何度もしていた私だけじゃなくて、都市の上層部にも伝わるほどの事件だったんだね・・・」
「あなたも、他の子供達も・・・ここにいる子のうち何人かだけでも良いから、自分達の役に立てるために、奥の連中はそれを教え込もうとしたのでしょうね。」
「ふざけんな・・・! 子供を思い通りにしようだなんて、なんだと思ってるんだ!」
静かに告げるようなシエラの言葉を聞いて、ティアが声を抑えながらも強い怒りを見せた。
「ティアはどうして、私達のためにそんなに怒ってくれるの?
・・・あっ、ううん、ティアだもんね。ありがとう。」
少女も短い触れ合いの中で、その性格を把握してきたようだ。シノのおかげでもあるのかな?
「ああ! それで、呼ばれたい名前はあるか? メイでもマイアでも、他のでもいいぞ。」
「えっ・・・・・・どうしよう、思い付かない。ティアは何がいいと思う?」
「わ、私かよ・・・? じゃあ、初めて会った時は『メイ』だったし、なんかしっくり来るから、それでどうだ?」
「うん! ティアがいいなら、私はそうするわ!」
少し戸惑いつつも答えるティアに、メイの明るい声が返った。
「随分と簡単に決めたけれど、これでいいのかしらね。」
「きっと大丈夫ですよ。ティアさんと一緒にいたら、そのうち気分で新しい名前にする! なんて言い出すかもしれませんし。」
「うん、あるかも。」
苦笑するシエラに、ミナモちゃんとシノが微笑みながら言う。
「それじゃあ、次は上の子供達だね。」
「わ、私が案内します・・・!」
そうしてメイを加え、私達は次の目的へと進み出した。
「みんな。ここの奥にいる人達はご飯をくれるけど、難しいことをさせられたり、それに少しでも逆らったら、殴られたりしたと思う。
でも、この人達はそんなことしないし、新しいお家も探すって約束してくれたの。だから、私はついていくけど、みんなもどうかな?」
残る子供達への説明には、普段から顔を合わせていたメイが率先してあたってくれたので、
ティアとシノ、そしてシエラがそこにつき、私とミナモちゃんが奥のほうを警戒する形を取る。
「ここからは出たいけど、そんなことしたらあいつらが・・・」
「殴られるより、もっとひどいことされないかな・・・」
「大丈夫。私もさっき、下で反省させられてたけど、この人達が部屋ごと壊してくれたの。」
「えっ、部屋を壊す・・・?」
「お姉ちゃん達、すごい・・・!」
どうやら、シエラの火魔法が子供達にも分かりやすく伝わっているようだ。
「サクラさん・・・!」
「うん、後ろでああ言ってるし、こっちも期待に応えなくちゃね。」
「はい・・・!」
私達が感知した二つの気配を、物陰に隠れて待ち構える。
先程気絶させた一人が戻らないので、様子でも見に来たのか現れた二人を、ミナモちゃんの水魔法で手足を絡め取り、すぐさま私の剣で首筋を打てば、一撃で意識を失い地面に転がった。
そうして縛り上げた相手を示せば、子供達も一段と私達を信じてくれるようになったところで、
最後にやるべきは、拠点を制圧し首謀者を捕らえることだ。
「ここに残って子供達を守る組と、奥のほうを制圧する組に分けたほうが良いだろうね。」
「ええ、まずティアは守りが論外だから制圧組として・・・」
「おい、何だその決め方は・・・いや、奴らをぶっ飛ばせるなら良いか。」
「あの・・・!」
その組分けについて、私達が話し始めたところで、一つの声が上がる。
「私も、攻める組に入れてください。
気付かれないように動く練習をしてるから、そっちのほうが得意だし、
ティアを、皆さんを手伝いたいです・・・!」
決意を秘めた表情で、私達を見つめるメイの姿がそこにあった。
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