第35話 追跡

「さて、こちらもさっきの子を追いかけようと思うけど、馬車なんて使えば目立ちすぎるから・・・」

「あれですね、サクラさん。」


「うん。少し魔力を貸してくれるかな、ミナモちゃん。」

「はい!」

ミナモちゃんが嬉しそうな表情で、私の体にぴたりとくっつき、魔力を渡してくれる。


「あれね・・・移動中に練習した時、制御が難しかったのを思い出すわ。」

「私は楽しかった。」

「速く向こうに着けるなら、私は何でもいいぞ。」

皆が思い思いに口にする中、魔力を十分に受け取ったところで、足元に風魔法を発動した。


「これで、私とミナモちゃんから離れすぎなければ、風に乗って速く動けるよ。」

「き、気を付けるわ。」

「うん・・・!」


「よし、早いところ奴らをぶっ飛ばしに・・・ぶほっ!!」

「ティアさん・・・!? 辺りも暗いですし、気を付けてください。」

気が逸りすぎた様子のティアが、出だしから大きく転んでいたけれど、ともかく私達はテンマの残党が拠点にしているだろう場所を目指し、夜闇の中を動き出した。




「ミナモちゃん、向こうの様子はどうかな?」

「はい・・・近くなってきましたし、集中すれば詳しく探れそうです。」


「分かった、これでいい?」

「はいっ! ありがとうございます。」

走りながらミナモちゃんをひょいと抱き上げて、偽物の魔道具に仕掛けた魔力の探知に集中してもらう。


「・・・これは・・・・・・周囲に人の気配が増えてきました。

 拠点にしている場所へと入ったようです。」

「ああ、予想はしていたけれど、それなりに人がいるんだね。」


「はい。でも全部が嫌な気配というわけでは・・・・っ!?」

「ミナモちゃん!? 何かあったの?」

私の胸の中で、その体がびくんと震えて、急いで尋ねた。


「その・・・誰かの怒りと、そのすぐ後に痛みのようなものが、間近であったようで・・・」

「・・・あまり考えたくないけど、あの子が持ち帰ったものが偽物の魔道具と分かって、殴られたりしたんじゃないかな。」

「はい、私もそう思います・・・」


「ふざけんなっ!」

「ティアさん・・・」

それを聞いてすぐに、ティアの怒声が響く。


「人を無理に盗みに来させといて、失敗したら殴るとか何なんだよ!

 こうしちゃいられねえ、今から全力で走って・・・!」

「ティア、待ちなさい!」


「ああ? 何だよ、シエラ。」

「此処から速度を上げて、少し早めに敵の拠点にたどり着いたとしても、皆が消耗するでしょうし、

 焦って向こうに気付かれれば、その場で乱戦になる可能性もあるわ。

 そうなれば、あの子を連れ出すのはますます難しくなるでしょうね。」


「うぐぐ・・・・・・」

「あなたの怒りも分かるけれど、今の状況で何が最善の行動なのか、もう少し考えるようにしなさい。さもないと、足元をすくわれるわよ。」


「わ、分かったよ・・・」

「うん、お姉ちゃんの言う通り。ティア、焦ってる。」


「うんうん。シエラがいると、こういう時にすぐ言ってくれるから、助かるね。」

「はい・・・私も朝になかなか起きてこない時は、もう少し厳しくしたほうが良いでしょうか。」


「おい、そっちから何か恐ろしいことが聞こえてこなかったか?」

「さて、何でしょうね・・・」

表情を変えてこちらを向くティアに、ミナモちゃんがにっこりと笑いつつ、

私達はこのままの速さを保って、足を進めていった。



*****



「まずは、敵の感知を避けるための魔法をかけます。私が言うまで、動かないでいてくださいね。」

こうした魔法のやり方はいくつか知られているけれど、スイゲツの記憶を取り戻したミナモちゃんのものが、一番効き目が強そうだし、おそらくは対策もされにくい。


「ただし、感知妨害の魔法全般に言えることですが、目立つ動きをしたり大声を出したりすれば意味はありませんので、気を付けてください。」

「・・・ミナモ、今こっち見たか?」

「心当たりがあるようでしたら、動く前に一度深呼吸をしてくださいね、ティアさん。」

「あ、ああ・・・」

今日一番何かやらかしそうな仲間に、しっかりと言い聞かせつつも、私達の身体を感知妨害の魔法が包んでゆく。


「それじゃあ、まずは私に着いてきて。出来るだけ物陰に隠れながら近付くよ。」

盗賊の拠点に攻め込んだ経験もある私が先頭に立つ形で、目的の場所へと近付いた。




「子供達が、多くいるみたいね・・・」

「うん、これは・・・・・・」

やがて、その様子が掴めてきたところで、シエラが表情を曇らせる。何を言いたいかは分かるけれど。


「サクラさん、あまり良くない予感がしますけど・・・」

「ティア、お耳を塞ぐからちょっと待って。」

「いや、そこまでしなくていい・・・」


「身寄りの無い子供達はどうしても出てきてしまうから、そんな時に受け入れる施設がある。城塞都市もそうだったよね? シエラ。」

「ええ。大きめの都市なら普通は考えていると思うわ。」


「だけど、時には盗賊などがそうした場所を装って、良くない環境で働かせることもあるんだ。もちろん、商業都市では見つけ次第、摘発してたけど・・・」

「この状況を見る限り、テンマの残党もそうしたことをしているようね。あの子は斥候の素養があった。つまりは戦闘訓練なども・・・」


「・・・!!」

「ティア、出来るだけ落ち着いて。お父さんの話になった時、マイエルの村長さんは言ってたよね。『ティアが連れ去られそうになったから、組織を抜けてきた』って。」


「ああ、ここは私をどこまでも怒らせてくれる場所らしいな・・・」

ティアがその感情を抑えるように、大きく深呼吸する。


「ミナモ、頼む。あいつの気配、近くにいたのなら少しは分かるよな?

 今どこにいるか、調べることは出来ないか?」

「はい。完全にとはいきませんが、やれるだけのことはします!」

「うん。それがきっと、今の最善。」

ティアの言葉に、ミナモちゃんとシノがうなずく。

私とシエラも止めることはせず、ミナモちゃんが集中した表情で、敵の拠点を探り始めた。

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