第33話 笑顔の少女

「ひとまず、都市の主要な場所は見て回ったから、今日のところは夕食にして休もうか。」

「はい、そうしましょう。」

港湾都市を歩き回り、日も暮れかけてきたところで、皆に声をかければ、ミナモちゃんがすぐにうなずく。


「ええ、それが良いと思うわ。二人がそろそろ辛そうだから。」

「お姉ちゃん、お腹空いた・・・」

「私も何か食べたいぞ・・・」

うん、シエラと手を繋ぎながらもちょこんと寄りかかるシノに、便乗するティア・・・私達の最年少組が空腹に耐えきれなくなってきたようだ。



「それじゃあ、屋台で焼きたての海産物を買おうと思うけど、どこか目に留まった所がある人は・・・」

「はい! サクラさん。船着場の近くにあった、お魚や貝がたくさん並んでいたお店の気配が良かったです。」

うん、ミナモちゃんは探知を何に使っているのかな? いや、自然に伝わってきてしまうこともあるのか・・・


「ああ、確かに品揃えが良かったわね。あの屋台なら皆で好きなものを選べそうだわ。」

「うん。私もあそこが良い気がする。」

「それで構わないぞ。」

ティアはとにかく早く食べたい雰囲気が出ているけれど、ミナモちゃんが気になったお店は、シエラとシノにとってもそうだったようだ。

こういう所の良さというものは、大げさではなくとも、漏れ出るように伝わるのかもしれない。



「じゃあ、この都市に来たことがある私とシエラのお勧めと、あとは各自の好みでということで・・・」

「私は屋台で買い食いなんて出来る立場じゃなかったから、宿で出たものを参考にするけどね。」

「それでも、初めての私からすれば、ありがたいです・・・!」

何を食べるか話し合いながら船着場近くへ向かい、魚の串焼きをはじめとした食事を購入して、海がよく見える場所に皆で腰を下ろす。


「ふわあ・・・お魚がすごく美味しいです!」

「うんうん、新鮮な上に焼きたてというのは、塩の味付けだけでも本当に良いんだ。」


「お姉ちゃん・・・」

「ええ、この貝も美味しいわね。じゃあ、私の残りを半分こしましょう。」

「ありがとう!」


「私には細かい味とか分からないが、これが旨いってのは間違いないな。」

「ティアさん・・・・・・」

「あはは。それはそれで、真っ直ぐな感想で良いかもね。」


「ところでサクラさん、ここで新鮮なお魚を少し買って、まだ少し残っているお味噌と一緒に煮込んだりするのは・・・」

「ほほう。良いことを考え付くね、ミナモちゃん。」

先程までの調べ物から、少しだけほっとした気持ちになりつつ、私達は港湾都市の食事を楽しんだ。



*****



「さて、宿は調べ物の合間に予約しておいたから、あとはそこへ行くだけ・・・うん?」

「誰かが争うような声ね。」

「なんだか、変な気配です・・・」

今夜の宿へと向かう途中、私達はそれに気付く。


「おい! 今ぶつかってきただろう、お前・・・!」

「ごめんなさい、ぼんやりしていまして・・・」

その声を追ってみれば、柄の悪そうな大男が、ぺたりと膝をついた少女に向かい、荒々しく言い放つところだった。


「お前のせいで荷物が汚れちまった。どうしてくれるんだ・・・!」

「っ・・・!」

続く言葉に、少女の肩がびくりと震える。

さて、この状況にどう対応しようかと考え始めたところで・・・


「おい! お前、何してやがる!」

「「あっ・・・」」

ミナモちゃんとシノの声が重なる中、ティアがすぐさま飛び出していった。



「なんだあ、お前?」

「私のことはどうでもいい! お前が何してるかって言ってるんだ。この子が怯えてるじゃねえか!」


「ああ? ぶつかってきたのはそこのガキだぞ。てめえもガキのようだが。」

「それなら、ごめんなさいの一言で済む話だろう! 何なんだ、さっきからごちゃごちゃ言いやがって。」


「何だと? てめえ、この俺を怒らせたな?」

大男が打ち据えるためと思われる棒を取り出し、ティアに突き付けようとする。


「はあ? それが何だってんだ。」

「なっ・・・!?」

それに対し、にやりとした笑みを返すと共に、ティアが魔道具から光を撃ち出すと、大男の手から棒は弾き落とされた。


「て、てめえ・・・」

「おっと、次はお前だぞ!」

「ちいっ・・・!! くそっ、覚えてやがれ!」

なおも攻撃の構えを見せたところに、ティアが足元へ数発の光を放つと、

大男は顔をしかめ、悪態をつきながら走り去っていった。



「あ、ありがとう・・・」

「ああ、気にするな。」

それを見て、大男に怯えた様子だった少女が、よろよろと立ち上がり、ティアにお礼を言う。


「そうだ。これ、あげる・・・」

「んん・・・? いや、そういうのが欲しくてやったわけじゃねえんだ。無理しなくていいんだぞ?」


「ううん、私があなたにあげたいの。受け取って。」

「あ、ああ、分かった・・・」

急に積極的な様子を見せた少女に押し切られるように、ティアが小さな宝石らしきものを受け取った。


「そうだ、私はメイ。あなたは?」

「私はティアだ。」

「ありがとう! また会えるといいな。」

「ああ・・・!」

花が咲いたような笑顔で、少女が手を振る。

ティアもそれに応えると、去ってゆく後ろ姿をしばらく見つめていた。

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