第28話 争乱の後
「ん・・・・・・」
ぱちりと目を開ければ、周りはまだ寝静まった気配。
先程までの戦いと、その後に到着した警備隊への説明・・・それは主にシエラがやってくれたけど、慌ただしさにだいぶ疲れているはずが、こうなるのは身体の慣れだろう。
「すう・・・・・・」
そして目の前には、穏やかな寝息を立てるミナモちゃんの顔。
そう教え込まれた身ではあるけれど、自分の眠りが他人より浅いことを実感するのは、二人で一緒に寝るようになったおかげかもしれない。
「・・・・・・あれ、サクラさん・・・?」
そんなことを考えていたら、ミナモちゃんが不意に声をかけてくる。
少し眠そうだけど、顔を上げて私を見る様子から、寝言でないことははっきりと分かる。
「あっ・・・ごめん、起こしちゃったかな。」
「いえ・・・サクラさんの気配が、少し大きくなったように感じまして、こう自然と・・・」
「それ、私が起こしたのと変わらないよね?」
「あっ・・・そ、それよりも、サクラさんは眠れなかったんですか?」
「いや、一度は寝たんだけど、危険を察知しやすいよう母さんに訓練されてて、元から眠り自体が浅いんだよね。実際、野営とかでは役に立つけど。」
「えええ・・・・・・もしかして、いつも早くから起きていたんですか?」
「ううん、目が覚めること自体は、早くなる時が多いけど、ミナモちゃんの可愛い寝顔を見たりしていれば、また眠れるよ。」
「~~!! そ、それは恥ずかしいです。」
「しっ・・・まだ周りは寝てるからね。ティアは大丈夫だろうけど・・・」
「あっ・・・すみません。」
大きめの声を出しそうになった、ミナモちゃんの唇にそっと指を当てる。
「シノ・・・・・・」
「お姉ちゃん・・・・・・」
少し体を起こせば、隣には私達と同じように抱き合って眠る、シエラとシノが見える。
互いの夢でも見ているのだろうか、とても幸せそうな表情だ。
「シエラさんとシノさん、穏やかな寝顔ですね。確かに見ていると、こちらまで落ち着く気がします・・・自分が見られる側になるのは恥ずかしいですが。」
「まあまあ、私だって常に早起きとは限らないし、ちゃんと寝ないと疲れが残るからね。」
「そ、そうですね・・・でも、こういうのも良いなと思いまして。」
「うん・・・?」
「サクラさんとの旅が、だんだん賑やかになってきたのは楽しいのですが、
なんだか、久し振りに二人きりの気分だなって・・・」
「あはは、確かにね。」
周りは寝静まっているし、すぐに起きる時間でもないから、私とミナモちゃんだけがここにいるような気持ちになるのも確かだ。
「そうだ。こんな風にミナモちゃんが一緒に起きるのは、初めてだと思うけど、何か変化でもあったのかな?」
「はい・・・私の記憶が戻ったことで、サクラさんとの繋がりもしっかり認識できて、
今までよりも強く感じるようになったんだと思います。」
「ああ、カゲツとスイゲツは血の繋がりもあるからね・・・でも、それって私が起きるたび、一緒に目が覚めることにならない?」
「近くにいるとそうなりそうですが、構いません。こうして二人きりの気持ちになれるのは嬉しいですし・・・
その、サクラさん一人だけが、野営の警戒中でもないのに起きてるのは、何か嫌ですので。」
「あはは、ミナモちゃんは優しいなあ。」
「ん・・・」
そのまま頭を撫でれば、いつものように私の胸にぽすんと顔を落としてきた。
「でも、今日は色々あったから疲れてるでしょ。少しでも早く休んだほうが良いと思うよ。」
「それなら、サクラさんも一緒です。」
「ミナモちゃんが言うのなら、仕方ないね。」
そのままもう一度横になると、顔を寄せておやすみを伝え合い、どちらからともなく眠りについた。
「シエラ、シノ。よく寝てるところ悪いけど、日が高くなってきたよ。そろそろ時間じゃないかな。」
「む・・・仕方ないわね。起きなさい、シノ。」
「むう・・・・・・おはよう、お姉ちゃん。」
やがて、私とミナモちゃんが先に起きた後、まだぐっすりと眠っている二人に声をかければ、
シエラがすぐに目を覚まし、シノを優しく揺さぶって起こす。
「今日は昼時から、今後についての会議だったものね・・・あら、ミナモとティアは何をしているの?」
「ああ、ミナモちゃんが魔法の練習を兼ねて、新しい起こし方を試すところだよ。」
「え・・・?」
「んん・・・まだ寝かせてくれ・・・・・・っ! 冷たっ、痛っ・・・?
ってミナモ、何やってるんだ・・・!」
「もう時間ですよ。起きてくださいと、何度も言いましたよね?」
「わ、分かったから、そいつを近付けるな・・・!」
ミナモちゃんがにっこりと笑みを向ける中、魔力のこもった流水にぺちぺちと顔を叩かれ、ティアはようやく起き上がった。
「くっ・・・・・・確かに便利そうだけど、今まではどうしていたの?」
笑いを押し殺しながら、シエラが尋ねてくる。
「どうしようもない時は、水魔法の球を口元にね・・・」
「ミナモにそこまでやらせるなんて、ティアはどれだけ寝坊するのかしら。」
「・・・自業自得。」
呆れた表情のシエラに続いて、シノが静かに言った。
*****
「あっ、リリーさん。みんな起きたから、『領城からのお客様』はお帰りになるよ。」
「さ、サクラさああん・・・何事も無かったんですよね? 私、朝から胃が痛くて仕方ないんですが・・・」
皆が起きて支度をしている間、リリーさんを呼んで、小声で用件を伝える。
「うん、大丈夫。いきなりだったけど、お城で色々あった中でのご指名だから、仕方ないよね。」
「あの方々が依頼所の空き部屋に泊まるなんて選択肢が、どこから出てきたのか気になるんですけど・・・しかも同じ部屋での護衛って・・・」
「その辺は機密扱いだから言えないかな。あっ、今夜も継続の予定で。」
「私、泣いていいですか・・・?」
リリーさんが言葉通りの表情をしているけれど、お城で色々あったばかりだから、ここのほうが安全なのは仕方ない。
「急な依頼にも関わらず、対応ありがとう。今夜も宜しく頼むわね。」
「ありがとうございました。」
「は、はい! お任せください!」
そして会議へと向かう時、笑顔で声をかけるシエラとシノに、リリーさんの表情がまた変わる。
うん、恐がる必要なんて無いからね。
「さて、私個人の護衛は、隣の部屋でということにしておいたわ。
要人達の会議だし、外の警備も厳重だから何も無いとは思うけど、万一の時は宜しくね。
・・・まあ、まずは私が焼き払うけど。」
今日もシエラとシノの護衛ということで、やって来たのは領城の会議室。そういえば、昼に入るのは初めてだ。
「うん。大抵の場合はそれで済むと思うよ。
ところで、風魔法でこっそり聴くのは良い?」
「それは構わないけど、そこまで高度なものが使えるの?」
「私一人だと難しいけど、ミナモちゃんと協力すれば出来るよ。」
「はい。私がサクラさんに魔力を渡して、二人で制御すれば、何とか・・・」
「本当に器用ねえ・・・あなた達も聞いておいたほうが良いとは思うから、自由にしていいわよ。
それからティアには・・・シノ、お願い。」
「うん。これがお城の書庫にあった魔道具についての本。初心者向けから応用的なものまであるから、好きに読んで。」
「ただし、領城の外に持ち出すには手続きがいるから、会議をしている間に読んでしまいなさい。あなたなら出来るわよね?」
「ああ、やってやるぜ。」
ティアが数冊の書物を前に、気合いの入った表情を見せる。
こうしておけば会議中に騒がないわよね、というシエラの小さな声は、触れないことにしよう。
実際、父親の残した書き置き以外は自己流と思われる、ティアの魔道具の扱いが広がるのは良いことだろうし。
そうして、要人達を前に吹っ切れたように発言する、シエラの様子に驚きと笑いをこらえつつ、私達は会議の護衛としての時間を過ごした。
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