第25話 報酬

「改めて感謝を。シノを支えてくれて、私のことまで助けてくれてありがとう。」

「どういたしまして。そのシエラ様を助けるのが、シノ・・・おっと、シノ様からの依頼ですよ。」

領城の隠し通路の中、シノとの再会が落ち着いたところで、領将シエラが頭を下げてくる。


「もう・・・お姉ちゃんは、また自分のことを後回しにして。」

「ふふっ、ごめんなさい、シノ。

 でも、私からすれば、あなたのほうが大事なのよ。」

「むう・・・・・・」

シノが頬を膨らませつつも、優しく頭を撫でられると、少し顔を綻ばせた。


「それから、シノが何を言ったか想像がつくけれど、私にも敬語は不要よ。

 命の恩人だし、特にあなたはその動きや名前からして、各都市で『風斬り』と称される剣士サクラではないかしら?」

「ああ・・・その通りなんだけど、この機会だから言っておくと、私はその呼び方好きじゃないんだよね。」


「あら・・・・・・これは失礼を。

 気持ちはよく分かるわ。私もお飾り領将とか傀儡かいらいとか、たくさん言われてきたもの。」

あっ・・・呼ばれ方の程度はさておき、これは同士の気配!


「うんうん、人は好き勝手言うものだよね。」

「ええ、あなたとは仲良く出来そうだわ。」

そうしてすぐに、私とシエラはがっちりと握手を交わした。


「な、なんだか二人の雰囲気が少し恐くないか?」

「私も記憶が全部戻れば、ここに加わることが出来るでしょうか・・・」

いや、ミナモちゃんは無理に入ろうとしなくていいからね? とは言っても、こういう経験を何もしていないということは、考えにくいだろうな・・・



「さて、シエラ、シノ。ひとまずの安全は確保出来ているけど、このままというわけにもいかないよね。」

「ええ。このままどこかへ逃げたとして、執拗に追われるのは間違いないわ。」

「うん・・・昨日は一緒に逃げようと思ってたけど、こんなに人がいたら・・・」


「それなら、戦力が揃ったところで敵の本体を叩く、という案が挙げられるけど、どうかな?」

「ええ。今の状況では、それが最善だと思うわ。問題はその相手だけど・・・シノは外から見ていて、心当たりはある?」


「ううん。私を取り巻いてる人達とは、何か違いそう。お姉ちゃんのほうは?」

「それが、思い付かないのよね。シノを擁立しようとする勢力への内通者という観点で考えても。

 ・・・となると、やはり外部から?」


「実は私達も、そちらの線で考えていてね・・・これが、さっき戦った侵入者と、昨夜に倒した不審な人達が付けていた魔道具。ほとんど同じものだよね。」

「た、確かに・・・いえ、それどころか、商会絡みで意匠に見覚えがあるような気がするわ。」

私が荷物袋の中から、壊した魔道具を取り出せば、シエラがそれをじっと見つめ、やがてうなずく。


「うん、ペガス商会。今日買い物もしてきたけど、これは同じ製造元と見られても仕方ないんじゃないかな。」

「ええ。手続きを踏んで告発するのなら、証拠としては弱い気もするけれど、

 あとは現場を押さえれば済むことよね。」


「あはは、さすがシエラ。話が早いね。」

「ふふふ、こちらは命を狙われてるのよ。手荒なやり方だって躊躇することは無いわ。」


「なんだか、少し背筋が寒く感じるんだが・・・」

「・・・お姉ちゃん、ちょっと恐いけど、生き生きしてる。」

「サクラさん、戦い方を考える時、たまにああいう顔しますよね。」

うん、あまりこういう所ばかり見せるのは、教育に良くないってやつかな。

私は母さんに育てられた結果が、これなんだけど・・・



*****



「さっき話した通り、私とミナモちゃんは広めに気配探知を出来るから、

 ぺガス商会の近くに出たら、突入場所は決められるよ。

 ・・・上のほうは、何か騒がしくなってるようだけど。」

「ええ。こちらは探知魔法として発動する必要があるから、その辺は任せるわ。

 城内については・・・あれだけ派手にやれば、警備隊も出てくるでしょうね。

 そして敵方も私達を探してるから、都合よく衝突してくれているみたいだわ。」


「うん。それなら相手の本体に集中できそうだね。」

「ええ。シノ・・・また危険に巻き込んでしまうけれど・・・

 いいえ、あなたの守護魔法、頼りにしているわ。」

「任せて、お姉ちゃん・・・!」


「ティアさん、私が強めに魔力を込めた宝石は、これだけあります。

 シエラさんとシノさんからの預かりものですので、大切に使ってくださいね。」

「ああ、やってやるぜ・・・!」


「ミナモちゃん、この先で嫌な相手と向き合うことになるかもしれないけど・・・」

「はい、もう覚悟は出来ています。サクラさんが隣にいるなら、私は恐くありません・・・!」

隠し通路を目的地へと進みながら、私達はこれからの確認をしつつ、気持ちを固めてゆく。

この五人で合わせるのはもちろん初めてだけど、きっと上手くいく。確信に近いような感覚が生まれていた。



「ねえ、サクラ。この件が終わってからの報酬について考えていたのだけど・・・」

「うん? シエラからもシノからも、もう十分すぎるくらいに宝石をもらってる気がするけど。」

「ふふ、それとは別の形よ。こんなのはどうかしら・・・?」

そうしてシエラが語り出した話に、初めは驚きつつも、笑みが零れてくる。


「あはは、それは最高だね。二人さえ良ければ、大歓迎だよ。」

「お姉ちゃん、私も賛成!」

「えええ・・・? でも、それは私もわくわくする気持ちです。」

「あ、ああ・・・難しいことはよく分からないが、確かに面白そうだな。」


「それじゃあ、決まりだね。」

「ええ、まずは私達に仇なす者達を、吹き飛ばしましょう!」

気持ちが一つになったところで、私達は隠し通路の扉から、倒すべき存在の巣食う場所へと踏み出した。

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