第19話 歴史は告げる

「さあ、着いたよ。」

賑やかな『商業都市』ほどではないけれど、少なくない数の人が行き交う『城塞都市』の中を歩くことしばし。

皆が少しばかり、空のほうを向く場所へと私達はたどり着く。


「でっかい石の壁・・・?」

「それだけではありませんよ、ティアさん。

 文字がたくさん書いてあります。」

「うん。ミナモちゃんの言う通り、あれは『城塞都市』の歴史が記された石碑だよ。

 観光でこの都市へ来た人達には、特に人気のある場所かな。」


「うわあ・・・こんなに長いのをよく読むなあ・・・」

「ティアさん・・・・・・」

ミナモちゃんが呆れた様子で、ティアを見ている。


「まあ、そう思う人もいるだろうけど、

 もしこれが全部、魔道具を強化する知識が書かれているとしたら、ティアはどうする?」

「・・・! そいつは、何とかして読むしかないな。」

「・・・ある意味、はっきりしていて良いのかもしれません・・・」


「さて、人も多いから、私が補足しながら簡単に見ていくよ。最初の石碑は、都市の成立過程を記したもの。

 この辺りは昔から人が住むのに適した土地だったから、水や農作物を巡る争いが多かったけど、

さらに離れた土地からの侵入者まで現れて、いつしか人々は石造りの壁で住む場所を守るようになったと言われているよ。」

「そんなに、争いが多かったのですか・・・」


「次が、今の形の『城塞都市』が出来上がるのに、大きかった出来事。

 時代が進み、都市間の交流も盛んになってきたけれど、周囲への影響力を巡って・・・この一帯の覇権争いなんて言われることもあるね。

 今の『港湾都市』にあたる所と緊張が高まって、城壁もどんどん堅固になっていった。攻め込もうとする者の心を折ろうとするかのようにね。」

「喧嘩の話ばっかり書いてあるんだな・・・」


「まあ、いつもそんなことばかりしていたわけでは無いと思うけど、

 歴史上の大きな出来事となると、戦いが取り上げられることが多い気がするよ。

 実際、ここが『城塞都市』と呼ばれる理由は、それが大きいわけだからね。」

そう言って、一息つく。これからが私達にとっては意味の大きな話だろう。


「さて、次が大きな石碑になってる中では、一番新しい話。東西戦争と呼ばれる戦いだよ。」

「・・・!」

ミナモちゃんの表情が変わる。私が何を話そうとしているか、察したようだ。


「今から二百年ほど前のこと。東から海を越えて侵略者がやって来た。『港湾都市』を通しての交流は多少あったようだけど、東の地で急速に勢力を伸ばしたところがあって、状況は一変したようだね。」

「東から・・・」


「『港湾都市』はあっという間に占領され、住人達や都市を守っていた軍も慌てて逃げてきた。

 『城塞都市』はそれを受け入れ、勢いのままに攻めてきた東の軍に対し、徹底的に守りを固めたんだ。」

「・・・・・・」


「東の軍は激しく攻め立てたけれど、『城塞都市』の高い城壁はびくともしない。

 それに、話を聞き付けた周囲の都市も、次に狙われるのは自分達だと直感し、援助を惜しまなかった。

 特に『商業都市』からの支援物資を各都市の連合軍が守り、『城塞都市』も門を開き攻勢に出て、作戦を成功させたのは大きな戦いだったと言われているよ。」

「これまで争っていた都市同士が、今度は協力しあったのですね。」


「そうして、東の軍が攻めあぐねるうちに、『城塞都市』は彼らの一部と手を組んだ。

 どうやら、無理矢理に従わされている人達もたくさんいたらしい。」

「最初にサクラさんが言っていた、『急速に勢力を伸ばした』ところの被害を受けていたのでしょうか。」


「その通り。そうして『城塞都市』と東の軍の半数は協力して、侵略を主導した勢力を打ち破った。状況は一変し、すぐに『港湾都市』は解放。

 東の地においてもその勢力は駆逐され、新たに四ヶ国が成立した。彼らは西の都市群に感謝し、『港湾都市』との航路を結ぶ地を『自由都市』と名付け、どの国にも属さない、西の人達も自由に活動できる場所と定めたよ。」

「本当に、大きな出来事だったのですね。」


「うん。今に至るまで都市同士の関係が悪くないのは、この時のおかげかな。

 そして東の四ヶ国も、最近まで全て変わらず揃っていた・・・ここから中心部が近い順に、シロガネ、クロガネ、カゲツ、スイゲツ・・・」

「・・・っ!」


「ミナモちゃん、大丈夫?」

「は、はい・・・」

胸を押さえ、少し苦しそうにしながらも、ミナモちゃんが答える。


「ミナモ、なんか悪いところでもあるのか?

 私が親父についての話を聞いてた時も、そんな風になってただろ。」

「ティアさん、ありがとうございます。

 身体が悪いわけではないのですよ。私がまだ思い出していない、嫌なことが影響しているのでしょう。」

「そ、そうなのか・・・」


「ミナモちゃん、無理させてごめんね。」

「いいえ、ありがとうございます、サクラさん。

 少し、手を繋いでいてもいいですか?」

「うん、もちろん!」

ミナモちゃんの手を取れば、初めは少し震えていたのが収まり、呼吸も元通りになってゆく。


「もう大丈夫です。その・・・」

そうして私に、真っ直ぐな瞳が向けられた。


「サクラさん、一つだけ教えてください。

 ティアさんのお父様があの村へと逃れた原因であり、私にも聞き覚えがあった組織というのは・・・」

「うん。ミナモちゃんが想像している通りだよ。二百年前の戦いで、敗れた側に繋がる勢力。」

「・・・分かりました。私達が向き合おうとしているのは、そうした存在なのですね。」

そして私は・・・・・・小さなつぶやきが、風と共に流れ去った。

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