第3章 『城塞都市』アクロフォリア編
第18話 城塞都市へ
「ティアさん、また魔道具の練習ですか?」
近くの手頃な木を的にして、少し撃っては調整することを繰り返しているティアさんに、声をかけます。
移動のために歩いている時は我慢している代わりに、野営の準備を整えた後は入り浸っている様子です。
小さい頃からずっと魔道具を触る毎日だったらしいので、日課のようなものでしょうか。
「明日には城塞都市へ着くのですから、今夜はちゃんと休んでくださいね。」
「ああ、そうするつもりだ。」
魔道具を調整しながらの生返事。ちゃんと聞いているのかも分かりません。
仕方ありません。戦闘の時には相手の弱点を衝くことも大事だと、サクラさんに教わりました。今のティアさんにとってのそれは・・・
「お風呂の準備が出来たので、先にサクラさんと入りますけど、
早くしないと片付けてしまいますからね。」
「・・・! わ、分かったって。もう少しで終わらせて入るから。」
ティアさんも満天の星空を見ながらの、野営でのお風呂には心を奪われた様子でしたので、
これできっと気持ちを切り替えてくれることでしょう。
・・・サクラさん、今のやり取りが親子みたいだって、私のほうがティアさんより年上のつもりなんですからね?
まだ戻らない記憶が多くても、それはなんとなく分かります。そう、周囲の気配を探るのと似たような感じで。
「ふう・・・今日もそれなりに歩きましたが、こうしていると一日の疲れが吹き飛ぶ気持ちです。」
サクラさんと一緒にお風呂に入り、心地よさに浸りながらつぶやきます。
「うん。無理をするような行程にはしていないけど、ティアもあの村を一日中駆け回っていたおかげか、順調だね。城塞都市はもうすぐだよ。」
サクラさんは笑顔で答えつつも、少しだけ考えるような表情をしていました。
「サクラさん、何か心配事でもあるのですか?」
すぐ隣の顔を、じっと見つめながらつぶやきます。
「あはは、ミナモちゃんには分かっちゃうか。
確かにあるよ。商業都市を出発する時にマリーさんから聞いたこともあるし、
その上にマイエルの村で、ティア絡みの一件があったわけだからね。」
「テンマ・・・その組織のことですか。」
村長さんが口にして以来、私の胸の中でざわつく名前を尋ねます。
「うん、そういうこと。ミナモちゃんは・・・」
「まだ思い出してはいませんが、今こうして名前を出すだけで、嫌な感じはあります。サクラさんは・・・」
「そうだね。何も知らないわけじゃないけど、もう少しミナモちゃんの記憶が戻るのを待とうかな。明日は城塞都市で、歴史が分かるような場所に連れていくよ。
あっ、念のために、都市に着いたらその名前は口にしないようにね。誰が聞いているか分からないから。」
「分かりました・・・!」
サクラさんの言葉に、気を引き締めます。
「早く知りたいって思ってたら、ごめんね。
ミナモちゃんも強くなったし、もう私が分かることだけでも、全部話せば・・・って気持ちが、出てこないわけではないけど。」
「大丈夫です。私はサクラさんを信じていますから。」
そのままぎゅっと抱きつけば、いつものように頭を撫でてくれます。
私にも不安な思いが無いわけではありませんが、こうしていれば、ずっと昔から知っているものに優しく包まれている気がして、嫌な感じも全てお湯に溶けてゆくようでした。
*****
「さあ、ここが『城塞都市』、アクロフォリアだよ。」
朝が来て、歩き始めて少し。まだお昼には少し早いくらいの時に、目的地へと到着する。
「でけえな・・・」
「『商業都市』とはまた違って、なんだか固い感じがする場所ですね。」
かつての戦乱では、まさしく高い城壁であったという、都市を囲む石造りの構造物は、何度見ても壮観だ。
その奥にある、都市の要人達が多く集まる建物も、当時からの城そのもので、
ここは呼称の通り『城塞都市』なのだと、訪れた人達は一目見て思うだろう。
「それじゃあ、都市に入る手続きをするね。
私は何度か来たことがあるし、依頼での出入りもしていたから問題はないけど、
ミナモちゃんとティアは同行者ということで説明するよ。」
「はい・・・!」
「ああ、分かった。」
今は歴史ある都市として、観光客がやって来る場所でもあり、商隊などはもちろんだから、そこまで厳しくはないだろうけど、
慎重に手続きを進め、私達は城塞都市に入った。
「・・・・・・」
「サクラさん、どうしました? いえ、なんとなく分かる気はしますが。」
「うん。都市全体の空気が、ひりついているような感じがするね。
前に来た時は、こんな風じゃなかったけれど。」
「そうなのか? 私にはよく分からないが。」
周りの気配を探るような経験のないティアには、分からないようだけど、
初めて訪れたミナモちゃんにも察せられるくらい、緊張感が漂っているのを感じる。
商業都市でマリーさんから聞いた、派閥争いが激しくなっているというのは、確かなのだろう。
「まずは、この都市の歴史が分かる場所へ行こうか。」
とはいっても、今すぐ出来ることがあるわけではないから、まずは自分達の目的を果たしつつ、情報を集めることにしよう。
これから此処で何かが起きそうな予感を覚えながら、私達は城塞都市を歩き出した。
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