第17話 三人の出立

「で、私に話って何なんだ?」

子供達と話し終えた・・・いえ、今日のことで悪い夢でも見ないように、一緒に遊んでいたのでしょうか。

それを済ませた様子で、ティアさんが尋ねてきます。


「その・・・さっきの人達を倒すために、魔道具を撃った時のこと、

 ティアさんは覚えていますか?」

「ああ、ミナモが手を握ってくれたんだよな。

 なぜか分からないが、すっごく力が出たぞ。

 あれが話によく出てくる、応援されると元気が湧いてくるってやつか?」

・・・最初は鋭いのかと思いましたが、少し残念な感じです。


「えっと・・・そういうのではなくてですね・・・少し手を借りますね。」

「ん・・・・・・!? なんか力が出てきた気がするぞ?」


「はい。これが私の・・・内緒の力です。

 元気とは少し違いますが、自分の魔力を渡すことができまして・・・

 さっきのように必要がある時は使いますけど、

 普段は内緒ですので、誰にも言わないでくださいね。」

ティアさんの手を取り、少しだけ魔力を渡してから、人差し指を唇にあてて、お願いします。


「あ、ああ・・・・・・もしかして、サクラにもか?」

「いいえ、サクラさんはもちろん知っていますので、今は三人だけの秘密ということですね。」

「そ、そうか・・・」

あれ? 少しだけ残念そうに見えたのはなぜでしょう。きっと、気のせいですよね。



「でも、なんで内緒にするんだ? 別に隠すようなことでもないと思うが。」

「・・・ティアさん。さっきの危ない人達が、何を狙っていたか覚えていますか?」


「ああ。私の魔道具だろ?」

「はい。それはとても珍しくて、すごいものだから狙われるんです。

 サクラさんによると、私の力もそうなので、あまり人には知られないほうが良いのです。」


「ふうん・・・狙ってくる奴は、全員ぶっ倒せばいいんじゃないか?」

「・・・今日くらいの状況なら、なんとかなるかもしれませんが、

 もしあなたが、魔道具を扱いきれないような小さな頃に、

 あるいはさっきも何十人、何百人という数だったら、どうなっていたと思いますか?」


「ああ・・・そいつは、難しいかもしれないな。」

「ですから、なるべく人には知られないほうが良いこともあるのです。

 ティアさんも気を付けてくださいね。」

どうやら、分かってくれたようで良かったです。

さて、もう一つの大切な話をしなければ。




「それから・・・今日は大変なことがありましたが、

 ティアさんは、これからどうするつもりですか?」

「ん? もちろん、明日にでも村長に言って、

 さっきのやつらの親玉を、ぶっ倒しに行こうと思ってるが。」

「・・・・・・はい?」

思わず、大きすぎる疑問が声に出てしまったようです。こほん。


「あの、どうやって行くつもりですか?

 相手の居場所などについて、手がかりはあるのでしょうか。」

「さっき捕まえた奴から、聞き出せばいいんじゃないか?

 あとは食べられる動物を捕まえたり、野草を取って旅をすれば、なんとかなると思うぞ。」

「・・・・・・」

頭がくらくらしてきました。本気なんですか? この人は・・・!

いえ、なんとかして止めないと、明日にでも死んでしまいそうです。


「・・・ティアさん。それでは仮に、

 『親玉は城塞都市にいる』と、あの人が言ったとしましょう。

 道順や、何日かかるかといった情報は、調べてから行くんですよね?」

「ん・・・・・・? ああ、確かに分かったほうが便利だな。」


「・・・ちょっと来てください。

 今頃、サクラさんと村長さんが話していると思いますので、

 伝えるなら早いほうが良いです。」

「えっ・・・? お、おい・・・」

私はもしも抵抗されたら、水で包囲するくらいの気持ちで、ティアさんを村長さんの家に引っ張ってゆきました。

助けてください、サクラさん・・・!



*****



「なるほど、話は分かった。

 ティアが無謀なことを言い出して、ミナモ殿を困らせてしまったようだな。」

「ん? 私、そんなに変なことを言ってるか?」

「ティアさん・・・!?」

ミナモちゃんがティアと一緒に駆け込んできたと思ったら、

ティアが急に旅に出る話を始めて、村長さんの表情がどんどん険しくなっている。

まあ、無理もないか。ある意味、私達が心配していたことは吹き飛んでしまいそうだけど。


「ブレクの残した魔道具を、ようやく自分で使いこなせるようになったと言っては、

 この家のあちこちを黒焦げにし、外でやるように注意したところ、

 一日中それを続けた挙句、一発も当たらなかったが、明日こそはと何度も繰り返したことを覚えておるか?」

「あ、ああ・・・確かにそうだったな。

 でも、今なら当たるぞ。ミナモのおかげで。」


「それじゃ! 人の助けを借りてようやく出来ることを、

 なぜまた一人で、より大きな行動を起こそうとするんじゃ!」

「でも、さっき捕まえたような連中は、また私やこの魔道具を狙ってくるだろ。

 だったらこの村に来られる前に、さっさと親玉をぶっ飛ばすほうがいいんじゃないか?」

「「・・・!!」」

平然とした顔でティアが言ったことに、一瞬、周囲がはっとした空気になる。


「あはは。そういうところは、本質を捉えているんだね。」

口にしながら、村長さんとティアの両方を見て、話を続ける。


「でも、私達から見れば危ないと思えることも、

 それを伝えてあげられる人が少なかった・・・ということじゃないかな。」

「た、確かにそうじゃな。旅についてはまだしも、魔道具の作り方など、分かる者はこの村におらんかった。」

「ああ、だから私は一人でやってたもんな。」


「ティアさん。それでどうやって、あの魔道具を扱えるようになったんですか?」

「ん? 親父の残した書き置きや、調整用の道具を見ながら、

 とりあえずやってみたら、出来るようになったぞ。まあ、小さい頃から今までかかっちまったが。」


「サクラさん・・・ティアさんって、もしかするとすごい人なのでは。」

「うん、私もそう思うよ。効率的だったかはともかくとして、それだけ続けられるというのはね。」

ここまで分かったならば、もう迷うことはないだろう。ティアの目を真っ直ぐに見て、口を開く。


「ティア。私とミナモちゃんなら、旅で大事なことや、魔力の扱いは教えられるし、

 魔道具についてよく分かる場所だって、紹介できるかもしれないよ。

 良かったら、私達と一緒に旅をしない?」

「・・・! そういうことなら、私からも頼む!

 サクラがすごいのは分かるし、ミナモにはもう色々教えてもらってるからな。

 私はまだ、何も知らないかもしれねえが、魔道具ならいつでもぶっ放せるぞ!」


「・・・いや、撃つ時は考えてくださいね?」

「あはは、まずはそれが課題かな。

 それはともかく・・・よろしくね、ティア。」

「よろしくお願いします、ティアさん。」

「ああ、よろしくな!」

色々あったけれど、私とミナモちゃんの旅は、

今、ティアを迎えて三人のものへと変わった。



*****



「ティア、本当に行っちゃうの?」

「もうかくれんぼできないの?」

昨日までティアと一緒に遊んでいた子供達が、寂しそうな声を上げる。


「ああ、しばらく遊んではやれないが、

 私はこれから、昨日村にやって来た悪い奴らの親玉を、ぶっ飛ばしに行くからな。

 終わったらまた、ここに帰ってくるぞ。」

「わあ、すごい!」

「あたし、ずっと待ってる・・・!」

けれど、勇ましい言葉と自信たっぷりの笑顔に、それはすぐに歓声へと変わった。



「それじゃ、村長。行ってくるぜ。」

「ああ、無事に帰ってくるんじゃぞ。

 お二方も、どうかティアをよろしく頼みます。」


「はい、お任せください。」

「私とサクラさんで、出来るだけたくさんのことを教えたいと思います。」

頭を下げる村長さんに、私達もうなずいた。


「それでは、お世話になりました・・・!」

見送りに来てくれた皆さんに手を振って、マイエルの村を後にする。


そして目指すは、二百年前の戦乱で東の軍勢を退けたと語られる、

『城塞都市』アクロフォリア・・・!

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