第16話 思いは巡る
「皆さん、ありがとうございました!」
「いいや、こっちこそ助かった。
これで村の近くの妙な連中も、いなくなったんだからな。」
「あっという間に倒しちまって、すごいもんだ。動きが全く見えなかったぞ。」
「農具の腕なら自信はあるが、さすがに剣を持った奴らがたくさんいるとなあ。」
村の外で気絶させた十人ほどの相手を、
一緒に行った腕っぷしの強い住人達が運んできてくれたので、
お礼を言うと、それ以上に感謝の言葉をもらってしまう。
いや、何度か往復した様子もなく、
自分達の倍くらいの人数を皆で運んでくるのもすごいと思うし、
この人達がいたからこそ、私は移動と戦闘に集中することが出来たんだけどね。
「サクラさん、あれだけの数をすぐに倒したんですか。初めて会った日よりすごい気がします・・・!」
このまま村長さんのところへ報告に行くという、住人さん達を見送ったところで、
ミナモちゃんが目をきらきらさせて声をかけてくる。
「ううん。魔力の残りを気にせず、速く動き続けることが出来たのは、あらかじめ多めにもらってたからだよ。
だから、これはミナモちゃんのおかげ。本当にありがとうね。」
「あ・・・サクラさんの力になれたのなら、良かったです。」
答えながら頭を撫でると、頬を赤くしつつ、目を細めてぴたりとくっついてきた。
「ところで、さっきのティアが強くなったように見えたのは・・・」
「はい。手を握った時に、少し渡しました。
ティアさんの練習や、魔道具の仕組みは見ていたので、何とか・・・」
「うん、あの状況では最善の選択だったと思う。そうなるかもとは考えていたけど、準備しておいて良かったね。」
「はい・・・!」
周りに気配が無いのを確かめつつ、小声で先程の動きを話し合う。
ミナモちゃんは他の人に魔力を渡す力があるけれど、譲渡する相手のことを分かっていないと、効果は落ちてしまうらしい。
私は風、ミナモちゃんは水というように、魔法を扱える人の中でも、得意なことはそれぞれに違うから、そうなるのも当然ではあるけれど、
しっかり手を打っておくミナモちゃんは、やっぱりすごいと思う。
「そういえば、ティアが随分と狙いが良くなっていたけど・・・」
「あっ・・・あの時は、使われていたのがほとんど私の魔力なので、
撃ち出される時に気を回して、いいところに当たるように・・・」
「・・・それ、本当にすごいけど、
また人に知られたら危なそうな力が出てきたね。」
「や、やっぱりそうですよね・・・ティアさんに教えるべきでしょうか。」
「うーん・・・実力以上の自信を持つのは良くないから、
次に練習をする時、あまりにも違いがあるようだったら、それとなくね。
もちろん、内緒にするよう念を押した上で。」
「はい、そうします・・・!」
私の考えに、ミナモちゃんがうなずく。
『次』についても、考えるべきことはあるけれど。
「ところで、ティアさんのこれからですけど・・・」
「うん。最後に決めるのはもちろん本人だけど、
周囲の状況から見ても、そうなりそうな気はするよ。
とはいえ、前向きな気持ちであってほしいけどね。」
「はい・・・!」
「その辺りは、私が後で村長さんと話してくるから、ティアのことは、ミナモちゃんに任せようかな。」
「は、はい。しっかりお話をしてきます・・・!」
他にも、ミナモちゃんにはまだ少し早い話もあるから、ここは私だけで行くことにしよう。
気配を確かめれば、おそらくはさっきの子供達と一緒にいるだろう、
ティアのもとへ向かうミナモちゃんを見送って、村長さんの家へと歩き出した。
*****
「つい先程、森のほうに居た不審な者達も、村に運び終えたと聞いた。
そちらも全て倒してくれたようだな。本当に感謝する、『風斬り』のサクラ殿。」
前の人達の用事が終わったところでご挨拶をすると、村長さんが頭を下げてくる。
そこまでのお礼は要らないんだけどな・・・主に呼び方とか。
「どういたしまして。実は、捕らえた人達・・・いえ、厳密には一人だけですが、
その扱いについての提案があって参りました。」
「ほう・・・?」
「もちろん、村のしきたりのようなものに、私が口を出すつもりはありません。
しかし、ティアが倒した、全体の指示を出していた人物については、
商業都市へ護送することをお勧めします。」
「・・・それはやはり、奴が属するという組織のことか?」
「はい。商業都市の、過去の事情に詳しい人であれば、意味を理解するでしょう。
私への報酬は結構ですので、その旅費に充てていただければと思います。」
「・・・! あなたがそこまでする状況ということか。」
「個人の事情もありますが、そういうことです。
もし伝手が無ければ、依頼所でマリーさんという受付の方を探してください。
私の名前を出していただいて構いません。何でしたら一筆添えておきます。」
「ああ、承知した。『風斬り』のサクラ殿の提案に従おう。」
うん。私が名を知られていることで役に立つのなら、こういう時はどんどん使ってゆこう。自分だけのためではないのだから。
「ところで、私からも提案・・・
いや、お願いがあるのだが、話を聞いてもらえるだろうか。」
「・・・もしかして、ティアのことでしょうか?」
「・・・! ああ、あなたも察していたのだな。その通りだ。
率直に言えば、あの子をあなた達の元で、鍛えてもらうことは可能だろうか?」
「それは、ティアの成長を望む気持ちでしょうか。
あるいは・・・村の安全を考えてのことでしょうか。」
「ぐ・・・正直に言えば、どちらもだ。
曲がりなりにも十と一年、親代わりをしていた身でもあるが、
同時に私は今、村の長でもある。・・・心が冷たい者だと、思われても仕方ないがな。」
「いいえ、そこまで言うつもりはありません。
私が教えを受けた人も、考えが周りに伝わりにくいところはありましたから。
ただ・・・ティア本人の気持ちを、しっかりと聞いてからでも遅くはないかと。」
「・・・そうだな。」
立場が違えば、考え方も変わってくるのは、珍しくないことだろう。
私も今、ミナモちゃんにまだ話せていないことがあるように。それでも、いつか時が来た日には・・・
そう思いながら、商業都市への書状をしたため、近付いてくる足音を待った。
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