第15話 二人の一閃

「それでは皆さん、宜しくお願いします。」

村の住人の中でも、特に腕っぷしが強いという数人に、村長さんが声をかけてくれたので、

連れ立って不審な人物が目撃された森へ。


昨日のうちにしっかりと調査・・・というか観察はしてきたし、

今も気配は感じているので、迷うことはない。

森に少し入ったところで、辺りに居座る十人ほどを確認して、真っ直ぐにそこへ向かう。


「マイエル村近くの森を占拠している不審な人物というのは、あなた達のことですね。」

踏み込んでゆけば、ぎろりとこちらに向く視線があるけれど、

この程度で恐れることもない。


「ああ? 俺達が邪魔だとでも言いたいのか。」

「簡単に言えばそういうことです。

 村長から許可は得ていますので、あなた方にはまず村へ来ていただいて、

 事情があるならば、そこでご説明願いたいですね。」


「随分となめた口を聞いてくれるじゃねえか。」

すぐに不機嫌な声が返り、立ち上がると共に剣を抜く音が響く。

うん、これでよし。


村長の依頼を受けたとはいっても、私は通りすがりのようなものだから、

こうして村の住人達に向けて、直接剣を抜いたとなれば、また意味も変わるだろう。


「交戦の意志あり、ということですね。」

私もすぐさま剣を抜き、彼らと向かい合った。



*****



「なあ、ミナモ。やっぱり私達も、一緒に行ったほうが良かったんじゃないか?

 サクラ達が全員捕まえちまったら、何してたんだって話だぞ。」

ティアさんが魔道具の練習をしながら、少し落ち着かない様子で私に言います。


その腕は、昨日よりも確かに良くなっているように思えますが、

まだまだ正確にとはいかないようです。


「それならそれで、良いのですよ。

 村は安全になり、ティアさんや魔道具についての心配も減る。

 私達が一番したいことは、そうではないのですか?」

「ぐ・・・そ、そいつはそうかもしれないが・・・」


「それに、昨日皆で話した通り、そうならない可能性のほうが高いから、私達はここにいるのですよ。」

「あ、ああ・・・」

村長さんの家で、いくつかの状況を想定して、私達はこのやり方を選びました。


一番頭を悩ませたのは、相手方でおそらく指示を出している人が、

私達が来る前から、少し離れて村を調べるような動きをする、ということです。


だからこうしたほうが、向こうから出てきてくれると思ったのですが・・・

私達のほうへと、近付いてくる気配を感じます。

どうやら相手がしてきたのは、こちらにとって一番嫌なやり方・・・!


「魔道具士ブレク・フォルトネの娘というのは、お前だな?」

「な・・・!!」

声が聞こえたほうを向いて、ティアさんが言葉を失います。無理もありません。

おそらくサクラさんが言っていた、『身なりの良い人』が、昨日も村の様子を見ていた二人を従えて・・・


「ティア・・・」

「ううう・・・」

その二人がそれぞれに、ティアさんと一緒に遊んでいた子供を捕らえて、首筋に短剣を突き付けているのです・・・!


「てめえら、アルとエルを離しやがれっ!!」

ティアさんが怒りに震える声を上げ、魔道具を相手方に向けます。


「おっと、こいつらに怪我をさせたくないなら、それ以上動くんじゃないぞ。」

「ぐ・・・!」

しかし、真ん中にいる『身なりの良い人』がすぐに言うと、ティアさんは真っ赤になって相手をにらみながらも、動きを止めました。


「どうして、こんなひどいことをするんですか・・・!」

私も隣から、精一杯の声を上げます。


「ははは、何も知らないお友達は黙っていろ。

 我々は、この子の父親が盗んだものを、返してもらいに来ただけだよ。」

「盗んだだと・・・!? こいつは元々親父が考えたものだろう!

 てめえらのものなんかじゃねえ!!」


「いいや、我々のところで作ったものは、結局のところ我々のものだ。

 本当は君も・・・と言いたいところだけど、まともに話を聞いてくれそうもないねえ・・・」

「何、訳の分からないことを言ってやがる・・・!?」


「まあいい。面倒だから、その魔道具を我々に渡せば終わりにしてやろう。

 もちろんそれを撃てば、お友達は戻ってこない。そっちの魔法士らしい君も、分かっているね?」

「・・・!!」

ティアさんが次の行動を迷うのが分かります。

それを見る男の人達は、にやにやしたような嫌らしい笑みを向けていました。



「ティアさん・・・」

私は一歩だけ歩み寄り、その手を握ります。

杖は布にくるんで、背中にくくりつけたまま。

見下したような表情の相手方は、これを攻撃的な動きとは考えないでしょう。


「自分を、信じてください。」

「・・・!!」

ティアさんと繋いだ手に力を込め、その目がはっとするのを見てから、

男の人達の視線がこちらに向いているのを確かめて、その頭上に魔法で作り出していた、大きな水の塊を思いきり落としました。


「ぶほっ・・・!!」

「んがっ・・・!?」

「ごぶっ・・・!」

大量の水を頭から打ち付けられた男の人達が体勢を崩し、短剣も子供達の首筋から離れます。


「左です・・・!」

「ああ・・・!!」

ティアさんの魔道具が左側の人を撃ち、私が反対側の人に水魔法を放てば、勢いに圧された彼らは後方に倒れました。

あっ、地面に落ちた短剣は水で押し流しておきましょう。残るは一人・・・!


「てめえなんかに、親父と私が作ったこいつは渡さねえよ・・・!!」

「ごふっ・・・!」

力強い声と共に、魔道具から光が放たれれば、

今までにない強さで弾けたそれは、身なりの良い男の人をずっと後ろまで吹き飛ばし、完全に意識を失わせました。



「う、うう・・・」

「こんな、ことが・・・」

最初に倒れた二人が、ふらふらとした様子ではありますが、

地面に手をつき、何とか起き上がろうとしています。


「ちっ、もう一発・・・」

「いえ、大丈夫ですよ。」


「おっと、逃がさないよ。しばらく眠っててね。」

「・・・!」

男の人達が私とティアさんの前に現れたのと同じ頃、

すごい速さで戻ってきて、物陰から見守っていてくれたサクラさんが、立ち上がろうとした二人を剣で打ち、気絶させました。


「さ、サクラ・・・? 村の外へ行ってたんじゃ・・・」

「うん。危ない人達は全員意識を飛ばしてきたよ。こっちにも嫌な気配は感じてたから、後のことは村の人達にお願いして、急いで戻ってきたんだ。」

「サクラさんは、とってもすごいんですよ。

 ティアさん、それより・・・」

だいぶ驚いている表情のティアさんに、気にかけるべき存在を示します。


「・・・! アル、エル、すまねえ!!

 私のせいで巻き込んじまって・・・!」

「ううん。ティア、すごくかっこよかったよ。」

「うん! お話に出てくる英雄みたいだった。」


「そっか・・・ありがとな。」

子供達から返ってきた笑顔に、小さな英雄が微笑みました。

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