第6話 これから

「さて、次は今後のことを話そうか、ミナモちゃん。」

「はい・・・!」

私達の過去については、今話せるだけのことを語り合った。

その後はもちろん、未来についてだ。


「ミナモちゃんの記憶を取り戻すことが、当面の目標だと思うけど・・・

 少し時間はかかるとしても、東の地へ行きたい?」

「はい・・・簡単に言って良いものか分かりませんが、

 まだ忘れていることを思い出すため、何が起きたのか確かめるため・・・

 もし、もしも無事でいてくれるなら、お母様にまた会うために、

 私は東を目指したいと思います。」


「それがおそらく・・・いや、ほぼ確実に、

 危険を伴うということは、分かってるよね?」

「はい・・・! あっ、サクラさんも巻き込んでしまうんですよね。

 ごめんなさい。もしも嫌なら、いつか私が強くなった後に・・・」


「ミナモちゃん、絶対に守るって言ったでしょ。

 それに、剣士なら危険なんて慣れっこだよ。

 もう、信じてもらえないのは傷つくなあ。」

「ええええっ、ご、ごめんなさい・・・!」

ちょっと頬を膨らませてみたら、ミナモちゃんが目の前で慌てふためいている。

うん、やりすぎちゃったね。急いで抱きしめて、頭を撫でる。


「あはは、冗談だからそんなに謝らないで。

 私のことまで心配してくれて、ありがとうね。」

「いえ、それは当然です。

 危ない場所へ行こうとしているのは、私の事情なのに・・・」


「ああ、それなら私のほうにも、理由はあるかな。」

「えっ・・・?」


「母さんも、今はこの剣を私に託して、どこかへ行っちゃったんだよね。

 好き勝手やる人だったから、今頃は東のほうにいるかも。

 剣の修行で何度もぼろぼろにされたお返し、そろそろしたいかな。」

「あ、あはは・・・・・・サクラさんのお母様も、すごい人なんですね。」

うん、残念ながら母さんについては、何の冗談もないんだ。


「それじゃあ、決まりだね。」

「はい。一緒に行きましょう、東へ・・・!」

私達はぎゅっと抱きしめあって、これからのことを互いに誓った。



*****



「さて、魔法士ミナモちゃんのお披露目だね。」

「に、似合っているでしょうか・・・」

出会った時から身に付けていた魔法士の服と、自らの名が刻まれた杖を合わせれば、

まだ少し、服に着られている感じはあるけれど、立派な魔法士に見える。


「それにしても、この服も杖も普通のものじゃなそうだし、

 もしかしなくても、ミナモちゃんは良いところの子だよね。」

「えっ・・・? そ、そうでしょうか・・・」


「まずね・・・『お母様』なんて言い方は、庶民はそうそうしないものだよ。

 お家で『お姫様』なんて呼ばれてなかった?」

「い、いえ・・・そこまでは思い出せませんが、

 ただ、大きい所に住んでいた気はします。」


「やっぱりかあ・・・

 それじゃあ、お姫様の記憶もそのうち戻るといいね。」

「それは、本当のことか分からないのですが・・・」


「あはは、その辺はいつかのお楽しみということにして・・・

 ミナモちゃんは今、魔法はどれくらい使えるの?」

「はい・・・! お勉強をしていた記憶はありますし、

 水の魔法が得意だったことも、おぼろげですが思い出しています。

 ある程度は、出来るはずです・・・!」


「うんうん。それなら良かった。

 じゃあ、依頼を受けながら試してみよう。

 何事もやってみないと分からないし、旅をするにはお金も必要だからね。」

「はい・・・!」

そうして、荷物の支度を終えると、

サラさんに今夜の宿もお願いして、私達は出発した。



*****



「ここが、依頼所ですか・・・」

都市の大通りには少し慣れてきた様子のミナモちゃんだったけど、

他のお客さんもそれなりに泊まっていた、

サラさんの宿よりもずっと大きな建物を見て、また驚いているようだ。


「ここにはたくさんの人が集まるからね。

 依頼をする人、受ける人、その手続きをする職員さんもいるし、

 中には盗賊の討伐みたいに、都市からの大規模な依頼が出て、その説明を皆にすることもある。

 そして買い物や簡単な食事も出来るから、これだけ大きくなっているんだよ。」

「そ、そうなんですね・・・」

さて、入口の前で立ち止まっているわけにもいかない。

ミナモちゃんの手を引いて扉を開く。


「あっ、サクラさん! ちょっとこちらへ来てください。」

中へと入ってすぐに、顔見知りの受付担当であるマリーさんが、奥の部屋へと招いてきた。


「昨日は急な盗賊の討伐、ありがとうございました。待ち伏せされたとのことですが、お怪我は・・・無さそうですね。」

「はい。そこまで強い相手ではありませんでしたから。」


「いや、それはサクラさんだから言えることなんですが・・・ところで、そちらが親族のミナモさんですか?」

「は、はい! ミナモといいます。よろしくお願いします。」

うん、昨日の警備隊の人達は、そういう情報も伝えていたようだ。


「ミナモちゃんも今日から魔法士として活動するので、一緒に依頼を受けることにしますね。

 それから、昨日受けた採取依頼の完了報告をしても良いですか?」

「はい、もちろんです。ヒリア草の採取でしたね。

 昨日は珍しく、サクラさんが当日中に戻ってこないと思ったら、警備隊の人達から話があって驚きましたよ。」


「あはは、すみません。ミナモちゃんも驚かせてしまいましたし、昨日はゆっくり休もうと思いまして。」

「いえいえ、期限内ですし、お気になさらずに。」

話をしながらも、マリーさんが手早く資料をまとめ、お薦めの依頼まで一覧にしてくれる。

依頼所にいると、仕事のできる人だという噂を聞くこともあるけれど、その通りなのだろう。


「こちらが採ってきたものです。」

「はい・・・確かに。いつも質の良いものを採取してくださり、ありがとうございます。」

私が荷物袋から取り出した草の束を、

マリーさんが品質を確かめ、報酬を支払ってくれる。

そして次は、今日受ける依頼の話だ。


「それじゃあ・・・ファスターラビットの捕獲依頼と、

 オイレナの花の採取依頼を受けます。」

「ああ、どちらも同じ方角ですね。承りました。」


「はい。ミナモちゃんの初めての依頼には、ちょうど良いかと思いまして。」

「そ、そうですね・・・前者はどうかと思いますが、サクラさんとご一緒なら、大丈夫なのでしょうね。」

少し苦笑も見える気がするけれど、マリーさんがうなずき、手続きを進めてゆく。


「サクラさん、依頼の内容にも詳しいんですか?」

「うん。あちこち旅してることもあるけど、情報というのはすごく大事だよ。

 それに、依頼をする人達も、必要があってやっているわけだから、採取する側としても、ちゃんと良いものを見付けたいからね。」

「はい・・・! サクラさんを見習って私も頑張ります!」


「そうでした・・・情報といえば、城塞都市へ向かう方面の森で、

 動物達が争うような声が聞こえたそうで、今日は警備隊が調査に向かいます。

 少し距離はありますが、途中の道ではその森と接する場所もありますので、

 念のためお伝えしておきますね。」

「なるほど・・・危険な動物がこちら側に流れてくる可能性もありそうですね。

 気を付けるようにします。ね、ミナモちゃん。」

「は、はい! 情報が大事だということは、よく分かりました。」


「ふふっ、サクラさんに教えられてゆくのなら、

 ミナモさんもすごい人になりそうですね。」

「あはは、すごいのはミナモちゃんだと思うから、私が大切に教えていかないと。」

「ええっ・・・?」

「サクラさんがそこまで言うのなら、ミナモさんのこれからに期待ですね。」

微笑むマリーさんに、ミナモちゃんが目をぱちくりさせている。

別に、冗談で言っているわけではないんだけど。



「サクラさんのおかげで、周りの皆さんにも優しくていただいた気がします。

 私、まだ何もしていないのに・・・」

依頼所を出て、少し緊張から解放された顔をしながら、ミナモちゃんがぽつりと口にする。


「うん、その気持ちは分かるよ。

 私も最初は、母さんに付いて回るだけだったからなあ・・・

 でもね、お仕事をちゃんと頑張っていれば、私の親族としてじゃなくて、

 ミナモちゃん自身を評価してくれる人は、きっと出てくるよ。」

「はい・・・! 私も頑張ります!」

答える声に、力が戻るのを感じる。

少しばかり気負っているかもしれないけれど、初めてなら無理もないだろう。

そうして私達は、昨日とは別の門をくぐり、二人での最初の依頼に出発した。

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