まっすぐ行ってぶん殴る。
「押し返すぞ!」
タマちゃんが走りだす。
高すぎる行動力とありあまるスピード感に、まだ誰もついていけていません。
だれにバフをかければいいのか、だれからヘイトを奪えばいいのか、どれを攻撃すればいいのか分からなくて一瞬の隙が生まれます。
巫女さんはボスのグロテスクさに負けて、ついに吐いてしまいました。
誰かが動かないか周囲を見渡します。
こんな時に音頭をとってくれそうなヤツが真っ先に飛び出してしまったので、どうしたものでしょう。
「……オレSランカー!」
《侍》のモンドさんが手をあげました。
この指止まれの人差し指。
援護するメンバーを集めようというのでしょう。
「私もSランク!」
サキちゃんも続きます。
「アタシもSランク!」
《白聖女》のシチリアさんが手をあげました。
その拳はモンスターの返り血で真っ赤に染まっていました。
#白聖女 #とは
これで、タンクのタマちゃん、攻撃職の《侍》モンドさん、何でも屋の《盗賊》の私、たぶんヒーラーの《白聖女》シチリアさんが揃いました。
臨時パーティーの結成です。
ほんとにヒーラーかわかんない人が混じっていますが、それはそれとして。
「フェンリルちゃんはどうする!?」
恐竜相手に無双中のフェンリルちゃんにも声を掛けます。
ちょうどスピノサウルスの首にかみついてトドメを刺しているところでした。
『くさったお肉はすきじゃないから、フェンリルはいいや』
生肉を食べることを優先しました。
主人への忠誠心はないようです。
犬っていうか猫に近いかもしれない。
「勇者の兄ちゃんをヘドロクジラまで届ければいいんだよな!?」
モンドさんが恐竜を太刀で切り裂き、道を作ってくれます。
時代劇のお侍みたいな鉄の笠をかぶった、ギルドでも何度か見かけたことがあるランカーです。
「シャオラァ! あら、私ったらなんて声を。おほほ……」
《白聖女》のシチリアさん。
ヤンキーみたいな叫び声をあげながら恐竜を殴り飛ばしました。
頭を殴られた恐竜は地面に激突する前に、すでに即死していました。
今さら取り繕ったところで金髪ヤンキー聖女の仮面は外せないと思います。
というかヒーラーに数えていいのかな。回復してくれるかな。
いざとなったら私がポーションを投げつけるしかないんですけども。
「タマちゃーん! なにか作戦あるんですかー!?」
先を走っているタマちゃんの背中に叫ぶ。
勇者が切り開いた道はモンスターの群れがすぐに埋めてしまうから、私たちは自分の道を自分たちで作らないといけない。
「なーい! とりあえず一当てしてみる!」
モンドさん、私、シチリアさんが顔を見合わせます。
みんな、不安の色を顔に浮かべていました。
「いいねえ、日本男子ってのはそうこなくちゃな」
モンドさんはモンスターを太刀で切り伏せながら嬉しそうにしています。
「不味ったかも。まあでも、いざとなったらアタシが全部殴り飛ばすから任せなさい!」
パキケファロサウルスの頭を蹴り砕いたシチリアさんが、真っ白な歯を輝かせて笑います。
「ついていく人と、ついてくる人の選び方を間違えたかも」
おそらく4人の中で私だけが冷静です。
みんな状態異常で《
たまに後ろから魔法や弓矢が飛んできます。
余裕のある後衛の人が援護してくれているのでしょう。
「ありがとー!」
私の背中に回ってきていた恐竜がその魔法で真っ黒こげにコンガリ上手に焼けました。
そのお礼に、後ろに向かって叫ぶ。
瓶底メガネの萌え袖魔法使いお姉さんが手を振っているのが見えました。
さらに前に出ます。
ようやくタマちゃんの背中に追いつきました。
「なんだ、3人も来てくれたんだ?」
「たった3人で悪かったね」
「いやぁ、ひとりが長かったから、こんなに来てくれると思わなくて」
タマちゃんが大剣を振る。
一度に何頭ものモンスターが、切り裂かれて、打ち砕かれて、弾き飛ばされていきます。
先頭をゆくタマちゃんの横にモンドさんとシチリアさんが入る。
その一歩後ろが、私。
いま私がいるのってヒーラーの位置なんだけどな。
おとなしくアイテム係と後方警戒をやりましょう。
いいもん、前に出て注目されなくてもいいもん。
役割分担だからいいもん。
「一気に群れを抜く! あわせろ!」
タマちゃんが大剣を背負いました。
大技を出すための、溜め。
「《我が武を見よ──南無八幡大菩薩!》」
モンドさんがタマちゃんを追い越してスキルを発動します。
「勇者一行のお通りだァ!」
高速移動技と居合斬りの同時使用。
刀を鞘におさめたまま、モンドさんに近づくモンスターたちを目に見えないほど素早い斬撃が真っ二つに両断していきます。
「《天より来りて悪を討つ──アルデ・ディ・セテ!》」
シチリアさんが武闘家のように両手を構えると、髪の毛が逆立ってシスター服が
「わははははは! 十字架の威光にひれ伏すがいいわ!」
シチリアさんの白手袋には輝く十字架のマーク。
その手袋で恐竜を殴りつければ十字架のマークが刻まれて、殴られた恐竜が爆発していきます。
教会とシスターさんへの風評被害が心配です。
「──《飛剣抜刀》」
タマちゃんが大剣を振ります。
飛ぶ斬撃がモンスターの群れを文字通り切り開いて道を作り、斬撃のあとにはなにもない通路ができました。
「サキちゃん!」
「よし来たタマちゃん待ってたぞい!」
その通路を、私が走る。
その通路を、モンスターたちが埋めようと押しかけてくる。
双剣で、投げナイフで、爆弾で、道をふさごうとする恐竜をすばやく処理していきます。
陣形の崩れたモンスターたちは連携も乱れて、私を相手に一対一を繰り返していく。
私が守った道を、私のすぐ後ろを、他の3人が追いかけてきます。
「いくぞー! ヘドロクジラ…… 《腐乱大過:ネクロズールー》のファーストアタックは、私がいただきます!」
:最後の最後で欲を出しちゃったね
:そういえばこのロリ巨乳ちゃんの配信だったわ
:おれはてっきり勇者パーティー結成記念配信だと
うるさいぞリスナー!
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