一撃目 / ファーストアタック

「ファーストアタックはこの私、花形サキのモノだーッ!」


《盗賊》のすばやさを利用して、垂直の崖を走って登る!

 時おり妨害してくる翼竜を投げナイフと手投げ爆弾で倒す!

 Wikiに名前を残したらぁよ!


「あの子、あんなことする子だったんだ……」


 タマちゃんの怯えた声。

 だれのせいじゃい!


「元気な子が弾けるとあんなに暴れるんだな」


 モンドさんの呆れた声。

 フラストレーションがたまってるんですよ!


「やれ! いけ! ぶちのめしなさい!」


 シチリアさんの声援だ!

 いきます! ただのコラボ配信だったはずが、いつのまにか《大氾濫》のど真ん中でユニークモンスターと戦うことになってた恨みつらみをこめて!


「ぶちのめしたらーッ!」


 崖の天辺から空中に躍り出る。

 地面から数メートルのところを浮いているヘドロクジラの、地表から30メートルの位置にある脳天めがけて一直線!


「いけ、《稲葉グラスリーフ》!」


 ユニークアイテムの双剣・《稲葉》を投げる。

 ヘドロクジラの腐った肉を貫いて、骨に刺さる甲高い音が響く。


「《誰も寝てはならぬ!ドーン・ブレイカー》」

 

 頭蓋骨に刺さった《稲葉》に脳天かかと落とし!

 頭を砕くためにかかと落としで双剣を叩き込む!


「──ぜんぜんHPが減らない!?」


《稲葉》の切れ味は、ヒヒイロカネもバターのように切れるほど鋭い。

 このスキルだって、ダメージ倍率は高く、しかも《稲葉》を突き刺してから蹴ったことで倍率も上がってクリティカルも入っている。

 それなのに、HPが減ってない。

 

「サキちゃん逃げろ!」


 パーティーからの警告。

 すぐにヘドロクジラの頭から《稲葉》を抜いて逃げる!


「今度はなんだー!?」


 肩越しに《腐乱大過:ネクロズールー》を見る。

 体中をボコボコと沸騰させている!


「煮えたぎるマグマってあんな感じじゃね?」


 モンドさんが恐竜を切り伏せて、追いついた。

 ちょうどその時、ヘドロクジラの体のあちこちが爆発する。


 腐った肉とヘドロの混ざった汁があたり一面にまき散らかされる!


「潮吹きとは別の攻撃!?」


 空中で二段ジャンプと三段ジャンプをきめて回避!

 タマちゃんたち仲間の近くに着地する。


「サキちゃん、あのまま張り付いてたら一緒に爆発してたわね」


「考えたくないよー!」


 ヘドロと腐肉の汁がくっついてないかシチリアさんがチェックしてくれる。

 幸いにもノーダメージだった。

 もしくっついていたら、スリップダメージで骨まで溶かされてたかも。


「ネクロズールーもノーダメってぇわけじゃなさそうだが、サキちゃんの攻撃でミリしか減らないとはなあ」


「めっちゃミリしか減ってない……無効化してくれてた方がよかったまである……」


 いくらユニークモンスター相手でも、自分の最大火力をぶつけたのにここまで効いてないと、ヘコむ。


「ギミック系のボスかしら? 今のところなにも見当たらないけど」


 シチリアさんの言うとおり、分かりやすい弱点とか、分かりやすい反撃方法は見当たりません。

 ヘドロ爆弾を弾き返したら大ダメージとか、そもそもヘドロ爆弾に触れただけで死んじゃいそうだから違うかも。


「一番イヤーなパターンは、単純にHPが多くて、即死級の攻撃をどんどんやってくるボスの場合だよね」


「うん」


「異議なし」


「こっちは一撃死するのに相手はピンピンしてるのずるい」


 エリアボスとかユニークモンスターはそういう敵なんですけど、やっぱりずるいものはずるい!


「で、あいつも単純にHPが多くて、即死級の攻撃をどんどんやってくるボスだと思うんだけど、皆はどう?」


「誠に遺憾ながら、異議なし」


「ムカツクけどしょうがないのよね……」


「こっちは一撃死するのに相手はピンピンしてるのずるいぞ!」


 怒りの拳をふりあげて抗議します。

《腐乱大過:ネクロズールー》がヘドロ爆弾を噴き出して返答!

 大急ぎで逃げました。


 範囲攻撃もかなりの広範囲で、ヘドロ爆弾(仮)とヘドロ噴火(?)も見るからに危険です。

 私の第六感が、うっかりカスっただけでも死んじゃいそうなくらいだと警告しています。

 

「タマちゃんあれどうする!? 当たって砕けるどころか、当たったら溶かされて骨も残らないんじゃない!?」


「ほな消し炭にするかあ」


「できるんか? 二度は聞かんぞ、できるのか?」


 モンドさんが二度聞きました。

 半目で疑っています。

 ちょっと怖い。


 こくり、とタマちゃんが首を縦に振りました。


「アンデッドの相手は得意なんだ。まあ、アンデッド特攻の武器か、聖職者の仲間がいれば楽なんだけど……」


 三人そろってシチリアさんに視線を向けました。

 このメンバーでは唯一の聖職者、《白聖女》さまです。


「え? アタシ? なぜか分かりませんが、昔からアンデッド特攻のあるスキルが使えませんのよ。なぜかしらね」


 金髪ヤンキー聖女だからでしょ。

 喉まで出かかった言葉を飲み込みます。


 真実は時として人を傷つけると教わりました。

 今こそ口をつぐむ時なのでしょう。


「金髪ヤンキー聖女だからでしょ」


 自称:異世界勇者のなりきりコスプレ配信者がツッコミました。

 無言で金髪ヤンキー聖女がタマちゃんの脇腹をどつきました。

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