《腐乱大過:ネクロズールー》
冒険者たちが次々と合流してくる。
配信から来てくれた冒険者、掲示板から来てくれた冒険者、仲間に連れられてきた冒険者。
ジョブもロールもバラバラで、パーティーの役割分担もぐちゃぐちゃで統一感が全くない。
でもみんな、やる気が高くて連携もとれている。
すこしずつ、すこしずつ前線を作って流れを安定させようとしている。
タンクがヘイトを引いて前衛が攻撃して壁を作り、その後ろではヒーラーが走り回り弓や魔法が飛んでいく。
私とタマちゃんのふたりしかいなかった時よりもずっと、危なげなく戦えている。
「サキちゃん、これ、いけると思う?」
「……わからない。まだ、さっきのユニークモンスターが出てきてないから」
ザコを統率しているユニークモンスターを、まだ誰も見ていません。
それでも前線ではモンスターたちが連携した動きをとっていて、安定してきたといっても、まだまだ不安要素は大きい。
前線でタンクが前に出た瞬間、ヴェロキラプトルや小型恐竜が襲いかかってHPをゴッソリと持っていく。
魔法使いが呪文を唱えようとすると、翼竜が攻撃して呪文を妨害してくる。
急にモンスターが引いたと思って攻撃を仕掛けようとすると、いつのまにか囲まれて孤立しそうになっていたり。
「モンスターの頭が良くなってる。実は群れが迂回して、背中から攻撃しようとしてるとか?」
「考えたくないなぁ!」
タマちゃんと一緒に前に出る。
フルアーマーのタマちゃんが派手な動きでヘイトを買い、攻撃を引き付けている間に、私が恐竜を切り刻む。
すると、変な恐竜が出てきた。
「……
腐った目玉をこぼしながら走ってくる!
切りつけると腐った肉のブヨブヨとした感触が返ってきた。
アンデッド特有の感触!
「うわあああああ! ゾンビ! 恐竜の……ゾンビ!」
ホラー映画が苦手な《聖女》さんが発狂しちゃった。
恐竜のゾンビってなんだろう。ニンジャとかボクサーとかいるし、もう考えない方がいいんだろうね。
「アンデッドの恐竜モンスターは見つかってたか!?」
冒険者たちの情報交換タイム。
Wikiとか見ている余裕がないから、とりあえず口に出して聞いてみるしかない。
「知らない!」
みんな口々に答える。
みんな、知らない。
みんなが知らないということは、遭遇したパーティーがすべて全滅しているか、ここで初登場した種類ということになります。
つまり、強敵。
「え……でっか……」
「なに? 《聖女》さんの胸の話してる? ……うわ、でっか」
「オレは花形さんのロリ巨乳の方が………………いやデケェ」
変な話してる連中がいない!?
今その話してる場合!?
「だれが胸のわりに身長が小さいって!?」
モンスターよりも先に不届き者の冒険者たちを”理解らせ”ようと袖をまくりこぶしを握る。
すると、冒険者たちが私の後ろを指さして驚いています。
「サキちゃん後ろ! 後ろ見て!」
「なんで前を向いてたのに気づかないの!」
「身長が小さいから見えなかったんじゃねえの」
おいこら最後のやつ前に出てきなさい。
私が相手をして差し上げます。
「サキちゃん、サキちゃん」
「なんですかタマちゃん。止めないでください私にはやらねばならないことがあるんです」
「あのユニークモンスター、おれの知らないやつだから見てほしいんだけど」
「ユニークモンスター?」
タマちゃんが指さしている先に視線をやります。
「……クジラ?」
クジラが、飛んでいます。シロナガスクジラより大きい。
大きなクジラが空を飛んでいる? 浮かんでいる?
全身を腐らせてヘドロをまき散らかしながら、飛んでいます。
ネームプレートには、
「《腐乱大過:ネクロズールー》」
ユニークモンスターを示す固有名詞がつけられていました。
「ファーストアタックはもらった!」
魔法使いが呪文を唱えます。
巨大ボス向けの、高火力呪文。
火球がネクロズールーめがけて飛んでいきます。
『………………………………』
クジラは飛んでくる火球に目も向けず、ゆったりと空を飛んでいました。
そして長い体を震わせると、背中から潮を吹きました。
ヘドロの潮吹きです。
「あれ絶対に当たったらヤバいだろ!」
「逃げろ逃げろ! こっちに飛んでくる!」
前衛たちが後ろにひいてきます。
ユニークモンスターの攻撃ですから、どこまで注意してもしたりないということはありません。
もしかしたら即死技かもしれないので。
「……くそ、呪文を防がれた!」
ヘドロが火球に当たると魔法をかきけしてしまいました。
もしかしたら、ネクロズールーは攻撃じゃなくて防御のためにヘドロを噴き出したのかもしれません。
ヘドロ冒険者たちには当たりませんでした。
その代わり、恐竜たちに当たりました。
「う、うわぁ。生きたまま骨にされてる……」
「ヘドロで溶かされてるんだ。酸で溶かされてる……」
「アタシしばらくお肉を食べれないかも」
『フェンリルも、くさった肉はたべたくない。おなか、こわす』
ひとり(正確には一頭)だけ違う感想をもらしていますが、《フェンリル》ちゃんはそういう生き物だということでスルーしておきます。
ねばねばとした酸性のヘドロが恐竜の体にまとわりつき、あっという間に骨も残さず溶かしていきます。
攻撃じゃなくて防御しただけで、これだけの被害が出る。
それがユニークモンスターです。
でも、
「ははぁ。アレが親玉ってことか」
こっちにもユニークモンスター(仮)がいます。
異世界勇者のタマちゃんがいます。
「よし。おれがアイツをやってくるから、皆、援護お願い」
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