第10話
「アハハハハハ‼聖女様殺した!聖女様殺した背教者!僕があなたを殺して見せるの‼そしたら聖女様、僕のことを褒めてくれるはず!」
瞳孔が開き、神官の恰好をした蒼髪ツインテールの少女が水の上に立ちながら、辰馬の足場にしている壁に向かって水でできた蛇をぶつけてくる。
「教会の奴らは
辰馬は余裕で襲い掛かってくる蛇を避けてくるりと空中で一回りすると、少し先にある壁にできていた鍾乳石に捕まった。
「そこからどうするつもりなの??水の中に飛び込むの?」
首を可愛く傾げ、神官の中でも上位の者が着る金線が腕に入った服で口元を隠すフロースに辰馬はハッと笑って見せた。
「飛び込んだらお前のテリトリーにネギ背負っていくようなもんだろ?そんな安い挑発に乗るかよ」
するとフロースはむーっとほっぺたを膨らませた。
「僕の言うこと聞いてくれたらきっと天国で聖女様も神様も許してくれるよ!」
「生憎許しなんてものは欲しくないもんでね!」
辰馬が懐から取り出した短剣をフロースに投げつけるが、それは蛇によって簡単に弾かれてしまう。
「素直じゃないな。知ってるよ。おじさんみたいな人を意地っ張りっていうんでしょ。僕も昔そうだったから気持ちわかるよ!自分が悪いって認めるの怖いんだよね!」
一つの言葉にピクッと耳を動かした辰馬はガリガリと後頭部を書きながらはぁっと大きくため息をついた。
「……なんで教会関係者は俺をおじさんって言うんだよ、俺はまだ20代――って人の話は最後まで聞けって大好きな聖女様に言われなかったか!!」
「クズと馬鹿とジジイの話は途中で遮っていいって聖女様は言ってたよ」
「いい性格してるぜ聖女様」
辰馬が話している隙を狙って蛇を鍾乳石にぶつけてくるフロース。
それをまた寸で躱し、水に落ちそうだった体を壁に投げた一本の短剣によって支える。
フロースは恍惚とした表情を浮かべながら語るのをやめない。
「飛び込んで!そしたら僕があなたの罪を償うお手伝いをしてあげる!だって聖女様は僕のような悪人も許してくれる寛大なお方だったもの‼」
「へぇーじゃあ神の元へいくために殺してあげるとでも言うのか?」
辰馬が冗談混じりに小馬鹿にしたような口調でそう言う。
フロースはそんな辰馬の言葉を聞いても終始笑顔だった。
「殺す?……そんなわけないだろ?」
少女のかわいらしい声が急にどすの聞いたものへと変わる。
そんなフロースを辰馬は急に真面目な顔になって、静かに見つめた。
フロースはうつむいて頭を抱えだす。
その表情は笑っているものの――歪んで、狂気に満ちた笑顔だった。
「楽になんて殺さないよ!死んだ方がマシってくらいに、僕の可愛い蛇たちでおじさんをじわじわとミチミチって引きちぎってミンチにしてあげる!だからさ……」
ぶつぶつと独り言のように俯いて呟いていたフロースはふっと顔をあげた。
その顔は随分と爽やかな笑顔だった。
「だからさっさと落ちてこい、背信者」
フロースがスッと腕を振ればまた辰馬を狙って蛇が襲ってくる。
今度は両側から辰馬を挟身打ちにする形で、先ほどとは比較にならないほどの殺気がフロースと蛇から放たれていた。
辰馬はそんな彼女を静かに見つめていた。誰かに重ねているような目で。
「ただ死ぬだけじゃ許せない……か」
辰馬がそうぽつりとつぶやいているうちにバシャーンと蛇が男に襲い掛かった。
そして辰馬をぱくりとその腹に収めて、蛇はそのまま水面に落ちていった。
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