第1話 なぜ僕?

「おーい、直哉〜。部活行くぞ〜」

2年4組の田中宗太郎が僕を呼んだ。

「今行くからちょい待ち」

僕、2年3組の藤川直哉は返事をして所属しているバドミントン部へ向かい、部室につくと、既に佐藤寛先輩は既に練習の準備をしていた。

「今日は新入生が来るからなー!お前ら先輩らしいところ見せろよ!」

先輩らしいも何も…僕はまったく尊敬されないと思うけどなあ…中学生でも多分されてなかったし…生意気なやついないといいけどなあ…

そんなことを思っていると、この部活のエース進藤清春が部室へやってきた。まぁ…エースと言っても市立なので全体で見れば強くはないのだが…

「よお、直哉に宗太郎。今日新入生来るらしいけど心の準備出来てるのか?」

進藤は悪いやつではないのだが、時折煽るような口調で言ってくるのでムッとすることがある。

「そう言うお前はどうなんだよ?」

宗太郎は言い返したが、

「おれは昔から後輩に尊敬される存在だし?実績もあるし?心配はしてないかな」

「あーそうですか、流石部内でトップの人間は違いますわ」

僕は少し皮肉めいたように答えたが、進藤は全く気にせず、部活の準備をし始めた。

ちなみに僕のバドミントンの成績はと言うと、中学生の頃は地元で最強で、市の大会に進むと完敗。現在では予選の大会で2,3回戦まで進むくらいの実力だ。(一応追記しておくと、トーナメントも二つに分かれており、強い人たちがいるAクラス、普通の人たちが集まるBクラスと分かれていて僕はBの方だ。一応ね)

 僕は愛用しているオークセイバー10を取り出した。このラケットはヘッドが重く、自分は扱いにくかったが色合いがカッコよくて気に入っていた。そうこうしているうちに、他の部員たちが入ってきて、ついに新入生たちも部室に入ってきた。男子が8名と女子のマネージャーが2人だ。10人は元気よく僕たちに挨拶をした。

「今日からよろしくお願いします!」

「よろしく!とりあえずみんな1人ずつ自己紹介して、それからこっちも1人ずつ自己紹介していくから。えーとまずは君から!」

佐藤先輩は仕切り(実は部長だ)、1年生たちに自己紹介をさせた。

「…よろしくお願いします!」

男子の最後の1人の自己紹介が終わり、マネージャー2人の自己紹介へ移って行った。

「柊美月です!趣味は映画を見ることで、ここに入りたいと思った理由はそこにいる藤川直哉さんの試合をしている姿を見て入りたいと思ったからです!」

…んぇ?いまこの娘なんて言いました?僕?

…そしてみんなの視線が僕に集まる。僕はキョトンとした顔をして、次の瞬間みんながヒュ〜やらなんやら冷やかしてきたので僕は慌てて

「えぇ、なんでなんで?僕?君とどっかで会ったことあったっけ?」

美月はニコニコするだけで何も答えてくれない。

「お前さあ、なんでこんな可愛い子と知り合いなのに隠してたわけ?てか彼女?」

宗太郎がなんかほざいてたような気がするが、流石に僕もそんなことは構っていられなかったのでとりあえずみんなに釈明した。

「いやいや!僕と美月さんはなんでもないよ!本当に!今日初めて会ったの!」

「そんなこと言ってお前、美月さんて…既に下の名前で呼んでるの関係進んでないとありえないだろ」

進藤がちょしてきた。

基本女子は関係なく下の名前で呼ぶ癖が悪い方向に行っちまったか…

「とにかく僕は彼女も出来たことないし、仲のいい女の子なんて全然いないの!わかったか!」

「え、先輩。それってチャンス?」

美月がふざけたのか余計なことを言った。まじで誰なんだこの娘…

「斎藤なおです。趣味は読書で、中学生の頃はバドミントン部に入っていたのでマネージャーをやりたいと思いました。」

胸が大きく少しふっくらとした可愛い顔立ちの美月とは違い、不細工ではないが美人とも言えない斎藤なおと名乗る娘が淡々と自己紹介をして、僕たちの自己紹介へと移って行った。その後部活が終わり、帰り支度をしていると美月がやってきて僕にこう言った。

「直哉先輩。色々話したいことがあるので今日私と帰りません?」

あー死にたい。もう周りの好奇の視線が痛い。痛すぎる。

「直哉、おれはいいから2人で帰れよ。彼女家に送ってやれ」

気を遣ったのか、面白がったのかはわからないが宗太郎はそう言ってきた。

「え、えっと道は一緒なの?」

「はい!一緒ですよ。バスですよね?」

「まあ、そうなんだけど…なんで僕のこと知ってるの?」

「まあまあ、そのことは帰りに話しましょ」

「わかった、ちょっと待ってて」

なーんか変な視線と周りのニヤニヤが僕に押し寄せてきたが、無視をして美月と並んで歩いてバスへ入った。

「で、なんで僕のこと知ってて僕がいるから部活に入ったわけ?」

「先輩は覚えてないんですか?中学生の時、1人の女の子を不良みたいな人たちから救ったこと」

「え、いや覚えてるよ。なんか高校生くらいのやつが3人くらい1人の女の子をいじめてたから、流石に我慢できなくなって声かけたんだよな。逃げろ!って言って逃して、その後そいつらにボコボコにされたんだけど。」

「それを覚えてるのに、私のこと覚えてないんですか?」

「え、えと。もしかして、ていうかそうなんだろうけど…その時の女の子って…君?」

「そうですよ!私の恩人なんですよ。直哉先輩は!」

「そ、そうだったんだ…なんか全然覚えてないけど…」

「え、あの…その」

急に美月が顔を赤らめ、もじもじし始めた。

「あの、どうしたの?」

「私、あの時助けてもらった恩返しがしたくて先輩の後を追って、先輩の行動をずっと見ていて先輩のことがその…好きになっていたんです」

「え、えっと」

「恩返しも兼ねて…その、私をあげます…

私と付き合ってくれませんか?」

「…え?」

「ぼ、僕と?いいの?僕なんかと」

「はい!というか先輩じゃなきゃ嫌なんです!先輩だけが好きなんです!」

「えーと…その、いいよ?

でも、僕恋とかって正直どんなのか全然わからなくて、君のことも全然知らないし、恋が成立しないかもしれない。それでもいいの?」

「いいえ!私のこと好きにさせます!それでないと助けてもらった恩返しができませんから!」


…なんか知らんが人生初の彼女ができた。

いやいや、こんな風にできるものなの?おかしくない?

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恋を知らず、愛を知れるか。 @Rain_Poke

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