第3話 遺された選択

「理人くん、あなたの母親であるあんは、交通事故で瀕死状態だった君を救うために、自らの臓器を提供したの。妹はその時、すでに脳死状態だったから… そして、その重大な決断を下したのは、あなたの父親のヘンリーよ。」


りんは声を震わせながら続けた。


「ヘンリーは、杏の命を理人くんのために捧げるという苦渋の決断をしたの。彼は妹と君への愛情を、その選択で示したんだ。」


凛の目には涙が浮かんでいた。


「ヘンリーの行動は、彼自身の深い苦悩と葛藤から生まれたものだったわ。妹の死と君の生命を守るために、彼は自分自身の心を犠牲にしたのよ…」


凛は理人にそっと手を差し伸べ、理人の苦悩を共感しながらも、彼女は理人に父親の過去について知りうる真実を伝える決心を固めた。


「理人くんのお父さんのヘンリーは、生物学と遺伝工学の権威ある科学者として名を馳せていたの。彼はその高度な知識を利用して、クローン技術を違法に応用しようとしていた。そして、遺体から抽出したDNAを使って、クローン個体を作り出すことに執着していたわ、その目的は、死者の記憶や人格を復元することだったの。これは科学的にも倫理的にも許されない行為よ。」


凛は一瞬言葉を失い、深い悲しみが顔に浮かんだが、再び理人を見つめ、優しい声で続けた。


「…それでも、ヘンリーは突然亡くなった杏の死を受け入れられなくて、墓荒らしの道に足を踏み入れてしまったのよ。彼は安楽死を希望して亡くなった人々の墓を荒らし、遺体を持ち去って、違法なクローン実験という禁断の研究を追求してしまったの。」


そして、凛の目からは慈愛に満ちた涙がこぼれた。


「彼の研究は、暗い裏社会での資金提供を受け、非合法の実験が行われていたわ。彼の行動はやがて法の手にかかり、彼の犯した罪は明るみに出てしまって、結果として、彼は最凶死刑囚として裁かれたのよ・・・」


凛は優しく理人の手を握ると、涙ながらに力強く励ました。


「理人、あなたは、母の愛と父の過ちの間で生きているの。だからこそ、自分自身を大切にして……、だって、あなたの身体は、あなたのものだけじゃない。母さんの命を引き継いでいるんだから。先の戦いで受けた怪我は、あなたにとって大きな試練だった。でも、あなたは生き延びた。だから、この先の人生を大切にしてほしいの。」


理人は凛の言葉を静かに聞き、彼女の手の温もりを感じながら、自分の運命を深く考えていた。


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