第1話 幸福の行方

 夏の午後、太陽は穏やかに輝き、公園の芝生は柔らかな緑色をしていた。空は澄み切った青さを映し出し、まるで別世界の入り口に導かれたかのように子供たちの無邪気な笑い声が響いていた。幼き小さな理人リヒトは、母親のアンと共に、この楽園のような場所で幸せな時間を過ごしていた。


「理人、見て、蝶々だよ!」


 アンの声が軽やかに響く。公園の花畑で、彼女の指さす先には美しい蝶々が舞っていた。その翼は透明なオレンジ色で、太陽の光を受けてキラキラと輝いていた。一つ一つの蝶は繊細な模様を持ち、風に揺れながら花々から花へと飛び回っていた。


 彼女の手が理人の小さな手を優しく握っていた。その手の温もりは、理人にとっては世界で一番心地よいもので、彼の幼い顔には、母親の優しい眼差しに応える無邪気な笑顔が広がっていた。


 二人は追いかけっこをしたり、色とりどりの花を摘んだりしながら、公園の美しい自然を満喫していた。母子おやこの絆が、周囲の景色と溶け合い、周囲のすべてが彼らの幸せを祝福しているかのようだった。


 突然、アンは理人を膝に座らせ、彼に孤独を感じたときのための特別な『呪文』を教えた。


「理人、いつも忘れないで。“蝶々が舞い降りる、幸せなるかな”ってね。」

と彼女は微笑みながら言うと、その言葉から愛と温かさが満ちてきて、理人はその響きを心に刻んだ。


 しかし、その穏やかで幸せな時間は突然、運命の糸が切れるように終わりを迎えた。家路を急ぐ二人が、手をつないで横断歩道を渡っているその瞬間、急に現れた車が彼らに迫ってきた。アンの叫び声が、静かな公園の空気を突き刺す。


「理人、気をつけて!」


 その言葉が理人の耳に届いた瞬間、彼の世界は凍りついた。車の轟音、タイヤの悲鳴のような鳴き声、そして最も心を打つのは、母親が彼を守るために身を挺したその瞬間だった。衝撃と痛みが理人の全身を包み込む。


「ママ…」


 理人の声は震え、小さなか細いものでした。彼の目の前は霧に包まれ、意識は徐々に暗闇へと沈んでいく。その最後の瞬間、彼の耳には母親の愛情深い声と、周囲の人々の心配そうな声が遠くで響いていた。


 この瞬間から、理人の人生は変わってしまった。母との幸せな思い出は、突然の悲劇によって断ち切られ、彼の心には深い傷が刻まれた。その傷は、これからの彼の人生に大きな影を落とすことになる。母との最後の瞬間、その愛情と犠牲が、理人の心に永遠に残ることになった。

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