【26日目 故郷】

ドナトス修道士と生首のコスドラスと灰色鳥を乗せた馬車は、門をくぐり白い石が敷き詰められた広場を更に走り「白の大宮殿」に近づいていきます。


美しい広場なのに無人状態なのがドナトス修道士には意外でした。

コスドラスは、馬車の窓から大宮殿の隣に建つ、夕日に照らされた高い尖塔を持つ美しい建物をじっと見つめています。

「ドナトス、あれが大聖堂か?」

「そうです。見事ですね」

「昔、祖母が一目でいいから教皇の国の大聖堂を見たいと言ってたな」

コスドラスがぽつりと呟きました。

「お祖母様が?」

「信心深い祖母でな、教皇の国に行きたがっていた。結局領地から一歩も出ないまま死んだが」

「では、孫のあなたが大聖堂で祈りを捧げればお祖母様も喜びますよ」

「…そうだな」

そんな話をしていたドナトス修道士は、後ろを走っていた教皇ホノリウス5世の乗る馬車がいつの間にか見えなくなっているのに気が付きました。違う道筋で「白の大宮殿」に入ったのだろうか、とドナトス修道士は考えました。


馬車はまた大きな門をくぐり抜け、そしてついに「白の大宮殿」に到着しました。


見上げるような正面階段の前を通り過ぎ、どうやら建物の横手に回るようです。さすがにここまで来ると人の姿や、燃え盛る篝火の横に立つ槍を構えた警備人らしき姿が見えるので、ドナトス修道士は膝上のコスドラスをすぐに布で包んで隠せるようにしておきました。


やがて馬車は速度を落とし、大きな扉の前で止まりました。

すぐに馬車の扉が外から開けられます。

コスドラスを抱え灰色鳥と一緒に慎重に馬車から降りると、まだ若いですが落ち着いた感じの聖職者が立っていました。

「ようこそ白の大宮殿へ。ドナトス修道士ですね?」

「あ、はい、そうです」

「私は教皇の従者でマリヌスと申します。これからの事は全て教皇より直接指示を受けていますのでご安心ください。まず客室へご案内します。手荷物だけお持ちください。馬車内の荷物はそのままで。あとで担当の者が運びます」

「あの、この鳥を宮殿内に連れて入ってもよろしいでしょうか?」

「はい大丈夫です。目は離さないようにだけお願いします」

「わかりました」

灰色鳥を見下ろした従者は、ドナトス修道士が腕に抱えている布包みにもちらりと目をやりましたが特に表情は変わりませんでした。


ホノリウス5世は彼にどこまで話しているのだろうと思いつつ、従者のあとについて宮殿内に足を踏み入れたドナトス修道士は、白い石をふんだんに利用して建てられた建物内の豪華さと広さに驚きました。今まで領主や金持ちの貴族の館などに入った事はありますが、この大宮殿の素晴らしさは全く比較になりません。ひたすら感嘆して周囲を見回しているドナトス修道士は、腕に抱えたコスドラスの小声での独り言に気が付きませんでした。

「なんだこりゃ…全くあの野郎は妙な事ばかりしでかすな」


灯りに照らされた彫刻や絵画が飾られた天井の高い廊下を進み、階段を上がり、渡り廊下のような場所を通り、また階段を上ると、今までより薄暗い感じの廊下が現れました。

少し歩いて、やがて扉の前で立ち止まった従者はドナトス修道士の方を振り向くと説明します。

「この階は教皇の完全に私的な居住区域です。ここは特別に許された者と大切な客人のみが立ち入る事が出来ます。しかし目立たないように警備の者が夜昼となく常に見張っておりますので、客室から出る際は注意してください。無用な諍いを起こしかねません」

「わかりました」

つまり客人扱いはするが部屋からは出るなと言う事だな、とドナトス修道士が観念する間に従者は鍵を廻し扉を開けて、室内に案内しました。

立派な寝台のある寝室に洗面所、幾つも椅子が置かれ小さな暖炉のある気持ちの良さそうな居間、狭くても美しく花の飾られた食堂まであります。従者のマリヌスは呼び出し用の鈴を鳴らせる紐の在りかと使い方を教えると、「後で夕食をお持ちします」と告げて部屋から出て行きました。


ドナトス修道士は寝室に入り、コスドラスを布から出して柔らかい寝台の上に置いてやってから、洗面所を使い、顔と足を洗ってようやく息をつきました。

こういう快適な部屋なら、軟禁状態にも耐えられそうです。本音を言えば、コスドラスと引き離されて一人で独房にでも放り込まれたらどうしよう?と心配をしていましたから。


灰色鳥は窓際に座り込んで、暗くなってきた外を眺めています。

コスドラスの様子を見ようと寝台に近づいたドナトス修道士はぎくりとしました。

コスドラスの顔の額から左目のあたりにかけて赤っぽい色の陥没した線のようなものが出来ているのです…急いで鞄から「特に肌の乾燥が酷い場所に塗りなさい」とフィアクル修道士から渡されていた薬を取り出してコスドラスの顔に無言で塗り込みます。

「きつい匂いだな。どうした、顔に何か出来ているのか?」

「…ええ、ちょっと乾燥がひどくなっています。馬車の旅で日光を浴び過ぎたんでしょうね。すみません、私がもう少し注意しておくべきでした」

つとめて明るく言いながら、ドナトス修道士は嫌な予感が胸の内で暗く重く広がっていくのを止められませんでした。


コスドラスに残された時間は少ない…。


気を紛らわせようとドナトス修道士はコスドラスに話しかけました。

「まったく、馬車の中ではホノリウス5世を挑発しまくるので肝を冷やしましたよ」

「怒って俺の事を見限ってくれないかと思ったが、無理だったな。さすが偉そうにしていているだけあって、短気だがしぶといな」

「そういえば、猫、猫と言ってましたがどういう意味だったんですか?」

「あれ?お前には話してなかったか。うっかりしてたな」

コスドラスから、田舎の小さな教会に居た時に白い猫に乗り移ったホノリウス5世が出現した話を聞いてドナトス修道士はびっくりしました。

「まさか教皇の地位にある方が魔術を使う!?信じられません…」

「フィアクルは知っていたのか全然驚いていなかったぞ。多分聖職者になる前から色々怪しいことをやってたんじゃないのか。元は大金持ちの貴族なら覚える金も機会もあっただろう」

「そういえば…」

ドナトス修道士は、以前聞いた『ホノリウス5世は少年時代に悪魔とも会話できるようになった為、息子を恐れた父親が修道院にいれた』という噂話を教えましたが、その話を聞いてコスドラスは考え込みました。

「父親がねえ…」


その時、客室の扉を叩く音が大きく響きました。

食事を持ってきたのだろうか?とドナトス修道士が寝室から出て、少し用心しつつ扉を開くと従者のマリヌスが立っていました。

「ドナトス修道士、教皇がお呼びです。今から私室にご案内します」

「私をですか?ああ、はいわかりました、少し待ってください」

返事を聞かずにドナトス修道士は、急いで寝室に戻るとコスドラスを手早く布にくるみ寝台の上で目立たないようにしました。

「教皇の呼び出しです。とにかく行ってきます」

小声で説明するドナトス修道士にコスドラスは強く言いました。

「ドナトス、俺のために無茶はするな。いいな」

「…心配しなくても大丈夫ですよ」

ドナトス修道士は笑顔を見せてから寝室を出て行き、すぐに扉の閉まる音がして静かになりました。


一人になったコスドラスは目を閉じました。

さっきドナトス修道士が薬を塗ったあたりから妙な感覚が広がり、それは徐々に強くなっています。

もうすぐ自分は灰になって完全に消える…あと数日か…?

ドナトスの手当のおかげでまだ保たれてはいますが、もう時間の問題でしょう。

覚悟はずっと昔から出来ていましたし、ドナトスがどれだけ悲しんでも灰になるのが生首になった自分の運命だと思っていました。

しかし状況は大きく変わってしまいました。

影を纏ったホノリウス5世。

あの教皇は目的のためなら何でもやるでしょう…例えドナトスを危険な目にあわせてでも。

それだけは絶対に許さない。

コスドラスは目を開きました。


自分にしか出来ない事がある。

けれど自分が最も恐れている事は…ドナトスの言葉……どうかあなたの勇気を見つけてください…。

最後の勇気。

いつの間にか、灰色鳥が横に来て心配そうに顔を覗き込んでいます。

コスドラスは微笑みました。

「そうだな、お前も俺の事を覚えていてくれるから大丈夫だな」


ゆっくりと息を吐いてから、コスドラスは決意しました。


従者に先導されて教皇の私室の扉前に立ったドナトス修道士は、緊張しつつ深呼吸をしました。

思い返せば、馬車の車内では思わずホノリウス5世を怒鳴りつけてしまったのです。見逃すとは言われましたが、改めて叱責するつもりなのかもしれません。その時は真摯に謝罪して、ともかくコスドラスの治療を最優先にしてもらわなければ。

従者は無言で扉を開け、ドナトス修道士を中に入れました。

暗い短い廊下があり、突き当りに暖かな明かりが見えます。

「教皇は奥の部屋にいらっしゃいます。そのまま進んでください」

それだけ言うと、従者は軽く頭を下げて出て行きました。

ドナトス修道士はそっと歩いていき部屋の入り口に立ちました。


部屋の中央にホノリウス5世が大きな椅子に座って、何か食べながら膝上に広げた書類らしき物を読んでいました。

ゆったりとした部屋着姿で、側の小卓の上には茶碗や軽食らしき物が乗っています。

薬草のような香りがするな。とドナトス修道士が思った時、ホノリウス5世が顔を上げて声をかけました。

「こちらへ、ドナトス修道士」

ドナトス修道士は用心しつつ近づきました。広々とした室内は暖炉の火で気持ちよく暖まっていますが、驚くほど家具の類が少なく、大きな本棚や隅の机の上に積まれた紙の束が目立ちます。

ホノリウス5世が指し示した椅子にドナトス修道士が座ると、ホノリウス5世は書類を小卓の上に置き小さなパンを口にしました。

「食べながらで失礼する。これからすぐに緊急の会議なので食事をする時間が無くてな」

ドナトス修道士は驚きました。

「先ほど戻ったばかりですのに?」

「なに、良くある事だ」

ホノリウス5世は茶碗を手にして一口飲みました。

「道中では乱暴な態度で驚かせてすまなかった」

「いえ、私の方こそ無礼な事を言ってしまい申し訳ありませんでした」

ドナトス修道士は慌てて頭を下げて謝罪しつつ、心の奥底で少し警戒しました。


「時間は取らせない。君を呼び出したのは、コスドラスのいない所で話し合いたかったからだ。あらためて尋ねるが、やはりコスドラスを『教皇総会議』に出席させる事には反対か?」

ドナトス修道士は両手を握り締めました。

「…はい、反対です。決して教皇の意思に逆らうつもりはありません。ですがコスドラスの病状は徐々にですが悪化しています。彼を何か月か治療した後でも総会議のような場に出席させるのは無理です」

「なるほど」

「出席すれば、生首という珍しい存在です。聖職者や医療者の厳しい査問が何日も続くでしょうし天使の奇蹟が起きれば騒ぎになるでしょう。たとえコスドラスの出席が一時的なものであっても彼に耐えられるとは思えません。私が彼の代理の証人として出席し証言します。ですからどうか、天使の件は諦めてコスドラスを治療と療養に専念させてやってください」

じっと話を聞いていたホノリウス5世は小さく頷きました。

「君の主張はもっともだ。私もコスドラスは今後も奇蹟の存在の証明として、設備も整ったこの大宮殿で大事にしてやりたい。が、特別な総会議で彼の姿を見せず奇蹟も起きないのはやはり弱い。そこで君に頼みだが、コスドラスが総会議に出席する気になり加えて天使を呼んでくれるように説得をして欲しい。彼が出席してくれるなら、負担をかけないよう最大限考慮しよう」

「説得というのは…確かに私の証言だけでは納得させる力に欠けるかもしれませんが、しかし教皇の証言を疑う者はいないでしょう。実際に生首を保護していて天使の奇蹟は調査中であると…」

「今までならその方法で私も妥協できたかもしれない。が、今はもっと厳しい状況になってしまった」

「え?厳しいとは?」

「対立教皇を立てる動きがある」

ホノリウス5世は無表情にそう言うと焼き菓子を一口齧りました。


「偽の教皇に名乗りを上げているのは、私が教皇に選ばれた最後の選挙の決戦投票で敗れた人間だ。

大変な接戦だったせいか、未練がましく私の教皇就任直後に自分が本当の教皇だと主張する騒ぎを起こしてな。国外に追放されて別の国の大聖堂にもぐり込んだが、そこで私に敵対している国王や諸侯を巻き込んで教皇擁立計画を成功させた。全く執念深い男だよ。

私が教皇になる以前にも対立する一派が対立教皇を立てようとした事は何度かあったが、内輪揉めのようなもので全て教皇の権威と威光で収まった。

だが今回は事態が予想以上に動いている。国王が許可を出し、領地と資金を愚か者に与えて教皇宮殿と玉座を準備しているとの報告が入った」

ホノリウス5世は小卓の上の書類を指差しました。


「宮殿はともかく玉座を?しかし神が据えた玉座は一つだけではないですか」

「もちろんだ。正統な教皇の座はこの国の大聖堂にのみ存在する。だが意のままになる教皇が欲しい国王が十分な金を出せば、見た目は格式のある宮殿と玉座は準備できるだろうし、派手な就任式も可能だ。就任すれば、私の敵対者や目先の甘い話に飛びつく連中が、神の威光と権威は皆無でも、俗世の権力と財力を背後に持つ偽教皇に大量に追従するだろう。結果この世に教皇が並び立つ事になる」


ドナトス修道士は困惑しました。

「教皇が2人とは…私には想像も出来ません」

「前代未聞だ。偽教皇といえども就任式をされてしまうと、非常に困った事になる。まず確実に教皇の指輪は自分達の物だと堂々と訴えてくるだろう」

ホノリウス5世は黄金の指輪を見せました。初代教皇からずっと引き継がれてきたという伝説のある、教皇だけがはめる事の出来る特別な指輪です。

「そこまでになると、俗世も巻き込んで混乱は必至だ。だからこそ早急にあちら側の人間達を神の奇蹟と権威で徹底的に叩き潰す必要がある。それには君とコスドラスの協力が必要だ」

「つまり、『教皇総会議』に生首のコスドラスの姿を見せ、天使の姿を見せる事で、神の奇蹟は正統な教皇であるホノリウス5世の元でのみ起こると知らしめるという訳ですか」

「そうだ」

ドナトス修道士は思わず呻き声を上げそうになりましたが、何とかこらえて返事をしました。

「…事情はわかりました。コスドラスも口は悪いですが愚かではありません。状況を説明して2人で良く話し合って考えます」

「頼むぞ。当分の間、コスドラスの治療を最優先とする事は約束しよう。何日かすればフィアクルも到着するしな」

「感謝します。よろしくお願いします」

「とりあえず今夜は部屋でゆっくり休んでくれ」

この言葉で話し合いは終わり、ホノリウス5世に丁重に挨拶をして部屋から辞去しました。

再び従者の後について廊下を歩きながら、ドナトス修道士はこっそり溜息をつきました。本当にホノリウス5世は喋るのが上手い…。


一人になったホノリウス5世は久しぶりの蜂蜜の甘さを味わいながら呟きました。

「さて、生首は納得するかな?」


元の客室に戻り、急いでコスドラスの様子を見に既に暗くなった寝室に行くと丸くなった灰色鳥と一緒に静かに眠っているので安堵しました。

その後すぐに従者のマリヌスの指示で食堂に夕飯が運び込まれまれてきました。教皇の歓待なのか、ご馳走と言っていい色々な料理が食卓に並べられます。灰色鳥の好物の生魚だけは準備できなかったと言われたので、今夜はパンを与える事にして深い容器に水を入れたものを持ってきてもらいました。


その後(給仕の申し出は断りましたが、マリヌスはあっさり引き下がりました)、皆が出ていってからコスドラスに声をかけ、灰色鳥と一緒に食堂に連れて行き夕飯にしました。

コスドラスは豪華な容器に入ったぶどう酒を飲ませてもらって満面の笑顔になりました。

「これは最高に美味いぞ。さすが金持ちの教皇だ、上等な品を出してくれたな」

そして彼としては本当に久しぶりに、ドナトス修道士が食べている焼いた羊肉の料理やソースをかけた魚料理も一口ずつですが食べたがりました。

「珍しいですね。でも少しでも食べてくれれば私も嬉しいです」

「強欲教皇の奢りだからな。しっかり食べないと損だ」

「本当に美味しいです。まあ明日からはもしかしたらパンと水だけになるかもしれませんから、今夜はしっかり食べておきましょう」

灰色鳥もドナトス修道士が細かく割ってやった柔らかいパンを大人しく食べています。

ドナトス修道士もぶどう酒を少しずつ飲みながら、コスドラスにホノリウス5世との会話を話して聞かせました。

「ふーん、えらく下出に出てきたな。偽教皇がどうしたとか嘘の話でも無さそうだが、もちろん俺を説得しても無駄だ」

「だろうと思いましたよ。しかしそれならどうしますか?」

「そうだな、俺が説得する手もある」

「ええ?あのホノリウス5世をですか?」

コスドラスはくすくす笑いました。

「まあ面倒な話はここまでにしておこう」

その後、旅の思い出話を色々としながら2人で食事を食べ終わった頃にはすっかり夜になっていました。

今夜は早い目に休もうかと考えていたドナトス修道士に、コスドラスが声をかけました。

「ドナトス。ちょっと話がある」


コスドラスの希望で、居間の暖炉前の長椅子に落ち着きました。灰色鳥もついてきて、ドナトス修道士の足元に座り込みます。

「なんですか、あらたまって」

妙な緊張感を払いたくて隣に置いたコスドラスに軽く話しかけたドナトス修道士の顔は、真面目な表情で見返されました。

「今まで尋ねた事は無かったが、生まれ故郷のご両親は息災か?」

ドナトス修道士は少し驚きつつ答えました。

「両親は…いません。私がまだ赤ん坊の頃に家に押し入った強盗達に殺されたそうです。私は物置の奥に隠されていて無事でした。何とか助け出されて親戚の家で育ちましたが、親戚の家ではまあ色々あって…規定の年齢になってからすぐに志願して修道院に入りました」

「そうか。辛い事を聞いてすまなかった」

「大丈夫ですよ。それが私の運命だったんでしょうから」

「お前さんの両親だ、立派な人たちだったんだろう」

「そうですね…そう言ってもらえると嬉しいです」

「命懸けで息子を守ったんだ、立派だよ」

コスドラスはぽつりと呟きました。


「俺は父親や身内たちに首を切られて殺された。その俺がどうして生首として生きているのか不思議に思った事はあるか?」

「え?勿論最初は驚きましたし不思議でたまりませんでしたよ。でも一緒に旅をしているうちに段々と考えなくなりました。神の奇蹟に理由は不要だろうと思いましたし」

「奇蹟というよりは気まぐれだな。俺は首を切られて人間から違う存在になったんだ」

「…違う存在?」

コスドラスはまっすぐにドナトス修道士を見つめました。

「今の俺は、天ではなく地上にいる首だけの天使だよ」


コスドラスはゆっくりと過去を語り始めました。

(つづく)

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