【14日目 月】
深夜。大きな月の輝きが地上を照らしています。
生首のコスドラスは野原にある大きな平岩の上でじっと月を眺めていました。
連れの修道士のドナトスは寝台で眠っています。でもコスドラスは今は一人になって考え事をしたいと思い、泊めてもらった教会の小さな部屋を抜け出してきたのでした。
昨夜、ドナトス修道士はコスドラスに医療に詳しい修道士に診察してもらうように熱心に説得したのでした。これから先の道程の途中にある、診療所と薬草園で有名な王立修道院に立ち寄り、フィアクル修道士という方に診てもらえばいいと。コスドラスは最初は反対しましたが、ドナトス修道士が必ず秘密は守るように誓ってもらうと言うので「ちょっと考えさせてくれ」と仕方なく返事をしたのでした。
しかしコスドラスはドナトス修道士が先日立ち寄った薬草園の責任者に処方してもらったという塗り薬を自分の荒れた肌や唇にせっせと塗り込んだり、食欲が出るという不思議な匂いの薬草茶を飲むように一所懸命に勧めたりするので、強く拒否できない気持ちになっていました。
コスドラスは生首である自分の未来を考えていました。
覚悟は出来ています。しかしドナトス修道士がここまで自分の事を心配して気遣うのは予想外でした。彼が過去に知っている修道士で、彼ほどのお人よしはいなかったのです。
コスドラスの横に、いつの間にか全身が鱗のような金属で覆われた銀色に煌めく小さな人間が岩の上に立っていました。コスドラスは視線を動かさず、その人間に話しかけました。
「湖で出会った人物は何者だ?」
小さな人間は少し考えるように頭を振ってから答えました。
「この地では『教皇』と呼ばれている座にいる者だ」
コスドラスはしかめ面をしました。
「教皇か…あの手袋には見覚えがあったんだがまさか最上位だったとはな」
黙って考え込んでいると、小さな人間はかすかな光を残して姿を消しました。
それでもコスドラスはひたすら月を眺めながら考え続けていました。
(つづく)
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