【4日目 温室】

「俺がまだ首を切られる前…ちょっと色々あって、隠れ家にひそんでいた時期があったんだ」

生首のコスドラスがゆっくりと語り始めました。

ドナトス修道士は『切られる』という言葉に引っ掛かりましたが黙って耳を傾けていました。


「あの日、この場所でさっさと死んで誰にも見つからず腐った死体になれば連中が悔しがるだろうと思ってな。酒を吐きそうになるほど大量に飲んだんだ。そこで意識を無くしたんだな。気が付くと、俺は花園のような場所に座り込んでいた」


コスドラスは小さな透明の小屋のような建物にいました。屋根も壁もかすかに虹色に輝く透明の板で出来ていて屋外が見えます。


外は闇夜で見えない空から静かに雪が降っていました。

周囲は不思議な光に満ちていて、色とりどりのたくさんの花々が満開に咲き誇っています。

汗ばむほどに暖かなのに、透明の壁の向こうはまるで真冬です。

コスドラスは、こんな明るいところが地獄かな…とぼんやりと考えながら手近の深紅の花を一輪手折りました。

その時、澄んだ鈴の音が聞こえてきました。


シャン…シャン…シャン…


驚いて顔を上げると、いつの間にか幾重にも銀の鈴をつけた漆黒の立派な馬が立っていました。

そして馬上には銀色の外套を着て銀色の髪を長く垂らした美しい女性が手綱を握っていて、コスドラスを氷のように冷たい青い瞳で真っ直ぐに見据えています。

彼女は良くとおる威厳のある声で話しかけました。


「お前のいるべき場所はそこか?」

(つづく)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る