【3日目 だんまり】

ドナトス修道士がざぶりと派手な水しぶきと共に川から生首を持ち上げると、コスドラスが「もっと丁寧にしろ!」と目をぱちぱちさせながら文句を言いました。

「水浴びをさせろとうるさく要求したのはあなたですよ」

「坊主なら他人の体は丁重に扱え」

ドナトス修道士は周囲を気にしつつ、手早く布で生首の髪や顔を拭いてやります。


朝、修道院を出発してからコスドラスがしつこく「長い間洗顔してないから気持ちが悪い。髪もごわごわする。水浴びさせろ」と聖遺物箱の中で騒ぐので、仕方なく人気の無い川のほとりで生首を洗ってやる事にしました。確かに少々というかかなり臭いましたからね。


拭きついでによくよく観察すると、首の切断面は固い皮膚のようで骨などは見えませんし触っても大丈夫なようです。でも唇は荒れていますし肌も潤いがありません。やはり胴体が無いので水気が足りなくなるようです。

まあそもそも生首だけで呼吸して生きているのが不思議なのですが。

でも神の奇蹟と呼ぶのも何か違うような気がします。

髪は伸びるのかな、と考えているとコスドラスがじっと川面の向こうを見つめているのに気づきました。

そうでした、彼は長い間狭い聖遺物箱に閉じ込められていたのです。


「どれぐらいの年月を聖遺物箱の中にいたのですか?」

「…さあな。あー乱暴だったがさっぱりしたぜ。今度は香りのいいお湯にのんびりつかりたいもんだ」

ドナトス修道士が色々質問してもコスドラスはのらりくらりとしてきちんと答えません。

「なぜ首を切られたのですか?胴体はどこかに葬られているのですか?」

コスドラスはじろりと見上げるとそっぽを向きました。

「たとえ罪を犯してその結果斬首されたのであっても私は気にしません。あなたの今後もきちんと考えないといけませんし、過去の事情を話してもらえませんか」

しかし生首はだんまりです。

ドナトス修道士が溜息をついて仕方なく出発の準備のために立ち上がろうとすると、突然コスドラスが話し出しました。


「首を切られる前に奇妙な夢を見たんだ」

(つづく)

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