第20話 フォロワーさんのおかげです
なんてなんて。
でも、師範さんが一番最初に私をフォロバしてくれたから、他のみんなが私のフォロワーになってくれたと言ってもいい。本当に。
毎日のようにラーメンレポを上げている凄い人。それなのに私が質問をすればすぐ、丁寧に色々なことを教えてくれる。どこかの誰かに見習ってほしい。どこかの誰かに。
そんな師範さんがラーメンレポをすればイイねが千に近づくことだってある。
もうほぼラーメンインフルエンサーだ。
実は今日の中華そば佐々樹で食べた限定麺――アサリの塩そばも、ピオッターで師範さんのレポを見てどうしても食べたくなったから選んだんだ。
なんだかラー垢界の有名人が食べたメニューを自分も味わうことができてちょっと興奮した。なんて、私が勝手に雲の上の存在だと思っているだけだ。
泉くんが限定の裏メニューを頼んでその興奮に水を差したりしなければ、色々あったけれども気持ちよく眠れるはずだったのに。
先に並んでいた泉くんと勝手に同席したのは私だし、彼は彼で食べたいものを食べただけだから悪いことは何もないのだけれども。
――美味しそうだったな、あのラーメンも。
名古屋コーチンで取った出汁ってどんな味だろう? 名古屋コーチンがもうお高いお肉だからな。想像もつかない。
明日も佐々樹に食べに行っちゃおうかな? 誰かと約束があるわけでもないし……ちょっと、ちょっとだけ悲しくなってしまった。複雑な女心。
いいんだよ。ラーメンはみんなで楽しくお喋りしながら食べるものじゃないから。そんなことをしていたら折角の美味しい麺がのびてしまう。お店で並んだり、店内でラーメンが出てくるのを待っているときにはお話はしたいけれども。
確かに、すぐその場で美味しいを伝えられる人がいないのは寂しいけれども、私にはピオッターがある。まだまだ少ないけれども、東海地方のラーメン好きアカウントの人たちと繋がっている。同じ好きを共有できる場所が、ある。
あ、私のレポにレスがついた。ロンリー眼鏡さんからだ。
『ナイス、アサリ! 清湯系好きの僕にはたまらないメニューです。佐々樹さんのラーメンは本当に美味しいですよね。裏メニューがあるのもご存じですか?』
こういうのだよ。こういうやり取りが自然にできるのはとっても楽しい。おまけにラーメン食べ歩きもピオッターも、初心者も初心者の新参者の私なのにみんなとてもよくしてくれる。いい人たちばかり。
『実は今日知りました! 連れの人が食べていてとっても美味しそうでしたよ!』と……たまたまお店で会って勝手に一緒に入ったんだけど。嘘、ではない。
『俺もまだ食べれていないので、食べたらレポお願いします!』
最後には笑顔のアイコンがみっつ並んでいた。
ピオッターので活動するラーメンが好きな人たちのこのコミニティでは情報は持ちつ持たれつだ。
私はピオッターを始めたばかりだからまだなかなか輪に入っていけないけれども、ラーメン好きなもの同士でいろいろなやり取りしているのがあちこちで見て取れる。
時には今日の私と泉くんのようにお店でバッタリ、とか。ご挨拶できてよかったです、とか。またどこかですれ違ったときにはよろしくお願いいたします、とか。
私にとってはまだハードルの高い話だ。
ピオッターでコメントをもらっても、その人がどんな人なのかわからない。容姿どころか性別だって。会ったこともなければ、当然性格だって。
もしかしたら、もう会っていたかもしれないし、もっと言えば隣で食べていたかもしれない。
私もいつかフォロワーさんたちとバッタリ、なんてことがあるのだろうか?
それはそれでドキドキする。
人見知りするわけではないけれども。こんな世の中だし、SNSから実際に会って起きた事件も少なくはない。ピオッターで私がフォローした人たちはみんないい人たちばかりだけれども、中にはおかしな人もいるかもしれないし。
どこかに私を守ってくれる騎士がいないかな? 元彼みたいなやつが来たら助けてくれるような……
ボンッと脳裏に浮かんだ顔を、両手を振って必死にかき消す。
違う。あれは違うから。元彼を追い払ってくれたのは警察だし。追い払ったと言うより、ドナドナされていったのだけれども。見た目ド派手な女の人と一緒に、仲睦まじく。
そもそも私はたくさんのお店でラーメンを食べたいだけで、そこに出会いを求めているわけじゃない。ピオッターでフォロワーさん達とお話するのは確かに楽しいけれども、目的は美味しいラーメンだけだ。
うん? ベルのマークに数字が表示される。また誰かがイイねをしてくれたのかな?
ベルのマークをクリックして画面を切り換えると、それはイイねではなく、特定の相手に話しかけるメンションという機能で私に送られてきたメッセージだった。
その送り相手は……
「おばけ会長さんだっ!」
座りながら体を弾ませ姿勢を正す。おばけ会長さんも凄く親切で素敵な人。
イメージは学園を守るイケメン生徒会長って感じ……好きなんだよ、そういうシチュエーションが。
『フラワーさんは月末の土日に開催される春日井の春祭りに行かれますか?』
「いやいや……いやいやいやいや、お祭りなんておひとり様で行くようなところじゃないし……」
ピオッターをやっていると独り言が増える現実がちょっと寂しい。
お祭りに行ったのなんて、かれこれ高校生時代にまで遡りそう。それ以降、記憶にない。
『私は仕事で行けませんが、地元のラーメン屋六店舗が集まって祭りオリジナルのラーメンを提供するラーメン小路がありますよ』
――なんですと?
六店舗のラーメン屋が集まって、さらにその日しか食べられないオリジナルメニューがある?
『私は行くけど、フラワーさんもどうかしら?』
ヤーブス=アーカさんからもレスがついた。フォロワーさん達はみんな行くのかな? 行ってみたいけれども……
『どこのお店が美味しいとかって、ありますか?』
『横から失礼します。美味しいかどうかは好みなのでなんとも言えませんが、私はてんやわん屋が好きです。もちろん私も行きますよ!』
営業中師範さんまで!? しかも、てんやわん屋って!
情報が実にリアルタイムだ。泉くんの頼んだ限定の裏メニューのせいで、今の今まですっかり忘れていた。
泉くんだけじゃなく、営業中師範さんもてんやわん屋が好きなんだ。
一体、どんなラーメン屋なんだろう? そして、どんなラーメンが食べられるんだろう?
行く! 絶対に行く! 決定!
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