第21話 ラー活のすゝめ

 ラーメン小路の下調べついでに、ピオッターで活動しているラー垢さん達をさらにたくさんフォローした。

 ラーメンを食べるようになる前はそういう人達を簡単に「ラオタだラオタ」なんて思っていたけれども、自分が食べるようになった今、その線引きはかなり難しい気がする。

 たとえば私は人からラオタと呼ばれてもまったく気にならない。けれども、そう呼ばれるのを嫌う人もいる。まだラーメン巡り駆け出しの私より何倍も何十倍も、もっと言えば何百倍も、ラーメンを食べてきた人達の中にでも、だ。

 オタクという言葉は人から言われると蔑称と捉える人が少なからずいるし、そのつもりで言っている人がいることも否めない。元彼のことがあって、ラーメンをずっと食べられていない間は、私も確かにそうだった。

 ラオタは自分のことしか考えず、変なところでどうでもいい知識をひけらかし、安っぽいプライドの塊で、周りにどんなに迷惑をかけても自分が絶対に正しいと思っている人種――そう思っていた。

 でも、今は違う。むしろ、それまで私が思っていたような人達は、ラオタの風上にも置けない人達だ。ラーメン好きを名乗ってほしくない。何なら風下に置いてあげたい。

 ピオッターを見ていて、ラーメン好き――ラオタの人達は、ラーメンを食べることに、本当に美味しいものを楽しむことにことさら純粋だ。

 有名店のラーメンを食べるだけのために車で何百キロも移動し、その日限りの特別な一杯のために前日からお店の前に並び、自分の食欲を満たすためにラーメン+トッピングに何千円も支払う。みんな、頭がおかしい人達。それは褒め言葉で、愛すべきオタクども。

 ラーメン以外の食べ物が好きな人達がいたとして、その人達がラオタと同じ行動をしているという話を聞いたことがない。

 食べることが大好きで、食べることに純粋で、食べることに全力投球で。

 ピオッターに生息するラオタの人達のピオは、見ているだけで本当に楽しくて、憧れる。

 他の人から理解できない行動こそが、オタクと称される人々のやっていることなんだ。そこにあるのは軽蔑ではなく憧れ。自分もそうありたいという指標。

 ピオッターって見ていると本当に楽しくて時間を忘れてしまう。それが好きなことならなおさらだ。

 でも……ラーメン初心者にはわからない言葉がいっぱいありすぎて理解するまで本当に困った。

 醤油ラーメン、塩ラーメン、味噌ラーメンは知っている。豚骨ラーメンは土曜日に生まれて初めて食べた。とっても美味しかった。じゃあ、白湯パイタンって、何? 鶏白湯とか、豚白湯とか、鯛白湯とか、その素材を使っていることしかわからない謎メニュー。ラーメン知識が赤ん坊――ド素人でごめんなさい。

 それでもまだ白湯に関しては目にする機会はあった。買わないまでもカップ麺やコンビニのレンチンラーメンで見たことあったから。見てすぐに『さゆ』って読んだのはご愛敬だけれども。それがどんなものかわからないってだけで。でも、清湯に関してはどんなものかわからないどころか読めもしなかった。ゴーグルで調べて初めて知った。これってラーメンをあまり食べない人達にも『ちんたん』って読めてるの?

 一般的な白湯スープは鶏や魚介類、豚骨などを強火で長時間煮込み、白濁させて仕上げたスープで、清湯スープは80℃ほどで白湯スープと同じ具材をゆっくり時間をかけて煮出す透明なスープのこと。

 ラーメン屋を探すときに好みで白湯系とか清湯系とかで区別されることもある。ロンリー眼鏡さんが清湯系好きなように。どちらのメニューも扱っているお店もあるけれども。

 あとは家系とかG系とか。家系とは、吉村家というラーメン屋を源流として○○家という家系図まであるらしい。G系は二郎系というモヤシ主体の野菜てんこ盛りのラーメンの総称らしいけれども意訳としてはガッツリ系のことを言うみたい。この辺はまだ私もよくわかっていない。

 他にも、日本各地の有名ラーメンでジャンル分けすることも。喜多方ラーメンとか、高山ラーメンとか、徳島ラーメンとか。

 これってラーメンを食べる人なら常識なの? ゴーグルで調べたからわかったけれども全然知らなかった。とても覚えられる気がしない。

 メニューで言ったら、ラーメンを食べたあとの残ったスープに麺だけをおかわりする替え玉や、替え玉にチャーシューやネギのような具材をのせて味をつけた和え玉――これはパスタのようにそのままでも食べられるしスープにも入ても美味しい。

 鶏油ちいゆとか五香粉ごこうふん(ウーシャンフェン)なんて、お店で読めなくて恥ずかしい思いをした。

 本当にラーメン屋界隈でしか見ない単語が多すぎだ。

『焼き干しや丸鶏をベースに出汁を取りブレンド醤油の本がえしと合わせた無化調清湯むかちょうちんたんスープに鶏油で香りを足し麺は切刃きりば十二番の全粒粉ぜんりゅうふん平打ち手揉み多加水麺たかすいめん、トッピングは豚肩ロースの吊るし焼豚と有明海産の板海苔、九条ネギ、穂先メンマがのっています』

 なんて、こんなことをサラッと告知されても、ラオタじゃない人達は意味がわかるの? そもそもラオタの人達だって本当にわかってるの? 一度は調べてみたけれども専門的すぎてよくわからなかった。

 私はラーメンを食べるのが好きなだけで、別にラーメン屋になりたいわけではないのだから。

 ラーメン専門用語ですらこの有様。さらにラオタ語録をプラスするとピオッターは完全に混迷の地と化す。を普通の人とするならば、その人達にラオタのピオを理解することは不可能に近い。造語や略語が飛び交う場なのだから。

 麺の表現だけでも様々。シコシコ、ツルシコ、プリモチ、パツパツ、プリパツ、ワシワシ、ボキボキ、バキボキ……もう何のことを言っているのかさっぱりわからない。まるで擬音だ。

 初めて行ったラーメン屋は初訪麺はつほうめん。ラーメンを食べに行くことはラー活。ラーメン友だちはラー友さん、もしくは麺友めんともさん。麺友さんと一緒にラーメン屋へ行くことは連れ麺。○番目に並ぶことは、○番目に接続。開店から最初に店内に入ることはファーストロット。開店前順番待ち先頭――ポールポジションはPP。麺もスープもすべて食べてどんぶりを空にする完食完飲はKK。トッピングはTP。

 ここまでくるともう暗号の羅列だ。ピオッターを始めてやっと最近ここまで理解できた。パッとは思いつかないけれども、まだわかっていないこともありそうだ。

 でも、このラーメン&ラオタ界隈の言葉は、使ってみるとそれはそれで結構楽しかったりする。フォロワーのみんなにはちゃんと通じるし、自分もその世界でみんなの仲間になれたんだなと思えて心なしか嬉しい。

 ただし、普段の会話で使わないようにだけは細心の注意を払わないといけない。これもラーメンあるあるだ。

 麺友さんとラー活している時はいいけれども、たとえば会社で佐伯さんたちに「この間、麺友さんと連れ麺したんだけど、朝早くに出たのにPPじゃなくて五番目に接続して」とか言えない。絶対に言っちゃダメなやつだ。

 私もそんなことにならないように気をつけなきゃ!

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