第16話 口説いてます?


「ま……待ってください。じゃあ、まさかなんですけど……もしかしてこの家もご自分で建てたんですか……!?」

「はい、そうです」

「なんてことだ……信じられない……」


 すると、ヴィルは頭を抱えて、ため息を吐いた。


「はぁ……あなたはなんという……すごい人なんだ……。どこまですごいんだ……。ほんと、どうしてお一人でそこまでできるんですか。なにもそこまでしなくても……。もっとこう、人を頼ってください。大変でしょう……? なにもかも……」

「ま、まあ……ヴィルさんが思っているより大変じゃないですよ?」

「いやいや、さすがに大変ですよ。しかも女性一人で……。まさか森での生活がここまで大変だとは思わなかった……」

 

 私的には、クラフトもあるし、そこまでしんどくはないんだけどな。

 むしろ社畜時代のほうがよほど大変だったまである。


「僕は決めました……! 必ずや、お礼をしにまたここに戻ってきますからね! サクラさんがもっと暮らしやすくなるよう、サクラさんのためになるような……なにかを用意して……!」

「は、はい……ありがとうございます」


 どうやらヴィル的には、私が一人で森の中に住んでいるのは、かなりの衝撃なようだ。

 か弱い女性が一人で森の中に住んでいて、それをなんとかしたい……そういった感じだ。

 でも、私そこまで困ってないんだけどな……。

 いやまあ、ゾンビには困ってるけど……。

 でも、ゾンビのことにヴィルを巻き込むわけにはいかないしね。


 私って、そこまでか弱く見えるのだろうか。

 いやまあ、美人だからってのも、あるかもしれない。

 でも私的には、そういう男性に守ってもらうとかってのは、あまり好きじゃないかもしれない。

 私は別に、誰の助けがなくても、一人で自立して生きられるのだ。


 そして、今がすごく幸せなのだ。

 まあ、お礼をしてくれるっていうんなら、ありがたくもらうけどね!

 ヴィルはいい人だと思うし、その気持ちはうれしい。


 お昼になって、お昼ご飯を食べることにした。

 朝とれた卵を、パンに挟んで、卵サンドを作った。

 うん、美味しい。


「今日は朝からいろいろ動いたからでしょうか……とても美味しいです!」


 ヴィルはそう言ってパンをほおばった。


「ですね。どうですか? 今日一日森の暮らしを体験してみて……。こういうのも悪くないでしょう?」

「そうですね……。なにか、時間がゆっくり過ぎていって……。とても穏やかな気持ちになれました」


 それには私も同感だ。

 ずっと都会の喧騒の中で、せわしなく生きてきたから、今の暮らしは本当に穏やかで、癒される。

 

「僕も、森で暮らしてみたくなりましたよ。こうやって、毎日サクラさんと一緒に暮らせたら、幸せだろうな、と思います」


 ヴィルは急に真顔で、そんなことを言った。

 いきなり言うもんだから、驚いた。

 ヴィルは何気なく、なんにも考えてなさそうに、そんなことを急に言う。

 変に意識しちゃう私がおかしいのか?

 私は照れてしまって、照れ隠し。

 

「……それ、一緒に住もうってことですか? もしかして、また口説いてますか?」

「……は! い、いえ……ちがうんです……! もう、俺は馬鹿だな……。思いついたことを、そのまま言ってしまうんです……。ごめんなさい」

「でも、思いついたってことは、それがヴィルさんの率直な感想なんですよね?」

「え……ええ、まあ……」

「ふふ、だったら、うれしいです。私も、ヴィルさんが一緒なら、楽しいと思います」


 別にヴィルに恋愛感情が芽生えたとか、そういうことじゃない。

 けど、今日一日過ごしてみて、こうして誰かと一緒にいるのも悪くないなと思ったのだ。

 今までずっと一人で生きてきたから。

 人のぬくもりは、めんどうなこともあるけど、でも、嫌じゃない。

 私がそう言うと、こんどはヴィルはいっそう真剣な目つきになって言った。


「……サクラさん。もしよかったら、本当に俺と――

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