第14話 収穫


 ヴィルと朝食を食べて、それから庭に出る。

 さっそく昨日作ったニワトリ小屋に行ってみた。

 朝の仕事をぜひお礼に手伝いたい、とヴィルが言ったのだ。

 ニワトリ小屋を覗くと、そこには1つ、新鮮な卵が置かれていた。


「お……さっそく卵ゲットだ。これでまた食事に彩ができるよ~」


 私はインベントリに卵をしまった。


「すごいですね、そのインベントリ……? でしたっけ。何度見ても信じられないです」


 ヴィルは目を丸くして驚く。


「卵、インベントリに入れておいて腐ったりしないんですか?」

「……たぶん、大丈夫です。魚とかもそのまま入れてましたけど、新鮮なままでした」

「それはますます興味深い……。いったいどういう原理なんでしょう? 収納魔法は王都にもありますが、これほどまでに高性能なのは見たことありませんね。普通は、腐食は抑えられないはずなんですが……」


 たぶん、私のインベントリは、ゲームシステムそのもので、魔法とはまったく性質が異なるのだろう。

 ていうか、王都にも収納魔法はあるんだ。

 でもたしかに、食べ物が腐らないのはすごい便利だし、不思議だよね。


「インベントリには、いくらでも物が入るんですか?」

「いえ、そんなことはないですよ。かなり容量は大きいですけど、限界はあります。そういうときは、こっちの収納ボックスにしまってます。地下に倉庫もあるんですよ?」


 私は庭に置いてある収納ボックスを見せた。

 庭の収納ボックスには、スコップやクワなどの道具を置いてある。


「これは……収納ボックス……? 普通の箱のようにみえますが……」

「これもインベントリと同じように、使えるんです」

「すごいですね……。魔道具ってことですか」

「まあ、そうなりますかね?」


 たしかに収納ボックスも、普通の人から見たらかなり不思議だよね。

 あきらかに箱の大きさ以上の物が入ったりするもんね。

 普通に考えたら、石ブロック×500とか、こんな小さな箱には入りっこない。

 そこはゲームシステムって感じで、なんでもありなのかな。


 ヴィルには毎朝の日課を手伝ってもらうことにしよう。

 まずは野菜の収穫。

 っていっても、ほとんどの野菜はまだ植えたばかりだから……コームギ畑の収穫だ。

 コームギは骨粉を撒かなくても、3、4日あれば育つようだ。

 なので、植える日をずらして何本か植えておいて、毎朝収穫できるようにしている。


「すごい……ご自分で栽培までされているんですね。サクラさんには頭が上がらないな……。まさに自立した生活で、すごいと思います。尊敬します」

「いえいえ、植えるだけで、なにもしてませんよ。それに、まだ始めたばかりですしね」

「でも、すごいです。森の中で生きるって大変だろうと思ったけど、サクラさんはほんとにたくましい……ちょっと憧れてしまいます。自分は体が弱かったもので、あまり外に出してももらえず……。こういうことはからっきしで……」

「えへへ……私も、結構引きこもりがちだったんですよ? 昔は」

「そうなんですか?」

「ま、昔の話ですけどね……」


 実は、会社員になる前――学生時代はかなりこもりがちな人生を送っていた。

 っていっても、別にいじめられてたとか、ほんとの引きこもりだったとかじゃないよ。

 ただちょっと出不精なだけで、学校にはちゃんと行ってた。

 だけど、ご存じの通り私は大のゲーム好きだ。


 だから休みの日とかはずっと家にこもってゲームしてたな。

 そんなだから肌も真っ白で、身体も弱くてよく風邪をひいた。

 運動は苦手だし、嫌いだったな。

 そんな私が今や森の中で自給自足の生活してるなんて、笑っちゃうよね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る