第13話 朝

 

 もちろんその後、なにごともなく夜は過ぎ去った。

 まあ、普通に考えてそうだよね……。

 でもヴィルがいい人でよかった。

 ヴィル、ゆっくり眠れていればいいな。

 私はなんか妙に緊張してしまって、あまり眠れなかったよ……。


「おはようございます」

「あ、おはようございます」


 朝起きて、誰かがいるっていいな。

 ずっと一人暮らしだったから、こういうのは新鮮だ。

 

「昨日はよく眠れましたか……?」


 何気なくそう尋ねると、ヴィルは顔を赤らめて言った。


「実はその……緊張であまり眠れませんでした……。その、女性の家に泊めてもらうのなんて初めてのことで……。すみません、意識しないようにとは思ったんですけど。その、あまりにサクラさんがお綺麗な方なので……」

「そ、そんな綺麗だなんて……って、もしかして口説いてます?」

「あ、いえ……そ、そんなつもりは……すみません。思ったことを口にしてしまって……。サクラさんは命の恩人です。決してそんな軽はずみに口説こうというつもりは……」

「そ、そうですか……」


 こんなイケメンに綺麗とか言われると不思議な気分になるな……。

 まあたしかに、こっちでの私の見た目は、かなりの美少女だけど。

 まあ、綺麗って言われて悪い気はしないよね。

 実は私もあまり眠れなかったっていうのは、内緒。


「と、とりあえず、朝ごはんでも食べましょうか」

「は、はい……」


 私は誤魔化すように、インベントリからパンを出した。

 昨日の野菜スープの残りも一緒に、テーブルに置く。

 すると、その一部始終を見ていたヴィルが、目を丸くして驚いた。


「さ、サクラさん……!? 今サクラさん、どこからパンを出したんですか!?」

「あ…………」


 しまった、普通にインベントリを使っていた。

 こっちの世界の人はインベントリとか使えないから、あまり軽々しく見せびらかさないほうがいいよね……。


「えーっと、実はインベントリといって、私のユニークスキル? みたいなもの、みたいです……」

「すごいですね……。ユニークスキルなんて、王都でも持っているのは一部の人間だけなのに……。いろいろと便利そうなスキルですね。それだけのスキルがあれば、王都で仕事もできそうですけど……、どうしてサクラさんは森の中に……?」

「えーっと、それは……かなり難しい質問ですね……」


 どうして森の中に住んでいると言われても、気づいたら森の中だったんだから仕方ないじゃないか……。

 まあ、そのうち街とかにも行ってみたいなとは思っていたけどね。

 でも、その前に生活基盤を整えるのが先だったし。

 王都かぁ……行ってみたい気もするな。

 

 けど、今のままじゃ、あまり森を離れられないな。

 7日に一度、ゾンビたちが襲ってくるんじゃ、うかつに街に入れない。

 下手したら街をゾンビ襲撃に巻き込んでしまうかもしれないからね。

 しばらくの間は、一人で暮らさなきゃだなぁ……。

 まあ、7日目までに戻ってこられる距離なら、いいんだけどね。


「あ、すみません……。なにか事情がおありですよね。不躾な質問でした……」

「いえ、大丈夫ですよ。そうですね、街にもいずれ、行ってみたいです」

「サクラさんは街に行ったことがないのですか?」

「ええ、ずっと森の中で……」

「そうなんですか。じゃあ、もし街に来たら、僕が案内しますよ。今回のお礼もかねて」

「それはいいですね。ぜひお願いします。約束ですよ?」

「約束です」

 

 二人で談笑しながら、朝ごはんを食べた。

 こうして誰かと笑いながら食べるご飯は、いつもより美味しい。


「このパン、すっごく美味しいです。サクラさんが焼いたんですか?」

「ええ、まあ」

「それにしては……パンを焼く設備などないように見えるのですが……」

「えーっと、内緒なんですけど、実はこれもユニークスキルです」

「そうなんですか。サクラさんのスキルは万能なんですね……!」


 まあ、ヴィルはそんな他人にべらべら喋ったりする人じゃないだろうし、クラフトのことがバレても別にいいだろう。

 あ、でも……貴族とかにバレたら面倒なことになったりするのかなぁ。

 話す人は選ばないといけないな。

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