第9話 はじめての魔法
窓の外を見ると、大量のゾンビが迫ってきていた。
ゾンビたちは森からぞろぞろ現れては、一直線にこの家に向かってきている。
全部で30体くらいはいそうだぞ……。
これ、倒すのにけっこう苦労しそう。
ていうか、絶体絶命!?
何体かのゾンビは落とし穴にはまったり、トラバサミにはまったりで、勝手に死んでいってる。
だけど、あまりにも数が多いから、罠をすり抜けてきている。
完全に家が囲まれちゃってるよ~……。
せっかく建てたばかりの家だってのに、また壊されちゃたまんない。
こんなに大勢お客さんを呼んだ覚えはないんだけどな。
大事なお客さんはノルンちゃんだけで十分だ。
罠をすり抜けて、家の前までやってきたゾンビが、扉を叩き始めた。
このままだと、じきに扉を壊されてしまう。
――ドンドン!
「ひぃい~」
ノルンちゃんは怖がって、私にくっついてくる。
けっこう怖がりなんだな……。
いやまあ、私も怖いけど……。
かわりにノルンちゃんが怖がってくれているから、私はなんとか冷静でいられる。
今は怖がってる場合じゃない。
「よし、全部倒すぞ……!」
「ど、どうやってですか~!?」
「敵は扉に集まってきてる。大丈夫、扉は頑丈だから、まだ壊れないよ。今のうちに、窓からこれで攻撃しよう」
私はクラフトメニューを開いた。
そして、弓と矢をクラフトする。
◆弓
必要素材
・糸×3
・木の棒×3
◆矢
必要素材
・木の棒×1
・小石×1
「よし、これで窓から撃って倒そう」
私は弓を2個つくって、1個はノルンちゃんに手渡した。
ふたりで窓からゾンビを狙って撃つ。
――ビュン!
――ズシャ!
「よし、これならなんとかなりそうだね……」
「よかったのです……」
なんとか二人でゾンビを撃退すると、ほっと一息つく。
ノルンちゃんにはタオルで身体を拭いてもらって、服を着てもらう。
ふぅ……一時はどうなるかと思ったけど……。
二人で弓を使ったら、案外早く倒せた。
でも、今回はなんとかなったけど、もっと多くのゾンビが来たらどうなるかわからないな。
柵とか罠をさらに強化しないとだなぁ……。
「それにしても……なんでこんなことに……」
すると、ノルンちゃんがある仮説をとなえた。
「私、きいたことがあります……。古くから伝わるおとぎ話です。昔、森の中になんでもできる魔女さんがいました。家を作ったり、パンを作ったり、なんでもできる魔女さんです」
ふむふむ。
なんだか怖い話みたいなトーンだ。
怪談は苦手なんだよな……。
でもしっかりきこう。
「魔女さんは不思議な力があるかわりに、ゾンビに狙われていました。なんと七日に一度、ゾンビたちは大群で魔女さんを襲いました。理由はわかりません……。とにかく、魔女さんはそのせいで、一人で森の中に住んでいました」
「それで……その魔女さんはどうなったの?」
「……ゾンビは最初は30体ほどでしたが、七日ごとにその数を増していき……最後には何千体にもなって、最後は魔女さんは食べられてしまいました……」
「えぇ……そんな……」
でも、そういえば、ちょうどこの世界にきて七日目なんだよな……。
まるで、そのおとぎ話とおんなじ状況だ……。
「……それで、もしかしてサクラちゃんは魔女ですか?」
「……違うよ……?」
でも、その魔女さんって、魔法で家を作ったり、パンを作ったりできたんだよね?
それって、まるで私のクラフトみたいだ。
もしかしてその魔女さんも、プレイヤーだったんじゃないかな?
だとしたら、これはプレイヤーにだけ起こるイベントってことかな……?
「七日に一度の襲撃……かぁ……。そういえば、そんなことがゲームのPVでも言ってたような気がするな……」
「げぇむ? そのげぇむってなんですか?」
「あ、いや……ごめん、こっちの話」
だとしたら、かなり厄介な話だ。
今後も七日ごとに襲撃があるんなら、ゆっくりスローライフしていられない。
でも、襲撃があるってわかっていれば、ある程度備えられる。
うん、この次の一週間で、さらに罠を強化しよう。
「ごめんね、ノルンちゃん。怖かったよね」
私は小さなノルンちゃんを抱きしめた。
「もう大丈夫なのです……。サクラちゃんが守ってくれたからです」
「ノルンちゃん……」
無事に危機は去った。
私たちはそれぞれベッドに潜って、ぐっすり眠った。
翌朝、ノルンちゃんは、いろいろ持っているものを見せてくれた。
「これは魔法の本なのです」
「おお……! 魔法……!」
そういえば、この世界って魔法があるんだったっけ。
まあ、ファンタジーゲームなんだし、魔法くらいあるよね。
でも、魔法ってどうやって使えるようになるんだろうか。
今までクラフトに夢中で、魔法のことなんか考えもしなかった。
だけどやっぱエルフだし、ゲーム世界にきたんだから、魔法は使えるようになりたいよね。
「サクラちゃんは魔法に興味おありですか?」
「うん、魔法ってどうやったら覚えられるのかって、ノルンちゃん知らない?」
「魔法は師匠にならうか、大学に行って教わるのです。稀に本だけで独学してしまう天才もいますが、それは天才だけです……。サクラちゃんはエルフなので、魔法が使えるものかと思いましたが?」
「えーっと、私は魔法使えないんだ……。クラフトだけ」
「そうなんですか。でも、クラフトのほうがすごいと思いますけど……魔法が使いたいです?」
「うん、その魔法の本があれば、覚えれるんだよね?」
「一応、魔法習得に必要なことは書かれていると思いますが……。難しいですよ? 独学はほぼ無理なのです」
「そっか……。ノルンちゃんは魔法使えないの?」
「私はただの商人だから、使えないのです。大学にも行ってません」
「そうなんだ……」
大学に行くか、師匠を探すか、かぁ……どっちも時間かかりそうで面倒だな。
できればこの森の中だけで完結したい。
ていうか、すぐに覚えたい。
めんどくさい努力はいやだ。
とりあえず、どんなものか読んでみたいな。
「ねえノルンちゃん、ちょっと魔法の本見せてもらってもいいかな?」
「いいですよ。もし欲しければ、お譲りするのです」
「ありがとう」
私は魔法の本をパラパラとめくった。
すると、その瞬間だ。
【サクラは『ファイアI』を覚えました】
とのメッセージが出た。
「わ……!?」
「どうしたのですか?」
「ノルンちゃん……私、魔法使えるようになったかも……」
「えぇ……!?」
私は試しに、手の中に小さな火を出してみた。
――ボォ!
それができるような気がしたから、やってみたらほんとにできた。
これが『ファイアI』か……。
もっと魔力を込めたら、もっと大きな炎が出せそうだ。
「す、すごいのです! サクラちゃんは天才なのです! ちょっと読んだだけでできるなんて!」
「あはは……なんでだろ……」
もしかして、これもゲーム機能的なアレなのかな?
ゲームの世界だと、いちいち魔法の理論とか覚えたり勉強しないもんね。
魔法の本を読んだだけで、習得って、まるでゲームみたいだ。
もしかしたら、私は魔法の本を読むだけで魔法が習得できる体質なのかも!
「ねえノルンちゃん、他にも魔法の本あるかな?」
「ありますよ。さっきのは『ファイアI』の本でしたが、『アイスI』の本もあります。もっと威力の高い『ファイアⅡ』の本とかはお高いのでもってません……」
ぜひその『アイスI』の本も見せてもらいたいな。
でも、こんなにすぐに魔法を覚えられるんだったら、ちょっと無料で見せてもらうのは忍びないな。
「ねえノルンちゃん、取引しない? 私もなにかあげるから、それでその本見せてもらえないかな?」
「? サクラちゃんにならタダでいいですよ? 一宿一飯の恩もありますし……。ゾンビから守ってもらったのもあります。それになにより、サクラちゃんはお友達ですので」
「いやいや、さすがにそうはいかないよ。魔法の本ってきっと高いんでしょ……?」
「うーん。だったら、砂糖とお塩が欲しいのです。それと交換はどうでしょうか?」
「うん、いいよ。どっちもうちの庭になってる木の実からとれるからね」
そういえば、砂糖も塩も貴重だって言ってたな。
私の場合はサトーの実からクラフトでとれるけど、この世界の人たちはそうはいかないんだもんな。
それくらいなら、お安い御用だ。
「はいどうぞ」
私はインベントリから砂糖と塩を取り出して、ノルンちゃんに渡した。
「こ、こんなにたくさんはいただけないのです~。ちょっとだけでいいのです。どちらも大変貴重ですよ? 砂糖はかなりの高額で取引されているのです」
「うーん。でもうちにはまだまだあるし、このくらい大丈夫なんだけどな……?」
「だったら、こうするのはどうです? 次に私がきたときに、他の魔法の本も持ってくるというのは?」
「あ……! それいいかも!」
「またサクラちゃんに会いに来る口実にもなります」
「いいね! 約束ね!」
「はい、約束です!」
ということで、私たちはそんな約束をして、ノルンちゃんは街に帰っていった。
はじめて出来たお友達。
しかも、魔法まで覚えちゃった。
ノルンちゃん、また来てくれるといいな……!
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