第8話 はじめてのお友達


 私の家に初めてのお客さんが来た。

 名前はノルンさん……いや、見た目的にノルンちゃんのほうがしっくりくるな。

 ノルンちゃんはちっさくて、緑色の帽子をかぶってて、茶髪のキノコ頭の女の子だ。


「それにしても、こんな森のなかに、こんな立派なお家があるなんて、びっくりしました」


 ノルンちゃんは私の家を興味深そうに見回す。


「ドワーフさんに建ててもらったんです?」

「ううん、自分で建てたの」

「え……? サクラさんがですか……!?」

「そだよ」


 自分で家を建てるのはこっちでは珍しいことなのかな。

 まあ、エルフに建築のイメージないもんね。


「すごいのです……。女性一人で、こんな立派な家を建てるなんて……。この木材の切り口も鮮やかで、見たことないほど綺麗なのです……」


 ノルンちゃんはジロジロと家の中を物色する。


「森の中のお家なのに、新築みたいにキレイです」

「昨日建てたばっかなんだ」

「ふぇ……!? そ、そうなのですか!?」

「一昨日までは洞窟暮らしだったんだよ」

「い、意味が分からないのです……。家って一日で建つものなのですか?」

「え? 建たないの?」

「普通は無理なのです……」

「えー? 結構簡単だったけどなー?」


 ノルンちゃんの反応はいちいち大げさで可愛いな。

 家を建てるのなんて、四角いブロックを並べていくだけだから、大したことでもないと思うんだけどな。

 するとシャルが「はっはっは」と舌を出して、ノルンちゃんの足元にまとわりつく。

 どうやらノルンちゃんが気に入ったみたい。

 でも、ノルンちゃんは犬が苦手なのか、どうしたらいいかわからずに戸惑っている。

 とりあえず、座ってもらったほうがいいよね。

 

「まあ、立ち話もなんですし……とは言っても、椅子がないな……」


 ノルンちゃんを家に招き入れて、ようやくそこで、私はこの家に椅子がないことに気づく。

 そういえば、一人のときは切り株に座ったり、ベッドに腰かけたり、そもそも地べたに座ったりで、あまり不便してなかったな。

 だけどお客さんを地べたに座らせるわけにもいかんだろう。

 よし、まずは椅子をクラフトするか。


「あ、お構いなくなのです~地べたでもいいのです」

「ちょっと待ってね。今椅子出すから」

「え? 椅子を出すって……どういう……」


 私はクラフトメニューを開いた。



 ◆木の椅子

 必要素材

  ・木材ブロック×1

  ・木の棒×4



「えい……!」


 椅子を二つ出す。

 すると、ノルンちゃんは目を丸くして驚いた。


「な……!? い、いいいいい今なにをしたのです!?」

「え……? なにって、クラフトだけど……?」

「クラフト……!? な、なんなのですかそれは……!?」

「え…………!?」


 あれ……?

 もしかして、ノルンちゃんクラフト見るの初めて!?

 え、でもそんなことないよね……?

 クラフトって、この世界の人間なら誰でもできるものなんじゃないの?


「もしかしてだけど、ノルンちゃんはクラフトできないの?」

「で、できるわけないです! と、いうかこんなの初めて見ました!」

「えー……。他の人もできない感じ?」

「こんな神様みたいなこと、できる人いるわけないです! サクラさんだけじゃないですか?」

「あー……そういう感じなんだ……」

 

 うん、これで確信できた。

 この世界に、どうやらクラフトスキルなるものは存在しないようだ。

 この世界でクラフトなんてものができるのは、この私だけらしい。

 ていうか、プレイヤーだけができるって感じなのかな?


 元のゲームでも、NPCはクラフトとか知らないだろうしね。

 ゲーム的な力が使えるのは、異世界からきた私だけってことなんだろうな。

 私、またなんかやっちゃいました……!?


「あ、じゃあインベントリも使えないの?」

「インベントリですか……? なんですかそれは……?」

「あーマジか……こういうのなんだけど」


 私はインベントリから、松明を取り出した。


「な……!? なんですかこれは……!? 何もないところからアイテムが出たです……!? 魔法ですか!? 手品ですか!?」

「うーん、魔法っていうか、スキルかな?」

「ユニークスキルなのですー! はじめて見たのです! すごいです……!」


 どうやらインベントリみたいな、【ゲームにもともとあった機能】を使えるのは私だけのようだ。

 この異世界に元から暮らしている人たちは、そういった機能は使えないみたい。

 私にとってはここは、ゲームによく似た異世界って感じだけど、彼らにとってはここは紛れもない現実そのものなんだ。

 そりゃあ、驚くよね……。

 っていうか、じゃあこのクラフトもインベントリも、チートじゃん!


「ってことは……このお家もそのスキルで建てたのです?」

「うーん、そうだね」

「すごいのです! 謎が解けたのです! サクラさんはすごい人です……!」

「あ、ありがとう……」


 ノルンちゃんはまるで動物園に初めて来た子供のように、驚いてはしゃいでた。

 私のこの能力って、よっぽど規格外なんだろうなぁ……。


「ま、まあ……とりあえず座って話そうよ」

「そ、そうなのです。クラフトで作った椅子……座るのです」


 私たちはさっそく椅子に腰かけた。

 せっかくだから、机もクラフトしておくか。

 一緒にご飯食べたりもできるしね。


「えい……!」



 ◆木のテーブル

 必要素材

  ・木材ブロック×4

  ・木の棒×4



 私は二人の間にテーブルを出現させた。

 すると、またノルンちゃんは飛びあがって驚いた。


「わ……!? 今度はテーブルなのです!?」

「うん、これで一緒にお茶しようよ」


 お客さんが来たら、お茶を出すのが当然だよね。

 私は水を出して、コップに入れた。

 コップは木材ブロック×1からクラフトしたものだ。


 んで、おやつにパンをクラフトした。

 中にはリンゴを挟んである。


「こ、これは……!? パンなのです……! しかも中にリンゴが……。ふわ……焼きたてで美味しいのです……! ど、どうやってこんな焼きたてパンを!?」

「これもクラフトで作ったんだよ」

「クラフト……とやらは万能ですね~。食べ物までつくれちゃうんですね……」


 ノルンちゃんは幸せそうな顔でパンをほおばる。

 なんだかとっても可愛い。

 そっからしばらく、二人で女子会をした。

 久しぶりに他人と話したから、けっこう弾む。

 ノルンちゃんは普通の女の子って感じで、話も合う。


「そうだノルンちゃん、今日はもう遅いし、泊っていってよ」

「ふぁ……!? い、いいんですか?」

「もちろん、私たちもうお友達だし」

「ふわぁ……お、お友達……なのです……やった」


 夕飯には釣った魚に塩をかけたものを食べた。

 魚の塩焼きはめちゃくちゃ美味しかった。

 ノルンちゃんも喜んでくれた。


「塩……って、森の中でも手に入るんです?」


 ノルンちゃんは不思議そうにきいてくる。


「あれ? シオの実からクラフトしたんだけど……? シオの実、知らない?」


 私がそう言うと、


「うーん? 普通、シオの実から塩はつくれないのです……。そんなことができるのは、サクラちゃんだけかもなのです……」

「マジか……」


 どうやらこれもゲーム的な要素で、シオの実から塩をつくれてしまうのは私だけのようだ。

 そりゃまあ、そうか、クラフトだもんな。


「塩はけっこう貴重ですよ?」

「そうなんだー……」


 さて、ご飯食べたし、お風呂にすっか。


「ノルンちゃん、お風呂先に入って?」

「お、お風呂です……。いいのですか? 一緒に入りますか?」

「い、一緒には入らないかな……」


 あんな狭い五右衛門に一緒に入ったら、いろいろ大変そうだ。

 たしかにノルンちゃんみたいな可愛い女の子と一緒にお風呂入ったら楽しそうだけど……。

 それはなんかダメな気がした。


 てことで、先に入ってもらう。

 ノルンちゃんの希望で、露天風呂にした。


「では、お先なのです~」

「はい」


 さて、ノルンちゃんがお風呂入ってる間に、私はもう一個のベッドをクラフトしておくかな。

 そろそろメープルの毛も生えそろってきたからね。

 さすがに一緒に寝るのはまだ早い気がする……。


 二階で私がメープルの毛をハサミで刈っていると……。

 外からノルンちゃんの声がきこえてきた。


「きゃあああああああああああああああああ!!!?」

「ノルンちゃん……!? なにがあったの!?」


 まさかこんな森の中で覗きか……!?

 慌てて私は一階に降りる。

 すると、裸のままのノルンちゃんが外から家に入ってきた。

 んで、ノルンちゃんは勢いよく扉を閉めた。


「きゃ、きゃああああああ。助けてください!」

「ノルンちゃん……! 裸……!」

「そ、それどころじゃないです……! 外を見るです……!」

「外……!?」


 窓の外を見ると、なんと――。


 ――外には大量のゾンビがうじゃうじゃいた。


「ぎゃあああああああああああああああ!?」

 

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